だろ多すぎてもダメなのさ一人だけ、専門家らしい年寄りが混じってるってのが効果的なんだ
キョーコさんは、笑う
信ぴょう性を高めるポイントは、一つに絞った方が良いということですか
キョーコさんは、カップに残っていた紅茶をコクコクと飲む
でもどうして、松下様は真樹さんたちの演奏を聴いただけで、あそこまで心変わりしちゃったのかしらやっぱり、ルナさんの力
ルナさんが、そうしたの
まり子が振り向くとルナは、小さく頭を振る
いえ、ボクは思っていることを素直に喋れるように、少しだけあの人の心を柔らかくしただけです
ルナは巫女の力で、松下老人に強引な心の操作はしていない
だけど、あんまりにも態度が変わっちゃったんでビックリしたわどうしてあんなになっちゃったんです
まああのジィさんは、どういう形であれ、孫娘たちと和解したいと望んでいたからね
まり子の問いにキョーコさんは答える
最初は、祖父としてのプライドがあるから、できれば孫娘の方から折れて欲しいと願ってツッパッてたけれどああいう展開になったら、自分の心の方がポキッて折れちまったのさ
松下老人の心が折れた
あのジィさんの全ての原動力は、コンプレックスだからさ集団就職で上京した貧しい青年が苦学して薬剤師の免許を取って薬屋を開いてそれが今では、立派なドラッグストア・チェーンに成長したっていうサクセスストーリーの主人公なわけだけど
でも、実際は苦学して成功したっていうところ以外は、コンプレックスの塊なのさジィさん自身は、いつでも周りからは成り上がりの田舎モノと小馬鹿にされてるんじゃないかってビクビクしながら生きている
松下老人のコンプレックス
そういうコンプレックスを起爆剤に変えて、自分の事業を拡大・発展させてきたってことなんだろうけれどさ
だから、松下様はあんなに薬剤師になって薬屋になることにこだわっていたんですね
まり子は、尋ねる 松下老人は松下姉妹に音楽の勉強を辞めて薬剤師になって、自分の経営する薬屋をやれと命じていた
仕方ないだろあのジィさんには、苦学して薬剤師になって、薬屋を成功させたことしか、他人に誇れることがないんだから
キョーコさんは、ティーカップの縁を指で軽く弾く
特に何かしら成功した人間は、大抵の場合、自分の成功経験に縛られるからさ人にも、自分が成功したのと同じことを勧めるのさ
成功経験に縛られる
例えば留学したことがキッカケで成功した人は、他人にも留学を勧めるし、コンクールの入賞をキッカケに成功した人は、他人にもコンクールへの参加を勧める一流大学が成功のキッカケだった人は、一流大学の卒業生しか認めなくなったりするその人間自身の成功したキッカケを他人にも強く求める傾向があるのさ
キョーコさんは、松下姉妹を見る
でも、お嬢ちゃんたちの演奏を聴いてあのジィさんは、ぶったまげたんだよ苦学して薬剤師になったことしか人に誇れることが無かったジィさんは孫娘が音楽をやっているって聞いても、自分の孫なんだから、どうせ大した実力はないと勝手に思い込んでたのさコンプレックスの塊だから
自分に無い芸術的な才能を孫娘が持っているかもしれないとは、想像さえしなかった
ところが、実際に聴いてみたら‥本当に立派な演奏だったんで、ジィさんの中の世界観がグルンとひっくり返ってしまったのさ
クククと笑うキョーコさん
これだけスゴい演奏ができるならそんな特別な才能は、大事にしなくちゃいけない孫娘を応援する方に、一気にジィさんの意識が傾いたんだよ
だから、眼に涙さえ浮かべて感激していた
これもまた、コンプレックスさ孫たちは、自分みたいな成り上がりの田舎モノじゃなくて、もっと特別で立派な存在になれるかもしれない可能性があるのなら誇れるモノがほとんど無い自分は、この孫娘たちの誇り有る才能を伸ばしてやるのが義務なんだって、思い込んでしまったのさ
全ては松下老人の心の中の問題か
もちろん、あたしはあのジィさんの人生を否定しないし、ジィさん一人で小さな薬屋を大きなドラッグストア・チェーンに発展させたという事実はスゴい事だと思うその努力と熱意は、心から尊敬するよでも
キョーコさんの眼が、松下姉妹に向かう
あのジイさんはそこまで止まりの人だと思うそこから上の世界へは、行かれないし上の世界の住人の仲間入りはできないあのジィさんがどこまでも、自分のコンプレックスに囚われている限り
松下姉妹は強い瞳で、キョーコさんの話を聞いている
で今度は、あんたたちに聞きたいあんたたちは、どうなんだいあんたたちは、上の世界へ行く覚悟はあるのかいそれともジィさんと同じで、いつまでもそこに止まったままでいるかい
あのまず、お聞きしたいのですが
松下姉妹の姉の真樹さんが、口を開く キョーコさんは、笑顔で受ける
先ほどのお話はどこからどこまでが本当なんですか
困惑した顔で、キョーコさんを見る真樹さん 妹の美樹さんも強張った表情をしている
何だ、そこから話さなきゃダメなのかい
苦笑するキョーコさん この姉妹はまだ、オレたちのことを信じ切っていない 眼の前で起きたことに、驚くばかりで 自分たちに対する奨学生の話だって本当に、信じていいものなのかどうか迷っている
ほとんど本当だよあたしだって、実際に香月世界文化交流センターに籍があるし
キョーコさんが、瑠璃子を見る
香月世界文化交流センターの奨学生制度は、実際にあるものですただ美樹さんが受けられる次世代の英才育成制度の特別推薦奨学生というものは、ありませんでしたので今日、新設致しました
瑠璃子が優雅な笑顔で答える
新設
驚く松下姉妹
はい香月世界文化交流センターは香月歴史文化財団の下部組織ですわたくしは、その香月歴史文化財団の理事長ですので多少のことは、融通させられます
そう言いながら、瑠璃子はオレを見た
お兄様は、お祖父様から香月セキュリティサービスを受け継がれましたが瑠璃子は、香月歴史文化財団をいただきましたですから、ご心配なさることはございません先ほどお話しした通りお二人は、香月家が奨学生として責任を持ってサポートさせていただきます
はっきりと言い切る瑠璃子
わたくしが、香月瑠璃子本人であることも証明しなくてはなりませんか