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 キョーコさんは、イーディに振り向く

冷戦時にアメリカ陸軍が保有していた、歩兵部隊が使う核兵器ネ

 イーディは、するりと答える

馬鹿な武器ヨ射程距離が2キロしかないから撃った兵隊は、自分が発射した核兵器の爆発でほぼ確実に死ぬネそんな冗談みたいな核兵器を、アメリカ軍は2100発も製造して、実戦配備していたのネサスガに今はもう使ってないけれど

凶悪な大量破壊兵器ってのはなかなか使いづらいものなのささて、ここにそのM-388とごく普通のナイフがあるとするM-388を使えば、絶対に眼の前の敵は葬り去れる核兵器だからねその代わり自分も確実に死ぬし、周囲の人たちも巻き添えにする一方、ナイフは攻撃力としては、核兵器には遠く及ばないだけど、1人の憎い敵をブッ殺すならナイフ1本で充分だ

 キョーコさんは、グレースさんの眼を見て笑いながら言う

強さって何強くなるっていうことは、どういうことなんだいある視点から見れば世界最強のアメリカ軍を自由に動かせるアメリカ大統領が一番強いってことになるよね素手同士の闘いなら世界最強の人間も、巡航ミサイルには敵わないそうは思わないかい

わたしには、わたしが信じる強さがある

 グレースさんは、そう言うが

それは結構何を信じるのも、あんたの自由だそれは別に、どうでもいいんだけどさ世の中にはあんたちとは違う視点から物事を見ている人たちが居て、あんたとは違う基準で生きているっていうことを認めた方がいいんじゃないかと思うよ

し、知っているそんなことは

そりゃ知ってるだろうさだけどあんたは、他人の価値観を認めてないじゃないか

 キョーコさんは言った

だから、判っていないんだよ自分がどれくらいマルゴに差を付けられているかが今のあんたじゃどれだけ本気になって、必死に鍛えたってマルゴには追いつかないよマルゴだって、さらに上を目指しているんだからさ

 ああマルゴさんも、日々、鍛錬している今日よりも、明日の方が強くなる  グレースさんが、自分の強さを追い掛けて来るのを待っているわけがない  マルゴさんの目標は男に勝つことなんだから

何でここにマルゴが居ないと思うあの子は身内ではないあんたに自分の手の内を見せたくないのさそれくらい慎重な子だよあたしの弟子だからね

 そうだマルゴさんは、みんなの朝の練習に参加していない

慎重なのは、キョーコも同じネ今だって、ジュンがプロレスラーだったからって、プロレスの技で遊んであげただけネキョーコは、本気の力の100分の1も出してないヨ

それは判っているんだよこの子もだから、こうやってあたしの話を聞いてくれてるじゃないかこの傲岸不遜な子が

 キョーコさんの言う通りだ最初の完全に牙を隠していた時のキョーコさんを、グレースさんは舐めてたもんな  今は取りあえず、ちやんと話を聞いてくれている

肌では判っているさあたしが、かーなーりヤバイ女だってことはあれだけ何度も組み合ったんだからね

 ジャーマン・スープレックス・ホールドで倒される度に  キョーコさんの尋常では無い、強靱な肉体を感じたはずだ  底抜けに強い人だということが

でも、肌いで感じ取ったからって素直に頭に受け入れられるわけではないからね特に、この子みたいな子は

 キョーコさんは、グレースさんを見て苦笑する

なまじ素地が良すぎるからね体力お化けだから、今まで大抵のやつには簡単に勝てたんだろちょっと強い相手にだって、体力勝負に持ち込めば何とかなったんだろうしそれでも敵わなきゃ、少し努力して相手の技の研究でもすれば容易に勝てるようになったんだろうま狭い、日本の女子プロレスの世界じゃね

 だから、グレースさんはきちんと負ける経験をしてきていない

それでプロレスの世界が物足りなくなって、飛び出して来たのも判るけれど外の世界は生温くないからねあんた以上の素質の持ち主体力モンスターだって上には上がいるしかも、素質の良い人間に限ってさらに高みを目指して努力を続けているものなのさ

 うなだれるグレースさん

そういう連中に、自分が負けていることを認めるのは辛いと思うよ今の自分を否定することになるんだからこれまでの自分の人生までが否定されたみたいに感じて、自分の価値が失われるように思うかもしれないそれでも認めるしかないのさそうでないと、前に進めなくなるよ

 キョーコさんにそう諭されてもグレースさんは

あ、あなたにわたしの何が判るんだッ

 と、激しく反発する

あたしには判らないさあんたのことなんて

 キョーコさんは、笑ってそう言う

あたしは、キョーコっていう人間の人生しかやってきてないからねアンタのコトなんて知らないよでも、自分が体験してきたことから若いあんたに忠告することはできるんだあんた今、幾つだい

に、21

 グレースさんは、小声で答えた

ふんじゃあ、まだ修正は効くはずだよ充分、間に合うきちんと敗北を知るんだね

 キョーコさんは、そう言うと

イーディの頼みだから、あたしが話してやったんだイーディはこんな風にいつもニコニコしているけれど、本性は信じられないくらいドライだからね見所の無い人間には手は貸さないんだよ

アタシが負けを認めさせてあげることもデキルケドそれだとショックが強すぎて、ジュンが再起不能になるかもしれないと思ったノネ

 イーディは、ヘラヘラ笑いながら言う  確かに年下で、体格もグレースさんよりずっと小柄なイーディにコテンパンに負けたら相当なショックを感じるだろう

アタシはキョーコみたいにネチネチといたぶるようなコトはできないしネ

おやおや、人聞きの悪いあたしのどこがいたぶってるって

 キョーコさんは、笑って言う

ま、レスラーに何度も同じプロレス技を仕掛けて凹ませるのは良い趣味じゃないかもしれないけれどさしょうがないだろあたしが全力で仕掛けたら一発で失神しちまうから、負けた記憶する残らないことになるし下手したら、この良い素材をスクラップにしちまうことになるだから、力を抑えるしかなかったんだ

良く判るネアタシも、一昨日の格闘技大会の時、そうだったネ

 イーディは力を抑えていたのに、優勝した

アタシの技は、暗殺教団のものネルールなんか無い世界で、いかに確実に相手を倒すかなのヨルールのあるリングの上で、相手を殺さないように、深刻なダメージを与えないように倒す方が神経を使うネ

 イーディの言葉に、キョーコさんは

それなら、あたしのストレス解消に付き合いな1分だけでいいから

イイヨアタシもストレス解消させて貰うネ