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お兄ちゃん、こっちとこっちどっちが先

3番のオーブン、焼き上がりましたわ

 オレは焼けたパンをパッドに詰め次のパンを焼く準備に入る  テニス部の女の子と並んで、石神瑞希がオレたちの作業を見て呟いた

はい、コーヒーどうぞ

 克子姉が、石神瑞希にコーヒーを出した

それとこれ、あたしたちが焼いたパンです試食して下さい

 今焼けたばかりのパンも

わたしもいただきましたが、とても美味しいんですよ

 黒瀬さんが、石神瑞希に言う  愛が、石神瑞希に微笑む

で、ではい、いただきますわ

 石神瑞希は、名家の令嬢らしくパンを小さくちぎって、口に入れる

まあ美味しい

そうなんですよ、瑞希お嬢様

 黒瀬さんが、ニコッと微笑む

美味しい物を食べると、ついつい笑顔になっちゃいますよね

あ、あの皆さんは、どちらの学校の人なんですか

 テニス部の子の1人が石神瑞希たちに尋ねる

西校です

 実際は高校生ではない木下さんが、キッパリと大嘘を吐いた

え、でもその制服、西校のじゃないですよね

 木下さんは、自分の着ている制服を見て

どこの西校だと思ってます

え駅の向こう側にある西校ですよね海浜公園の近くの

 テニス部の子が言う

違いますあなたが思っているよりも、もっともっと西の天竺に近い方の西校です

てんじく

はい天竺西高校です

えどこにあるんですか

天竺です

テンジクって何県

だいたい、あっちです

 木下さんはインドの方角を指差した

黒瀬さんたちは、帰国子女なんだよ夏前までスイスの学校へ行っていたんだってさ

 オレは慌てて、助け船を出す

へえ、そうなんですかぁ

スイスって、ハイジが住んでるところでしょ

あんたバカねハイジが住んでたのはアルプスでしょ

えー、アルプスがあるところがスイスなんじゃないの

ハイジのお祖父さんて、スイス傭兵だったんだよ

 女子高生らしく、コロコロと会話が転がって行く  石神瑞希が口を開く

どうしてパンを作っているのよ

 石神瑞希は、香月みすずのパートナーである黒森公のことしか知らない  オレが物凄く手慣れた様子でパンを作っているのが不思議なんだな

金を稼ぐことのできる技術があれば、世界中、どこへ行っても家族が養っていけるからさ

 オレは作業する手を止めずに言う

美味いパンを焼くことができればどこでも生きられる

 香月家と関わりのある男が、何を言っているのだと思うのだろう  石神瑞希の気持ちは判る

自分自身が身に付けた能力だけしか信じられないじゃないか

人間関係とかコネとかは結局、オレじゃない誰かの力でしかないんだからそういうのに頼りすぎているといざという時に生き残れなくなるよ

 ジッちゃんの保護だって永遠じゃない  ジッちゃんも、それを意識している  だから、香月セキュリティ・サービスという組織をまだ高校生のオレにくれた  オレが成人してから譲渡するのでし、遅いと感じているんだ

どんなことがあっても生き残っていく力は自分で身に付けておかないとオレは守らないといけない家族がいるからさ

 石神瑞希は、ジッと作業するオレを見ている

はぁ、パン屋くんさすが婚約者の居る子は、言うことが大人だよねえ

良い大学を出て、良い会社に就職するっていうのが一番なのかもしれないけれど今から技術を身に付けて、好きな子とパン屋さんをやるっていうのも夢があって良いよね

自分の彼氏だと、困るけれど

そうあたしとか、パン屋くんみたいな人、結構好きよああ、もちろん今の婚約者の子との間に割って入る気はないけれど

うん、あの子気が強くて怖そうだもんねぇ

3年の竹芝さんのところの子だもんねぇ

パン屋くんに近付いたら、蹴飛ばされちゃいそうだもんね

 さっきまで一緒に作業していたメグのことをそんな風に言う  ああ、端から見ているとメグの方が強く見えるのか

愛はよくあの子とか、イーディさんとかと仲良くやれてるよね

あとほら奈島さんとか

 テニス部の子たちは愛を見る  愛は元・テニス部で気弱な1年生として有名だった

みんな良い人たちです

 恥ずかしそうに、愛は言った

良い人たちだとは思うけれどなかなか個性的っていうか、みんな凄いよね

うちの可奈もそうだけど綺麗で、元気で、アクが強いって言うか

普通じゃないよね

そういう人たちに毎日揉まれているんだから愛も強くなったよね

 テニス部の子たちが、愛に言う

あたしは克子さんや吉田くんの言う通りに一生懸命やってるだけだよ

 愛は恥ずかしそうに、そう言った

愛も卒業したら、みんなと一緒にお店をやりたいから置いて行かれないように、頑張らないといけないの

 そんなことを言う愛は今では、オレよりもずっと美味いパンを焼く  オレが愛に勝てるのは、作業のスピードだけだ

ええ、この子たちが卒業すると同時にあたし、お店を出すつもりなのよ

高校にパン技能士コースを作った以上は卒業後の就職先も無いといけないものね

えー、克子さんがお店を始めるんですか

そうよ今、資金を貯めているわだから2年後にパン技能士コースの1期生の2人とね

 克子姉とオレと愛で開業する

いきなり、自分の店なんですか

愛とかパン屋くんとかどこかの有名なお店で修行とかしないでいいんですか

 テニス部の子たちが尋ねる

これだけ焼けるようになったら他のお店で修行するより、自分のお店を始めた方が正解よそれに、雇用者のままでいるとなかなか経営感覚が身に付かないしね

 克子姉は笑顔で答える

この子たちには、もう原価計算から自分でやらせているわよ

うん勉強してます

 愛がうなずく

普通にお店で働くだけじゃなかなか教えてもらえないことも克子さんは教えてくれるの

ああ、そっか普通のパン屋の店員じゃ上の人に言われたとおりにパンを作って売るだけだもんね

自分でお店やるとか大変そうあたしには無理だな

でも自分のお店でなければ、経験できないことがいっぱいあるのよ

自分が全ての責任を負う代わりに自分の意志を通して、お店を作っていくことができるわ全て、自分次第なのよそういうビジネスの醍醐味は小さなパン屋さんも、大きな会社も同じよ経営者になった人間だけにしか判らないことがあるの

 そして、克子姉はオレと愛を見る

だから、2年後に始めるあたしのパン屋さんはこの子たちも共同経営者にするわ雇ってあげるなんていう甘やかしは、あたしはしないわよ