そもそも潜伏スキルで隠れていた闇影を当然の様に見つけたとか。
こう言わせてもらいますよ。
硝子さんマジぱねぇっす。
いや、心の中でしか言わないが。
もちろんステータス的に勝利に持っていけたかは別だ。仲間としての贔屓も入っているが硝子のプレイヤースキルが高いのは今更口にするまでもない。
じゃあ狩り場とか硝子は知っているだろうし、三人で行ける場所を選んで進むって感じでどうだ?
異論はございません。私の意見を汲み取っていただいでありがとうございます
自分も問題ないでござる。むしろ沢山の魂を早く吸収したいでござる
それじゃあ決まりだな
ともあれ、ここに俺達三人のスピリットパーティーが結成した。
どうでも良い補足だが、この後俺秘蔵の最高級ニシン食材を使った飯を三人で食った。
効率が良くて、金が稼げて、人がいない場所
翌日。
パーティー結成式という事で最高級ニシンやクロマグロを振舞ったらテンションが上がり過ぎて全員愚痴大会となり、結局酒に酔った訳でもないのに見事に爆睡してしまった。
で、これはどういう事だ?
昨日の事を思い出す。
道行く料理人に最高級ニシンを渡し料理してもらった俺達は川原で硝子の提灯片手に料理を啄ばみつつ雑談をした。
スピリットだからなんだっていうんですか、に始まり、コミュ障害で悪いでござるか、自分は誰にも迷惑を掛けていないでござる、だとか、奏姉さんと紡に強制されたネカマプレイへの愚痴を吐きつつも親睦を深めた。
それは良い。そこまでは覚えている。
だが、これはなんだ?
うん
自分ほんはござなん言わい
俺の瞳に映し出されるは浴衣の硝子と下着以外素裸の闇影。
そしてもちろん俺も下着以外素裸だ。
え? 昨日何があった?
このゲームは全年齢だ。ゲームの仕様上酒類は未成年に制限されている。なので酔った勢いで過ちを犯すなんて事はないはずだ。無論、いやらしい事だってシステム上再現されていない。
最近噂の18禁ゲームではVR機材を使ってヒロインとのエロ再現、なんて話を聞いた事があるが、そういうゲームじゃないから、このゲーム。
えっと今何時だ?
窓から照らす陽光。少なくとも朝日ではない。
カーソルメニューを開くと時刻は13・24。
思いっきり真っ昼間です。
パーティーを組んだ翌日に寝坊とかどんだけ自堕落なんだ、俺達は。
おい、起きろ! 硝子、闇影!
そう大きな声で叫ぶと硝子の方が眠そうな眼で体を起こす。
格好を見る限り一人だけ寝巻きを付けている。おそらくは眠った俺達を運んでくれたのではないだろうか。
おはようございましゅ。絆しゃん
まだ半分眠ってるな
前々から思っていたが宿屋のベッドが性能高過ぎる。
少なくとも4、5時間は眠ってしまう。
多分ゲームのやり過ぎに対する不眠対策としての処置なんだろうけど。
いや、今はそんな事を考えている場合じゃない。
硝子、昨日何があった?
みなしゃん、眠そうにしていらっしゃっらので、宿に向かったのりぇす
うんうん
呂律が回っていないが、どうにか意味は聞き取れる。
どうやら宿へは俺達三人自分の足で向かったみたいだ。
あのじょうらいでは危なそうでしたのれ、皆で眠る為、大きなへやにしましら
大体事情は把握した。
しかし、しかしだ。
なんで俺と闇影はほぼ全裸なんだ!?
はっ!
あ、完全に覚醒した。
硝子は周囲をキョロキョロと眺めると一度頷き、こう言った。
絆さん、おはようございます。素晴らしい朝ですね
とても清々しい笑顔だ。
もう昼だよ!
真実は酷く単純だった。
硝子は、そのままの格好で眠ってしまった俺達の衣類を思っての事だった様だ。
このゲームは衣服の皺とか妙に再現されているからな。
酷い皺になると、結構残るんだ。
ちなみにクリーニングみたいな店があるので、お金を出せばどんな汚れでも直してくれる。そんなに高い訳でも無いので女性プレイヤーは結構使っているらしい。
本当にすみません
いや、謝らなくて良い。むしろ感謝したい位だ
その通りでござる。システム的に安全な宿で休息を取らなければ、何かある可能性だってあったでござる。函庭殿には感謝の言葉しか出ないでござる
そう口にする闇影は、目を覚ました直後酷く狼狽していた。
なんでも他人に素肌を見せるのが恥ずかしかったとか。
しかもみ、みないで』とか普通に言った。ござる言葉がロールプレイの一環なのは事実だろう。まあリアルでござる、なんていう奴見た事無いけどさ。
だけどな、一応俺はリアルでは男なんだから気を付けろよ。この世界じゃ、そういうのができないのは確かだがこう、道徳的にな
そうですね。絆さんが女の子にしか見えなかったもので、つい失念していました
確かに今、俺は女だが。
これは闇影もそうだが、外見が及ぼすイメージはやはり強いみたいだ。
俺が素肌を見ても、あまり気にした様子がない。
元々普通のVR機よりもリアリティが高いディメンションウェーブは種族的特徴を省けば現実とほとんど変わらない。無論美男美女しかいないという現実との違いもあるが、どうみても人に見えてしまう。
しょうがないとはいえ、二人は俺の、絆†エクシードとしての声と姿しか知らないからだろう。できれば気を付けて欲しいがまあ俺の方が気を使えばいいか。
さて、寝坊した分も取り戻さないとな。今日はどこ行く?
その事なのですが
少々気不味そうな表情で硝子は考えを話し始める。
常闇ノ森は条件が私達にとても噛み合っていました。ですが絆さんのアレ』をこれからも隠し続けると仮定した場合、私の知っている場所では必ず誰かに見られてしまいます
何か困った事があるのかと思ったら、よくよく考えればかなり妥当な話だ。
本音で言えば無理に隠す必要はないと考えている。
それでパーティー狩りができないのでは本末転倒だ。
案として夜に行動する事にして常闇ノ森で狩るか? というものが出たが、それも限界があるだろうし、一人二人ならエネルギー効率は良いが、三人となると他へ行った方が良い、というのが硝子の結論だ。
この際、バレても良いんだからな? 無理に隠す程でもない
絆さんのお言葉も理解できます。ですが他者より秀でる要素を安易に手放してしまうのも、私はもったいないと思うんです
確かに、でござる
まあそうなんだよな。
これが普通のオンラインゲームなら攻略サイトで膨大な情報を確かめればいい。だが、ディメンションウェーブでは、鍛冶師に作ってもらう武器の材料すら詳細に知っている人は稀なんじゃないだろうか。