そらに、竹芝キャプテンは平沢を追い詰める
趣味じゃねぇっ、命を捧げた表現活動だあっ
うわぁぁ地団駄を踏む人って、初めて見た
もういいようるさいなそれで結局、あたしたちにどうしろって言うんだい
呆れて竹芝さんが、そう言うと
オレたちはーっ、お前たちにーっ、要求するッひとーつ、お前らが壊したこいつらの楽器は弁償しろッ同じモノを買って返せっふたーつ、こいつらのステージ用のカツラも購入しろッ学園祭まで、日が無いんだからなっ
断る
竹芝さんは、鋭く答えた
話は終わりだムダな時間だったねさあ、みんな練習に行くよっ
竹芝さんは、そう周りの女子部員たちに告げるが
待ぁぁて、待て待て待て待て待ちやがれ、コラァッ
慌てて、平沢は竹芝さんの前に飛び出す
ああぁんまだ何か用があるのかい
勝手に話を終わらすんじゃねぇこの野郎っ
あんたもブッ飛ばされて、頭にバリカン掛けないと判らないのかい
竹芝さんが、そう言うと
おおお、オレは無抵抗主義だぞ無抵抗で反抗の意志を示す鑑真和上だ
悪いけど、時間がないから突っ込まないよ
スルーするんじゃねぇ、オレが馬鹿みたいだろっ
いや、もう充分に
デ結局、アンタ、腕はイイノカ
横から、イーディが尋ねる
う、腕
ミュージッシャンとしての腕前ネ何か、イロイロ言ってたケド、腕が伴ってないのなら、カッコ悪いネ
そうだよな、ロック魂とか言ってまともに弾けないんじゃ、カッコ付かねえよな
コミケじゃなくてよお前ら、ライブとかしてんの
去年の学園祭とかでも、全然印象に残ってないぞ
ギャラリーになっている男子の運動部員たちから、そんな声が上がる
ギター、もうないノカ
困惑する平沢
平沢さんのギターが部室にあるじゃないですかオレ、持って来ましょうかっ
丸坊主軽音部員が、平沢に言う
馬鹿っ、黙ってろムギ
慌てて、そいつの口を塞ぐ
えー、こいつはうちの2年生でコトブキ・ムギって言うんだ親がキレンジャーとダーティペアのファンだったから、そういう名前を付けられたらしいんだが
話を誤魔化すんじゃないよ
竹芝先輩が、ニタァッと微笑む
面白いねえそうだね、その子の言う通りあんたに一曲弾いてもらおうかロック魂だの、楽器はミュージッシャンの命だの、偉そうなコトばかり言ってたけれどこれで大した腕じゃなかったら、ただじゃ済まさないよ
平沢さん、ギター、持って来ますか
馬鹿、持って来るんじゃねえっ、ムギぃぃぃ
あるよ、ギター
1人の運動部員の女の子が言う
ワンダーフォーゲル部の部室に、アコースティックだけど
あたし兼部してるから、鍵持ってるよ
持って来て、持って来て
ダダダダッっと、女の子たちが部室棟の2階へ行き
ケースに入ったギターを持って、降りてくる
はい、竹芝先輩
竹芝キャプテンは、ギターケースを開け中の楽器を取り出す
うん、弦もちゃんと張ってあるね
そして、平沢に
弾いてみな
グッと、押し付ける
うぇぇぇぇぇぇ
ギターを渡された平沢は、顔中に汗をかいている
ほら、みんな静聴だよっ
部室棟の前の生徒たちが、全員、平沢に集中する
ひ、平沢さん
こうなったら、平沢さんの秘技を見せてやって下さい
いつもオレらに話してくれている伝説のスリー・フィンガー・ピッキングを
実際には、一度も見たことがないですけれど
軽音部の部員たちにも、そう言われて平沢は
お、おうみ、見てろよ、この野郎っ
腹を括ってギターを構える
あっ、ワン、ツーワン、ツー、スリー、フォー
全員が絶句した
平沢の奏でる、たどたどしい音色は
ね、ネコ踏んじゃった
ぎ、ギターで
ある意味スゴイかも
馬鹿、オメエらこれだけじゃねぇぞ
平沢が次に弾いたのは
ドナドナ
悲しいね
あたし、寒くなってきた
平沢は演奏を止め
仕方ねえだろオレはヴォーカルなんだよっ普段は、ギターは弾いてねえんだっ
慌てて、そんなことを言い出す
オレはなバンドやろうぜヴォーカル以外、全パート募集ってメンバーを集めてバンドを組んでオレ以外の全部のメンバーに音楽性の違いで脱退された経歴を持つ男だぞ
ヴォーカルもダメなんじゃ
もういいよもうたくさんだあんたの顔はもう見たくないねあたしの前には、2度と姿を現すんじゃないよ
竹芝キャプテンが、厳しい顔でそう言う
それ以上喋ったら殺すよ
ヤバイ、このままじゃ血の雨が降る
ギター、貸してネ
イーディが笑って平沢に手を差し伸べる
お、お前弾けるのかよ
イーディはニューオリンズの暗殺教団で生まれ育った
そこは、色んな年齢の人たちが居たはずだから
ギターも習っていてもおかしくはない
だいたい、イーディは何でもできる超天才児だし
アメリカにだって、ギターはあったネ
スッと、平沢からギターを受け取り
ハンコレチューニングが狂ってるヨ
一弦ずつ音を鳴らしながら、コキコキとギターを調整する
全く動きに迷いがない
オーケー、コレでいいネ
ジャランッとイーディが鳴らした音は今までと全然違っていた
ウン、良いギターネ
そして、イーディは部室棟前のコンクリの塊に座り、ギターを弾き始める
最初の1音から背筋に戦慄が走った
オオオーッ
そして力強いギターの音に合わせて歌い出す
オレの知らない、英語の歌だ
しかし、イーディの歌と演奏に部室棟前の生徒たちは引き込まれた
寂しそうな音色の寂しそうな歌
それでいて、生命力を感じる
そんな美しい音楽
イェェェー、アアーッ
あっという間に、イーディの演奏は終わった
凄―い
イーディさん、歌、上手―い
ギターもよ
今のって、ブルース
男子よりも先に、女子生徒がイーディを取り囲んだ
ソウヨ、WALKING BLUESネ
ニコッと微笑む、イーディ
おおお、お前が何でロバ・ジョンを知ってるんだよ
軽音部長・平沢がガクガクと震えながら、イーデイに言う
アンタこそ、ROBERT JOHNSON を知っているノカ
お、オレは何でも浅く広く知っているだけの男なんだよっ
知ってるだけなのかよっ
アタシ、ニューオリンズ生まれヨミシシッピのデルタ・ブルースを知ってるのは当たり前ネ
そのロバート・ジョンソンてのは有名な人なのかい
竹芝先輩が、イーディに尋ねる
十字路で悪魔に魂を売って、ギターのテクニックを手に入れたっていう伝説のブルースマンなのネ死因も他人のオンナに手を出して、毒殺されたっていう話になっているケレド、実はよく判らないっていう謎の人なのネ