VRゲーム機。あるいはダイヴ系オンラインゲーム。
近年オンランゲーム業界に吹き荒れた一陣の風。
ほんの少し前まではSFのジャンルの一つ、サイバーパンクとして有名だった。
そんな夢と希望のダイヴ型オンラインゲームだが、出始めの頃は大きく騒がれたけれど、一部のゲーマーを除けば評価は良くなかった。
第一に日本人ゲーマーなら理解してくれると思うのだが体感系、VRと呼ぶ人が多いダイヴ型サイバーワールドが肌に合わない人。
例えるならドットで作られたテレビゲームが未だに人気がある様に、テレビ画面を眺めながらプレイする環境に慣れたプレイヤーには受けなかった。
俺は生まれた時から綺麗な3Dのゲームがあった世代なので気にならなかったが、ドットからポリゴン3Dのゲームへ移行する際に拒絶反応があった人は結構いたらしい。
まあその程度ならばダイヴ系ゲームに俺が拒否感を抱くはずがない。
第二に、人間の脳波の影響が強く出てしまう。
近年判明した事なのだが、人間の脳波、演算力といわれる物は個々人で相当な差が出てしまった。
要するに昔から瞬間判断力だの決断力だの言われていたアレの正体が判明した訳なのだが、脳の電子伝達速度がゲームに関わってくるダイヴ系のゲームはどうしても本人の能力によって差が出てしまう。
つまる所スタートラインが同じではないゲームに不満を抱くゲーマーが続出、一部の適応できたプレイヤーを除けば売り上げば思ったよりも高くない。
まあタッチペン画面なんかも最初の頃は受けが悪かったらしいので、科学の進歩と共にゲーム機の性能が上がって個人の能力に影響を受けなくなれば大ヒットするだろう。
そういえばそんな話をどこかで聞いた様な――
「お兄ちゃん。ポットタイプは脳波一定プログラムが内蔵されてるから誰でも大丈夫なんだよ?」
「ああ、そうか。参加費が高い理由にそれもあったな」
ポットタイプ――VRゲーム機の高性能版とでも呼べば良いのだろうか。
一般的なパソコンみたいな機材にヘッドマウントディスプレイを付ける物とは違って、専用の空気を吸える液体を浸したポットの中に人一人を丸々収納してゲームに接続するという少々マッドサイエンティックな機械だ。
つい言葉にも洩らしたが、この機材が参加形式である理由で、ほんの一日起動させるだけでも現代の科学では相当費用が嵩むんだそうだ。
「まあ俺でも出来るのは分かったけど、二人は他に誘う人いないのか?」
「せっかく三人参加なんだから兄弟でやった方が楽しいじゃない」
「うんうん!」
姉と妹、どうやら俺は二人と思った以上に仲が良いっぽい。
なんというか、かなり嬉しかった。
そんな訳で俺はディメンションウェーブに参加する事となった。
†
そうして当日。
俺達三人は電車に乗ってイベント会場に来ていた。
会場には二人にせがまれて早く来ていたというのに既に人で混雑している。
事前に持って来る物は参加権と参加プレイヤー用に配布されたデータが入ったUSBメモリ。
USBメモリにはキャラクタークリエイトデータが入っている。
ゲームの仕様上キャラクター作成に掛かる時間に問題があり、事前に作っておいて欲しいという事だ。
俺のキャラクターは三日前から考えに考えた筋肉マッチョの巨漢。
筋肉キャラは世間的に人気が良くないが、俺はかっこいいと思うんだよ。
種族は人間、亜人、草人、晶人、魂人の中で魂人を選んだ。
魂人と書いているがスピリットと読むそうだ。
選んだ理由はレベル、HP、MPが存在しないという、この手のネットゲームでは珍しい種族だからだ。公式サイトで少し説明が載っていたが、詳しい内容は手探りだ。
ちなみに上からヒューマン、ライカンスロープ、エルフ、ジュエル、スピリットと読む。
この中で気になったのはジュエルとスピリットだが、最終的にスピリットを選んだ。
珍しい種族が好きなもので。
尚、二人は姉が人間で、妹が亜人だ。
聞いていないのに教えてくれた。
「お、入場が始まるみたいだぞ」
そう言う前に興奮でそわそわしていた二人が前進を始めた。
何にも考えずに並んでいたが、なんで俺が一番後ろなんだ?
途中、設けられたスペースでIDパスが内蔵された三つ発行された参加権の内の一つ、俺の券を職員に渡すと番号の割り振られた青いプラスチックの付いた鍵を渡された。
そして更に進むと二つの道に別れている。男女で分かれているっぽい。
「また後でね」
「ばいば~い!」
簡単に手を振った後、男子の方を進むと更衣室に到着した。
結構広い。
ともあれ鍵に掛かれた番号のロッカーを見つけて開けると一つ服が入っていた。
これも事前に公式サイト参加権の番号と一緒にスリーサイズを入力して、専用の服に着替えるという物だ。
貴重品……といっても精々財布と携帯電話位だが、を入れて服に着替える。
何かアニメとかに出てくるパイロットスーツみたいな柄だ。
感触としては妙にピチピチしている。
両隣の奴も恥ずかしそうに無言で着ている所を見るに同様の考えをしているのだろう。
なんでも元々は全裸でダイヴ用ポットに入っていたが、不評で専用の服を用意する事になったらしい。更に服には緊急用の人命救助装置なんかも付いている。これも参加費が高額になる理由だろうな。
そんな風に考えながら着替え終わった俺はロッカーの鍵を閉めたのを確認して道を急ぐ。
「うわ……」
広がった光景は噂に聞くマッドサイエンティックなポット群。
人一人が入る為か、かなり大きい。俺の部屋のベッドと同じ位だ。
「なになに?」
USBメモリの差込口と入り方、閉め方の記されたシールがポットに大きく貼られていて、誰でも一目で使い方が分かる。俺は書かれているUSBメモリをコネクターに差し込み、ポットに入って閉め忘れが無いかを確認した後、ゆっくりと寝転がった。
時間までは後十分位あるので、ゲーム内で何をするのか考える。
二人は戦闘職をする様な事を言っていたが、俺は別の目的があった。
あの日雑誌で見た『釣り』とやらをやってみようと思う。
MMORPGで釣りとかアレな気もするが、ゆっくりのんびり余生を楽しむのもセカンドライフというゲーム会社の趣旨に合っていると思うんだ。まあその後は今考えてもしょうがない。ゲームをやっていればいずれ目的も決まってくるだろう。