ハイジが、そう言う
マスケット銃の先に剣を付ける銃剣が発明されたのよそれまでは銃兵と槍兵を別々だったけれど近接戦闘になったら銃に銃剣を取り付けて対応することで、全ての兵を銃兵にすることができるようになったのよ
ヨーロッパ各国の生産力が上がったことで、兵士たちに銃を行き渡らせることができるようになったことも大きいですそれ以前は、高価で複雑な構造の銃を大量に用意するのは大変でしたから槍の方が銃よりも安く簡単に作れますし
つまり、ヨーロッパでは槍は銃剣になったのよ
長い銃の先に刃物を取り付けて敵を刺したり、切り裂いたりする武器
現在の小銃は、取り回しが楽なようになるべく小さく、短い構造になっていますけれどそれでも世界中の多くの国が正式採用している小銃には、今でも銃剣が取り付けられるようになっているものが多いです銃剣で闘う訓練も近接戦闘は戦闘用ナイフに切り替えてしまった国も多いですけれどまだまだ行われています
ナイフよりも、リーチがありますからアメリカ陸軍では2010年で銃剣を教えるのを止めてしまっているけれど、海兵隊の方はまだ銃剣による格闘訓練を続けていますイギリス軍に至っては、フォークランド紛争でも、イラク戦争でも、アフガニスタンでも銃剣による突撃を実戦で行っています
21世紀になっても、まだ銃剣は使われている
現代では槍そのものは使われなくなったけれど槍の技は、銃剣に受け継がれているんです実際、日本でも明治に西洋の軍事技術を採り入れた時に銃剣も採用しましたけれど銃剣術として確立するのに、日本古来の槍術を参考にしています
それは、つまりわたくしたちの栗宮流槍術では、もはや時代に合わないということですか
栗宮さんが真顔で尋ねる
実戦に使う武術としては申し訳ありませんが銃火器がある時代には、槍は武器の主流になりません
レイちゃんは、キッパリと言い切った
古い形の武術を現代に伝えるという伝統保護ということなら、意味があると思いますが栗宮様の槍術そのものは、実戦では使えません
気の技が使えるのはスゴいと思いますけれどそれって別に、槍がなくても使えますよね
木下さんが笑顔で、そう言う
どうしても槍を使わないといけないってことでかえって、技の幅が狭くなってませんかわたしなら、もっと実践的なことを考えますけれど
木下さんは、自分の手にしている練習用の槍を見て
例えば槍の形をしてなくてもいいんですよあなたぐらいの年頃の女の子が、持ち歩いていても変じゃないものそうですねぇ例えば、日傘とか、ラクロスのラケットとか、ちょっと長めのモノを使ってモンモノじやなくって良いんです中身は特殊な金属とかを仕込んで、戦闘用に強化するんですけれどそういう武器を持ち歩けば、槍で学んだ技が流用できますよね
後は、わたしみたいに一般の人には何だか判らないものを平然と持ち歩くとか
木下さんは、練習用の槍を地面に置いて中庭の花壇のところに立てかけてあった粉砕フレイルを取りに行く
長柄の先に鎖と鉄橋の付いた重い武器は持ち上げると、ジャラリと鳴った
これも色とかに気を遣っているんですよーパッと見だと、武器だって判らないように
なるほど柄にピンクや青のラインが入ってたりする これだけでも、世間の人の眼を誤魔化すことができるんだ
ご自分の技を現実社会の中で活かしたいと思われるのなら現実社会の方に合わせないとダメですよ剥き身の槍を持ち歩いて許される国なんて、今はあり得ないんですから
木下さんは、クククと笑う 今のままの栗宮流槍術では古臭い武術としての歴史的価値しかない 今の時代に合わせるのなら、色々と考えないといけない
おっしゃることの意味は判りましたわ
栗宮さんはうつむいて言う 臣下の御厨さんが、心配そうに主を見た
でも、心では納得できませんかこうやって、結果が出ても
レイちゃんが、優しくそう言う
後は栗宮様の槍術を完全にスポーツ化して、一般に普及させるという道もございますが現代の一般の方たちに受け入れていただけるようにするためには、やはり元の槍術に手を加えることになります栗宮家に代々継承されてきたままの槍術では、普通の人たちのスポーツにはなりません
それもその通りなんだよな 武術の根幹である敵を殺す技という部分を削らなくてはいけない
藤宮さんは栗宮流槍術は、このまま途絶えてしまうべきだと言うのですか
栗宮さんは、強く言う
そんなことは申しておりませんこれからも栗宮流槍術を残していかれるおつもりならどんな形で遺されるのか、栗宮様がご自身でお決めになられるべきだと申し上げております
レイちゃんはきっぱりと言う
栗宮家のご先代様のように先祖代々の技を、そのまま、お孫様にお伝えして後のことは託すという方法もあります
お孫様というのは栗宮素子さんのことなんだろう 栗宮素子さんと御厨くるみさんだけが先代から栗宮流槍術の全てを学んだ 同じように素子さんも、自分の子や孫に江戸時代のままの技を伝えて その技をどうするかは、子孫に丸投げするという手もある
今ですら栗宮家の中で、槍を積極的に学んだのはわたくしとくるみだけですわたくしたちのことを苦々しく思っている者も家中には多いです名家としての体裁を保つためには、槍術は捨ててしまうべきだと直接言われたこともあります
今のままでは栗宮家の中で、槍の稽古をすることも禁じられてしまうと感じていますしかも、わたくしは女他家に嫁に出されるわけですし栗宮家本家の後継者に槍を教えることは許されないと思います
つまりこのままでは、栗宮素子さんの代で槍術の伝承がストップする可能性が高い
ですから黒森様の側室にしていただいて栗宮の名を受け継ぐ子供を産み、その子に槍術を伝えたいと思ったのですわ
側室なら、正式な結婚をするわけではなから栗宮さんの姓は変わらない 子供にも、栗宮の名を伝えることができる
気持ちは理解できますけれど少し勝手過ぎるとは思いませんか
ずっと栗宮さんの話を聞いていた、みすずが口を開く
それはみすず様のおっしゃる通りだと思いますがわたくしも、切羽詰まっておりますので
でも、あなたのお話は全て、あなたのご都合だけですわたくしたちの家に持ち込むのは、迷惑だわ
みすずは、強くそう言う 栗宮さんは、ガクッと中庭の地面に膝を付く 慌てて御厨さんが、主人に駆け寄った 取りあえず、これで 栗宮さんを負けさせることには成功した 問題はここから、どうするかだけど ドリィとアナがいつの間にか中庭に出ている ドリィが、木下さんが地面に置いた練習用の槍を持ち上げて