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単純に古い鞍馬閣を、最新式の高層ホテルにした方が儲かるって思ったんじゃなくって先祖代々、受け継いで来た鞍馬閣を守り続ける人生が嫌になったってこと

おそらく完全に破壊してしまえば、過去からの因縁から逃れられると思ったのだろう馬鹿な話だ先祖から受け継ぐ物があったからこそ、名家の一員として豊かな生活を享受してきたというのに

鞍馬さんのお父さんは、自分の意志で由緒ある鞍馬閣を破壊した

名家に生まれたしがらみから、逃れたいと

それなのに資金に困ったら、名家のツテを頼って、ジッちゃんに救済して欲しいと言ってくる

だからだよ私は鞍馬くんを許すわけにはいかない私たち老人の忠告を聞かなかったら家が潰れようが、企業が倒産しようが絶対に助けないという前例を作らねばならないそうしなければ今後、また似たようなことが起きる

ジッちゃんたち名家の人たちが残すべきだと思っている先祖代々受け継いできた物を

若い世代の当主たちが、気軽に処分しないように

勝手なことをしたら、絶対に助けないというメッセージを出さないと

わたくしはわたくしだって、あの古い鞍馬閣が大好きでしたあそこには、亡くなったお祖父様たちとの思い出もございましたでも

鞍馬ありすさんが、ジッちゃんを見る

なぜ、古い物を残さないといけないのですかわたくしにはお父様のお気持ちも判ります新しい時代なのですから、新しい物を作っていくことだって必要ではありませんか

君のように若い人間には、判らないことなのかもしれないただ1つの現実があるどれだけ素晴らしいホテルを建て直そうと、古い鞍馬閣の方が価値があったということだこれだけは絶対に覆らんよ

何故です新しいホテルだってお父様が一生懸命なさったら、古い鞍馬閣の価値を上回ることができるかもしれないではありませんか

ありすさんはそう言う

無理だね古き物とはそれだけで、充分な価値があるのだよ

キッパリと、ジッちゃんは答える

どんな物もいずれは失われる人は死ぬ物は壊れる永遠に残るものなど、この宇宙にはないいや、宇宙そのものにさえ終わりがある

エントロピーという言葉を知っているか

そんなの初めて聞いた

物質は、エネルギーに変わるエネルギーに変われば、失われるお前は、毎日何キロもの食料を食べるが、お前の体重はそんなに変わらないでは、食べたはずの物質の重さはどこへ行ったのか答えは、エネルギーに変換され消滅してしまった

判るかね人間が物を食べて活動する度にエネルギー化された分だけ、宇宙から物質が消える火もエネルギーだどんな物も燃やせば消滅するいや、ただこうやって座っているだけでも風が触れるだけで、摩擦熱が起きる熱になることで物質は減っていくこの世のあらゆる物質はいずれエネルギーとなり、消滅する宇宙は誕生して以来、どんどん消滅し軽くなっているのだいずれは何もかもが消えゆく運命にある

あの鞍馬閣は約百年の歴史があった当時の美術・工芸の粋を集めて作られた建物と庭が百年の時を経て、現存していたのだそれがどれだけ価値のあることだったのか君には判らないのか

鞍馬ありすさんは、ウッと息を呑む

物は失われる無常だだからこそ私たちは、古き物をできうる限り、後生に伝えていかねばならないのではないか特に、先祖より古き物を託された私たち、名家の人間は

ジッちゃんは、ハァと大きく溜息を吐く

いや鞍馬閣は、もう失われたのだな守るべき古き物を失くした鞍馬家はもはや名家ではない

も、申し訳ございませんでしたぁぁ

鞍馬美里さんが、椅子から床に這いつくばりジッちゃんに土下座した

激しく泣きじゃくりながら

ありすさんも、慌てて床に膝を付く

ありすも香月様にお詫びなさい

でもじゃありませんわ

だけど香月様にお詫びしてももう、鞍馬家が潰れてしまうのなら

あらそれは、あなたたち次第だと思うけれど

ミナホ姉さんが動き出す

水島さんの件をあなたたちは見ていたのではなくて

ニヤッと、姉妹に微笑む

経営していた企業グループは全て失うことになっても水島家は、名家として生き残ることが許されたわただし今後の水島可憐さんの働き次第でしょうけれど

ジッちゃんは、20歳になったら可憐さんを水島家の当主にして、名家の一員に復帰させると約束はした

ただしそれは、可憐さんがみすずの臣下として、ちゃんと働いたことを認められたらで

可憐さんが忠実な臣下でなかったら約束は守られないだろう

わ、わたくしたちも香月家の臣下になれとおっしゃるのですか

気の強いありすさんが、ミナホ姉さんに言う

臣下になんて、なれるはずがないでしょ

鞍馬家がしたことは水島家以上の大罪なのよ鞍馬閣は、名家の皆様にとっても、思い出の多い大切な場所だったのだから

大切な聖地が勝手に壊されてしまった

ジッちゃんたちの再三の忠告を無視して

水島家は、罰として一定期間、名家としての地位を失うだけで済んだのよ可憐さんの臣下降格はいずれ、名家に復帰するということが前提になっているんだものでも、鞍馬家は自ら、名家の地位を放棄したと見なされているわけですから

ミナホ姉さんの言葉に、鞍馬姉妹はお互いの身体を抱きしめて震え出す

ではわたくしたちは、どうしたら良いとおっしゃるのですか

頑張ってそう尋ねるが、ありすさんの声も震えていた

陰徳を積みたまえ

イントク

鞍馬閣グループの優良な施設は、買い取ってやる香月グループだけでなく、他の名家にも口をきいてやる買い叩きはせん適価で買おうそうでないと、外国資本が買い取ろうとするだろうそれは避けたいすでに、君たちの父親のところにに国外からの話が来ていることも知っている

別に構わん営利企業なのだからより良い条件を出したところに売りたいと思うのは当然だろうただの商売人なら、そう考えるはずだ

ジッちゃんはもう、姉妹の父親を名家の一員ではなくただの商売人と言い切った

だから、外国の連中よりは高く買ってやる従業員も、そのまま全員雇用し続けるそれも約束するしかしこれは、名家の人間同士の助け合いではなく、ただのビジネスだ香月グループとしては、それ以上のことはするつもりはない

で、ですがそれでは鞍馬閣グループには、業績の悪い施設しか残りませんし売却で得たお金だけでは、現在の苦況を乗り切ることはできません

鞍馬美里さんは、ジッちゃんにそう言う

そんなことは私は知らんよビジネスにならないことを香月グループはしない