ハァと、息を吐く
まり子お嬢様は鳥居様のお家ということですけれど、わたくしが契約交渉を致しました家の中では、何もかも一番でしたわ他の家は特にヨーロッパの方々は、日本人とのハーフで孤児のわたくしには、とても冷たかったですから
淡々とアーデルハイトさんは言う
まあ鳥居様やまり子お嬢様にも、使用人であるわたくしへの偏見があることは事実でございます時にはムッとすることもございますが我慢できる範囲でございますヨーロッパでは、絶対に許すことのできないような酷い言葉で罵られることもございましたし
苦労しているんだな、この子も
ご、ごめんなさい、ハイジあたし
謝られることはございませんわたくしはまり子お嬢様の使用人でございますから
アーデルハイトさんは、鳥居さんから眼を背ける
もう、ツンツンしすぎですのっ仲良くしたいのなら、仲良くなりたいって言わないとダメですのっ
アニエスが、プンプンする
そうそう、あなたの心の中はボクにはよーく見えているんだからねっ
ルナも、笑っている
そうねあなた鳥居さんのこと大好きみたいですものね
あたしには月子さんみたいな不思議な力は無いけれどそれぐらい判るわよあなたの様子を見ていれば
それはオレもそう思う
鳥居さんみたいに、何でも楽しく文句を言い合えるご主人様なんてなかなかいないでしょうから
鳥居さんとアーデルハイトさんは、なかなか気が合っていると思う
だから、時々反発もするけれどすぐに元に戻れる
暴言を吐き合ったり、ケンカしたりしても関係が壊れない
ま、ソッチはソッチでやっててネ
イーディが顔をアーデルハイトさんたちの方から、天童乙女に向ける
アタシが話し掛けていたのはアナタの方ヨ
ニタッと微笑む
ソウネアナタこそ、アタシたちの仲間になるっていう選択肢もアルのネ
ふ、ふざけるなっあ、あたしは侠客の娘だよっ仁義を捨てるはずがないだろっ
天童乙女が、そう叫ぶが
アイツとしか呼べないような父親に義理立てして命を捨てに来る娘はいないネ
天童乙女にとって父親は自分の兄貴分への義理を果たすために、母親をレイプさせたような人間だ
そして、母親は天童乙女を捨てて家から出てってしまったんだ
さっきから父親に対しては恨み言しか言っていない
父親のメンツのために、命を捨てる覚悟をして香月家に潜入して来たのは変だ
そ、それはあたしは、あたしの仁義のために、こうしてるだけさ
天童乙女自身の仁義
アナタの父親はヤクザネ、キョーカクネデモ、アナタ自身はヤクザでないそれなのにジンギなのカ
う、うるさいねっあたしのことなんかどうだっていいだろ
天童乙女はまだ何かを隠している
あたしの心の中のことはこの女の変な能力で丸見えなんだろ下らないことやっていないで、さっさと調べればいいじゃないかっ
あらまだお判りではないんですの
月子が、天童乙女の背後から囁く
わたくしたち公様のご命令で、乱暴な力の使い方は一切しておりませんから
ニッと優雅に微笑む
な、何なの力って
鳥居さんが、食い付いてくる
ああ、もういいわね旦那様鳥居さんに説明してしまってもよろしいですわね
うんいいたと思うよ月子
月子が、うなずく
わたくしたちは人の心を読んだり、人をわたくしたちの命じるままに従わせる力がございます
心を読む方は、何となく判っていたけれど従わせる力もあるのねあっ、ていうことはキョーコ・メッサーとのエキシビションで使っていたのは
鳥居さんが、美智たちの方を見る
わたくしやイーディの技はあくまでも気の力の応用です
ボクとヨミお姉様のは月子お姉様と同じ力です
ルナが、そう答えた
ただし、この力は慎重に使わないと、人の心に大きな傷跡を残してしまいます
人の心は小さな水槽の中の水だと考えて下さいわたくしたちの力は、その水槽の中の水をかき混ぜるようなものです
心は器に入れられた水のようなもの
日常生活での行動などは表層部分で絶えず対流していますしかし、大事な思い出などは水槽の下の方に沈んでいます澱みのない落ち着いた水底に大切に保存されているんです
今、わたくしはこの方の身体能力を制御しておりますが、こんなことは表層部だけの操作ですから心の奥底にまでは影響致しません
ああ、身体を動かすなんていうのは日常のことだもんな
しかし、心の深い部分に関してはもちろん、わたくしたちの力を使えば、底に沈んでいる記憶を無理矢理に浮かび上がらせるようにすることもできますしかし、そんなことをしてしまったら心というもの全体を、手荒にかき混ぜてしまうということですから
ああ記憶も意志も、心の中が全てグチャグチャになってしまうのか
はい心を入れた器そのものにヒビが入り、割れることもあります清美様の時の様な障害が起こります
一度巫女の力で捻じ曲げられてしまった心は、元には戻らない
自滅するしかない
だから、わたくしとても慎重に、あなたの心を掴んでいますわ
月子が、天童乙女に言う
ヅカヅカと、あなたの心の深層に手を突っ込んであなたの真実を知ることは簡単ですが、そういうことを公様は嫌われますから
うん、兄さんはお姉さんのことも死なせたくないって思っているんだもんね
あたしを殺したくない
オレは嫌なんだよ他人のメンツとか、馬鹿みたいな考えで死んで来いって言われたから死にに来たとか、そういうのはさ
オレは、吐き捨てるようにそう言う
オレたちはさ、そんな下らないことのために生きているんじゃないんだからさ
く、下らないって言うのかいこのあたしが
ああ、下らないねこんなこと許せないよ
と、公様はおっしゃっていますわですから、天童乙女様、申し訳ございませんがあなたが心の深層で隠していらっしゃることを、ご自分で表層へ浮かび上がらせて下さいませんか
あなたは関西の方ですから、わたくしたちの力については、あらかじめご存じですわね
そう天童乙女は、最初から巫女の力の存在や能力を知って来ている
そして、あなた自身ある程度、気が使えるお方ですからそうやって、心の深層に秘密を隠したままでいられるのですねいやそういうことができるからこそ、あなたが潜入役に選ばれたそういうことですのね
月子が読み取っていく
天童乙女は気の力で必死に、何かの情報を隠そうとしている
あたしは知らないよ何も知らないっ
天童乙女は、ブンブンと首を振る
知りたいことがあったら、あたしの心をブチ壊して調べればいいんだよっ
それはできませんわそれはあなたを殺すのと同じです心が壊れるというのは、死ぬのと同じことですから