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かといって、古の技をそのまま受け継いでいけば良いというものでもありません武術もまた生き物ですから、時代によって変化も致しますいえ時代に合わせて変化させなければ、武術でなくただの伝統芸能になってしまいます

栗宮流槍術の場合昔ながらの美しい朱塗りの槍で闘う技ら関しましては、もはや芸能でしかありませんその様な槍を持って闘うことが、現代においてはあり得ないことになってしまっているからです

 昔ながらのホンモノの槍は持ち歩くこともできない

実践武術として再建するのなら先ほど、麗華お姉様が示されたように、暴漢対策としての棒術に栗宮流槍術の技を活かすとか、そういう方向性に向かうしかありません

 ああさすまたみたいな長柄の武器は、最近になって見直されて使われるようになったと言っていた

あるいは、完全にスポーツ化するのであれば持ち歩く易く、危険の無い競技用の槍を開発して、それに合わせた技に特化させるべきです今の栗宮流槍術の槍は長すぎますし、普通の人間が取り回しをするのは難しすぎますからもっと軽い素材で、短めの槍に変えなくてはこれも麗華お姉様が、香月セキュリティ・サービスで使用している稽古用の槍をわざわざお持ちになられて、実状を示されました

 ああ、あのカーボン製の槍は普通の人が使い易い重さとサイズで作られているんだ  香月セキュリティ・サービスの一般警護員の研修で使っているものなんだから

つまり、栗宮様はこれから栗宮流槍術をどうなさりたいのか、まずは方向性をお決めにならないといけないのですいずれにせよ、今のままの槍術を守り通すことは難しいのですから

 美智は、はっきりと言う  武術として生き残らせるなら、実戦に使えるものに手直ししないといけない  スポーツ化するにしても、今のままでは無理だ

今のままの槍術ならば受け継ぐ人間はいないでしょう栗宮様がご自分のお子様に伝承したとしてもいずれ途絶えます伝統芸能としての価値しかないのですから

 戦国時代のままの槍を持って闘うなんてことは、もう無いのだから

10年ほど前に、日本の芸能の保護を目的とした芸能基本法という法律ができたのですが、当時の権力者であった政治家が相撲の立ち合いや剣道の蹲踞も芸能のうちだと無理にねじ込んだため、武道も芸能の範疇に入れられてしまったことがありますすなわち使われなくなってしまった古い武術は伝統芸能なのです

それならば、本当に伝統芸能にしてしまうという手もあります日本古来の美しく飾った槍で華麗な技を見せるということだけに特化するという方法です他の武道でも型だけを示す競技では芸術性を評点に加えていることもありますし

 闘うための技から見せる技に変化させるのか

栗宮流槍術を生き残らせるためには、そういう選択もあるということです

 美智の言葉を、栗宮さんは真剣に聞いている

後は、栗宮さん自身の選択だよなどういう風にするんでも、オレたちに協力できることがあれば、手伝うからさ

それはいけませんわ

栗宮様は、わたくしたちの家族ではないのですから黒森様がお助けするべきではありません

いえ、すでに栗宮様は、黒森様に多大な迷惑を掛けていますお返しするべきものを、お返ししてからでなければ次の援助は得られないと考えて下さい

 まあ栗宮さんたちが、この屋敷に押し掛けて来ていること事態が  迷惑と言えば、迷惑だ

香月家や歌晏家、あるいは狩野家といった家には、名家の中で起きた問題を解決する義務があるのかもしれませんが現在の黒森様には、そのような義務は無いのですから

 オレは黒森家の人間であり  香月家とは関係しているけれど名家に属しているわけではない

今のように美智さんにご相談なさることだって本来ならば、相談料をいただくべきことだと思いますわ

 桜子は、厳しく言う

わたくしはどうやって、黒森様にご恩をお返しするべきなのでしょうか

 栗宮さんが、桜子に尋ねる

さあそれは、栗宮様がご自分でお考えになられることですわ

 桜子の答えは冷たい

ただ、栗宮様が黒森様になら、どれだけ甘えても構わないと思われて今まで行動なさっていたことは、わたくしたちにとっては非常に不快だったと申し上げておきます

 桜子の言葉に、栗宮さんはビクッと震える

栗宮様のご都合で気軽に側室にしていただけるような方ではないのですわわたくしたちの黒森様は

私の部屋のクーラーは、30年間以上ずっと使い続けていたものですが

ついに壊れました

暑い、暑すぎて死ぬ

1325.槍よさらば / 自立のススメ

確かに側室として栗宮さんたちをここに迎え入れるのは無理なんだよな

桜子の言う通り黒森家にとっては、リスクばかりでメリットが無い

 みすずのパートナーであるオレが、名家の令嬢である栗宮素子さんを側室に迎えると公表することは  香月家以外の名家の人たちの反感を買う可能性が非常に高い

でも、オレは栗宮さんの槍に対する情熱は素晴らしいって思っていますだからできる限り、栗宮さんが栗宮流槍術を続けることができるように協力してあげたいという気持ちに変わりはないですよ

 協力はしてあげたい  しかし、オレに何かできるかと言えば選択肢は少ない  さて、どうするか

いけませんわ何の見返りも無しにそんなお約束をするのは

 桜子が、オレにそう言う

桜子、意見を言ってくれるのは構わないが何をどうするかはオレが決める

 穏やかに、オレは言った  桜子は、慌ててオレに頭を下げる

いや、いいんだ桜子はこれが自分の役目だと信じてしてくれたのは判っているから

 香月家のみすずや、黒森家の当主であるミナホ姉さんが栗宮さんに厳しいことを言うのは角が立つから  名家・狩野家の令嬢である桜子が、代わりに栗宮さんに話をしに来てくれたんだ  そのことは評価してあげないといけない

それに、桜子人に見返りを求めるのは恥ずかしいことだよ

 オレは優しく、桜子を見る

人に何をしてあげたからって、相手が何かを返してくれるとは限らない何かお返しがあって当然だと思うのは間違っているよ恩着せがましい人間になってしまうから善意の押しつけは、悪意でしかない

 栗宮さんたちを受け入れることに、メリットは無いが  だからって、何か見返りはないのかと強要するのはおかしい

そうですわね桜子が間違っておりました

 桜子は、素直に自分の非を認めてくれた

ただ栗宮さんにも、今回のことは、対等な取引では無かったということは判って欲しいと思うよ

栗宮さんは、自分たちがオレの側室になることとで栗宮流槍術を保護してもらえると思っていた