16歳の真樹さんは恐る恐る話し始める
鳥居さんは、本当にトリイ電子の社長のお嬢さんなんだと思いますしそちらの方が、香月グループのお嬢様だということも信じます
オレたちの会話を聞いていて嘘ではないんだと、理解してくれたらしい 茉莉花にオレたちの高校に連れて来られた時は、まだ半信半疑だったんだろうけれど マルゴさんやまり子と出会ってレイちゃんやミタマやキヌカやリエとエリみたいな、テレビに出ている人たちにも出会って ミナホ姉さんの前で演奏もして オレたちの住むお屋敷の様子も見せた
美樹さんは、どう思っている
オレは14歳の真樹さんの妹の美樹さんにも尋ねてみる
わたしも今は信じてますあの皆さんが、私たちを助けてくれるかもしれないって
確信は無いけど信じられるかもしれないとは感じているのか
お前はどうなんだどう感じてる
ついでにオレは、松下姉妹に無理矢理付いて来た五十嵐イズミにも尋ねてみた この子はどうやら、松下真樹さんに同性愛的な感情を抱いているらしい
わたしは何が何だか、訳が判らないわよ正直あなたたちが怖いわ危ないことに巻き込まれているのかもしれないって思ってる
五十嵐イズミには、巫女の力で強制的に変装させてスクール水着柔道大会で国歌斉唱させたりしたからな オレたちに対しては、恐怖感の方が強いんだろう 初対面の時には、あれだけ高圧的な態度で、ペラペラ良く喋ってたくせに今は、全然話さない 本当は少し気の弱い子なんだと思う
とりあえずオレたちは、約束したことは必ず実行しますオレたちの家族の一員である茉莉花の友人の松下真樹さんそれから、真樹さんの妹さんの美樹さんお二人が、これからも音楽を続けられるようにします
オレは姉妹に、そう告げる
お祖父さんとの交渉は、オレたちに任して下さいというか、うちの家族の中でも一番そういうことが上手い人たちが来てくれましたから
オレはオレたちの乗るリムジンの前を走っている車を、見る ミナホ姉さんとチェーミン幸田という人物に変装したキョーコさん あの二人なら、確実に松下さんのお祖父さんを説得できる どんな手を使っても、自分の思う通りに状況を持っていくヤバイ人たちだから
今、この段階でストップさせることは、もう無理ですすでに、もう色んな人たちが動いていますから
ミナホ姉さんは松下さんのお祖父様と会う約束を取り付けるために、裏の世界の人脈を使っている 間に入ってもらった人は、1人や2人ではないだろう これから行く駅前のホテルだってミナホ姉さんが所有しているホテルだけれど事前に連絡をして、すでに何人もの人がオレたちと松下さんのお祖父様の到着を待っているはずだ 会見の準備はできている
お金も相当掛かっているんですか
松下真樹さんは、豪華すぎるリムジンの内装を見てそう言う
真樹さんが、想像なさっている通りです
わざわざ派手なリムジンを用意したこと 香月家の令嬢である瑠璃子に、正装させたこと オレにも、一番良いスーツを着るようにさせた この3つは、ミナホ姉さんとキョーコさんの指示によるものだ 一代で大きなドラッグストア・チェーンを築き上げた松下老人を圧倒するためには徹底的に、こちらが上流階級に属している大金持ちだということをアピールしなくてはダメだということだろう 松下老人は松下真樹さんと美樹さんが音楽を学ぶための資金を出さないと言っている 真樹さんに、音楽科の高校を今すぐにでも辞めて普通の高校へ行けと命じている 美樹さんに、父親が遺してくれたヴァイオリンを売り払えと強要している こういうジィさんに対抗するためには オレたちが真樹さんと美樹さんの学費と生活費を保障すると言い切らないといけないし それを可能にするだけの金と力を、オレたちが持っているということを、明確に示さないといけない オレたちが、ドラッグストア・チェーンの会長よりも遙かにデカい存在であることを、最初っから全力で見せつけてやらないといけないんだ
でもわたしたち姉妹には、皆さんにしていただいたことに対してお返しできるものがありません
そう言ってうつむく松下真樹さんの手を茉莉花が握りしめている 姉の言葉に、美樹さんも緊張する 五十嵐イズミは、困惑の表情のままだ
ですからこれは、確かにわたしたち姉妹がお願いしたことなんですけれどわたし怖くて
実際に物事が動き出してしまうと、怖くなるってことそういうのは判らないでもないけれど
まり子が笑顔で、真樹さんに話し掛ける
そうですそういうことなんだと思います私も美樹も、まだプロの演奏家ではないですし演奏家のタマゴにもなっていませんただの学生ですお金の稼げる演奏家になれるかどうかは判りませんしそこまで到達するのにも、たくさんの費用が必要なことは判っています
真樹さんのピアノは、音楽科高校ではトップクラスの成績を保っているらしい 美樹さんのヴァイオリンとの演奏も聞いた オレは音楽は良く判らないけれどミナホ姉さんは、この姉妹の将来性を感じ取ったようだった 本当にプロの演奏家になれるかどうかは今の段階では判らない
そんなわたしたちなのに皆さんに、今、助けていただくことが本当に良いことなのか判らなくなってきました本当にこれで良いのか
美樹さんは、今のお姉さんの話を聞いてどう思う
オレは再び妹の方にも質問してみる
わたしはまだ中学生ですから全て、真樹お姉さんに言う通りにします
美樹さんは、潤んだ瞳でオレを見てそう言う
それなら、お姉さんがやっぱり止めると言ったらそのヴァイオリンのことも諦めるか
美樹さんは、父のヴァイオリンのケースをギュッと抱き締める 諦めることはできないけれど自分で自分の人生の選択をすることはできないってことか
えっとつまり、あなたたちが悩んでいるのは公や瑠璃子さんに助けてもらっても、それだけのお返しをするものを持っていないからどうしたら良いか判らないから不安てこと
あるいは今回のお返しのために、一生、オレたちに頭を下げて生きていかなくちゃならなくなるとか考えているのかオレたちに弱みを握られて延々と奉仕させられるとか
オレは姉妹の眼を覗き込みながら、聞いてみた
そういうことだってあるかもしれないわよ松下さん
五十嵐イズミが、ぶるぶる震えながら真樹さんに言った
ああ、そういうことが、あるかもしれないしないかもしれないそれだって、あなたたち次第だ