名家とはすなわち何か大切な物を先祖より受け継ぎ、次の世代へと守り続けているかということだ鞍馬の家の場合は、あの鞍馬閣こそが受け継ぎ、守り続けるべきものだったのだそれを失ってしまった以上、鞍馬家はもはや名家ではない私たちが助けてやるべき家ではないのだ
ジッちゃんの言葉に鞍馬姉妹は、震え上がる
全く、残念だよこのようなことで、伝統ある名家が1つ消えしまうということは
ジッちゃんは、水島家は可憐さんの代で再興すると
企業グループは分割売却しても水島家の先祖代々の屋敷や資産は、財団化してでも、可憐さんに受け継がせると約束していた
しかし、鞍馬家に対しては
受け継いでいく価値のあるものさえなくなってしまっているからこのまま潰すと宣言している
こ、香月様そ、それはあんまりでございます
あああ、ごめんなさいごめんなさいあああっ
取り乱す妹と姉
騒がしいぞ君たちとは、話していないと言っている
ジッちゃんの態度は、どこまでも冷たい
怯えて震え上がる妹
しかし、姉の方は泣きながら
ご、ごめんなさいわ、わたくしたちがく、鞍馬の家が、もはやお救いいただけないということはわ、判っておりますで、でも
ポロポロ涙を流しながら、鞍馬美里さんは言う
わたくしたちは自業自得でもく、鞍馬閣グループで働いていただいている方たちがあの方たちを路頭に迷わせるわけにはそれだけはできません
ご、ご無礼は承知で申し上げますどうか、鞍馬閣グループだけはお救いいただけけませんか今のままではこのままでは、倒産してしまうと思いますそうなったら、おそらく皆様の退職金を支払うことすらできないのではないかと
そんな鞍馬美里さんに、ジッちゃんは
それは君でなく君の父親が、私に言うべきことだろう
高校生の娘でなくお父さんの鞍馬家の現当主が
鞍馬閣グループを経営しているのは、お父さんなんだから
し、しかしあ、あの、香月様は父とお会いして下さらないと伺いましたので
当たり前だ大金を貸してくれと言ってくるのが判っている男と、どうしてわざわざ時間を作って会ってやらないといけないのだ
で、ですから父の代わりに、わたくしとお姉様が
ありすさんも、必死にジッちゃんに言う
代わりになるわけがないだろうそういうのは、娘を使った泣き落としというのだ
確かにその通りだと思う
お前が鞍馬だったとしたらどうする
ジッちゃんは、オレに尋ねる
いや、お金を貸してくれるのがジッちゃんしかいないのならまずは、どんなことをしてでも会ってもらうように頑張るだろうけれどでも、自分で会わないと意味がないよなみすずのパーティのついでに、娘からお願いさせるっていうのは違うと思うそれと
何だ何でも思った通りに言ってみろ
鞍馬家の方から、自分の身を切るという話が何も出ていないと思う
身を切るで、ございますか
ありすさんが、オレに尋ねた
そうだよただこのままでは、みんな困るのでグループの会社を助けて下さいじゃなくってさジッちゃんにとっても、メリットのある提案をしないとさ
メリット
そうだよ鞍馬さんたちは鞍馬さんのお父さんもそうなんだろうけれど、ジッちゃんにはもうすでに充分な資産があって、権力者の知り合いもいっぱいいるからただただ一方的に自分たちの苦況を助けてくれるものだと思ってるだろ
だからお助け下さいみたいな物の言い方をする
でもさジッちゃんのとこの香月グループだってみんな営利企業なんだからさ自分にとって損な取引をわざわざやるはずないじゃないか
しかし鞍馬閣グループには
ありすさんが反論しようとするが
本体の鞍馬閣はブッ壊しちゃったんだろうけれど他にもホテルとか高級料亭とかを経営しているんだろ
鞍馬閣がなくなった以上、他の施設には価値がなくなったと、先ほどおっしゃられたばかりですわ
ありすさんが、ムッとしてオレを見る
それは、そう言うさジッちゃんの立場から安く買い叩くチャンスなんだから
オレは、彼女の眼を見てそう言う
買い叩く
驚いている美里さんとありすさん
はぁホント、お嬢様なんだな
そういう発想が出て来ないのか
鞍馬家にお金がないんだから売るしかないんだよジッちゃんは価値が無いって言ったけれどきっと、それでも幾つかのホテルや料亭は、そこそこの値が付くはずなんだゼロっていうことはあり得ない香月グループって、ホテルとか料亭の経営もやっているの
オレは、ジッちゃんに尋ねた
もちろんやっている企業もある
じゃあ、ただお金を貸して下さいじゃなく自分の持っているホテルや料亭を買って下さいっていう話だったら、ジッちゃんは鞍馬さんに会った
会わんよただ、担当の者に話を聞きに行かせはする無視はせんよ一等地にあるホテルや旅館なら、儲け話に繋がる話になるからな
で、ですがもし、今の鞍馬閣グループから、高い収益の出ているホテルや旅館がなくなれば
は、はい鞍馬閣グループが立ち行かなくなってしまいますっ
美里さんとありすさんがそう言う
いや、あのだからもう、すでにそういうレベルの話じゃなくなっていると思うんですけれど
どういうことですのっ
ツンとするありすさんに、オレは
だからもう手遅れなんですよ鞍馬閣グループは
結局、この姉妹も鞍馬家の当主もジッちゃんが動けば、鞍馬閣グループは今のまま存続すると思っている
君たちの父親は私に資金援助を求めながら、まだ外国の投資家との関係を続けているね
当座の資金を私から借り入れれば鞍馬閣の跡地に作っている高層ホテルが完成するホテルさえできてしまえば、グループ全体の経営は持ち直すそうなったら、また外国の別の投資ファンドと提携して事業を拡大しようとしているつまり、私のことは一時しのぎだとしか思っていない今後も、私たちの忠告を聞くつもりはないしいつでも、私たちを裏切るつもりでいる
そ、そんな父は
わたくしたちのお父様は
口籠もる鞍馬姉妹
仕方ないよ君たちの父親は鞍馬くんは名家から逃げ出したいと思っているんだからね
名家から逃げたい
名家の一員でいる限り私や歌晏や、他の名家の長老たちの指図を受けることになる私たちは忠告のつもりだが彼にとっては、うるさい老人たちの小言でしかないんだろう名家なんてものから抜けだしてただの実業家として、思う存分自分の力を試してみたいのだと思う
ジッちゃんの眼は暗かった
鞍馬くんのような考えは父親から当主を継いだばかりの若い連中に多い自分が名家というぬるま湯の中で育った井の中の蛙だということに気付かず、私たち老人の忠告を聞かずに馬鹿な振る舞いをしようとする者はねただほとんどの場合、臣下が若い当主の暴走を止める鞍馬くんの場合は、残念だったよ家の中に彼を止めてくれる忠臣がいなかったということなんだろうね