嫌なスパイラルだ。いわゆる負の連鎖って奴だろう。
絆さん!
な、なんだ?
硝子がぐいっと俺の両手を掴んで見詰めてきた。
これはどういう意味でしょうかね。
協力しましょう!
何を言うんですか。人様の役に立つとても素晴らしい事です
函庭硝子。人情に厚い女である。
まあ半分冗談にしても硝子が協力的で良かった。
闇子さん、もちろん協力しますよね?
然様でござる
しかし、こいつ等妙に融通が利くよな。
硝子に至っては元前線組なのだから、もう少し効率に走ると思っていた。
まあそういう感じだからさ。俺達はどうすれば良い?
しぇりるに向き直り、意見を問う。
正直、船を作れるのはしぇりるしかいないのだから、しぇりるに聞かなきゃ始まらない。
いいの?
ああ、見ての通り三人ともスピリットだからな。はぐれ者が多いんだ
わかった。必要なのは
俺達三人に加えしぇりるも含めると最低四人が乗れる船が必要だ。
海流を越えるとなると当然大きな船は必須だろう。
必要な材料は。
トレントの木、500個。
丈夫な布、200個。
鉄、20個。
風斬石10個。
結構必要だな。
俺の全財産を出費しても足りるかどうか。
しぇりるは何個か持っているのか?
その内風斬石10個、布100個、木200個は持ってる
半分位か相場しだいでは揃えられるかもな
本当にお金持ち
空き缶商法とマグロ商法によるあぶく銭だがな。
ともあれ相場を聞くのに最も適した人物が一人いる。
待っていろ。少し顔が広い奴がいるから、そいつに安く仕入れられないか聞いてみる
アルトなら空き缶商法の件もあるし、少し位融通してくれるだろう。
何より、あいつは自分が得になる事は頷く。こんな絶好の金稼ぎ、滅多にない。
では、私と闇影さんは比較的に入手が簡単なトレントを倒して来ます
承知でござる
トレントがどの程度のモンスターかは知らないが、二人の反応からそこまで強くないのだろう。集めてくれるのは助かる。
わたしも手伝う
それじゃあ、パーティー入っとくか。そっちの方が便利だろう?
いいの? わたし、レベル6
レベルと言われても良くわからない。
それにネットゲームはレベルとか関係なく好きな奴と一緒に組むもんだ。
少なくとも俺は効率より、そっちの方が楽しいと思う。
レベルとか関係ないだろう。協力した方が何倍も早い。だよな?
もちろんです!
自分はドレインができるのなら、何等意見はござらぬ
ありがと
しぇりるさんをパーティーに招待しました。
フルハープン
銛の攻撃スキルがトレントに命中し、禍々しい顔を浮かべたままトレントは倒れた。
しぇりるの武器は銛。
いわゆる海でスピアフィッシング的な戦闘に適した武器だ。一応槍に分類される武器らしいが、銛の様な形状の武器を使っていたら派生したらしい。
そしてしぇりるのレベルは俺達とパーティーを組んでから4上がり、10になっていた。
トレントの木は一応500個そろったか
粗悪品を含めていますから、もう少し必要ですけどね
俺やしぇりるを始めパーティー全員の考えが一致して、船に使う材料は可能な限り良い物にしようという事になった。なので俺達は材料が少々高額になっても高品質の品を選んでいる。
一応布の方はアルト知り合いに頼んでおいたけど、数が数だからな
丈夫な布は裁縫スキルのアイテムだ。だから100個となると手間も費用も嵩む。
それを100個売ってくれというと時間をくれるかな、と言われた。
断らないのが商人たるアルトの凄い所か。
鉄の方は気を付けて選ばないとな。現状、粗悪品の方が圧倒的に多い
何か知っているのでござるか?
空き缶が原材料だからな。
あんなの序盤だけで鉄鉱石が見付かったらゴミ以外の何物でもない。
べ、別に。ともかく俺達で集められる材料は大体揃ったか?
しぇりるが頷く。
あれから丸々一日が経過している。
トレントの方は硝子を始め、俺ですら余裕に倒せた。お世辞にもあまりランクの高いモンスターとは言えない。ともあれ合計500個ともなると戦闘数は多くなる。
何よりも現状、トレントの木を素材に使う製造スキルは少ないので、露店でもあまり並んでいない。これはアルトからの情報だ。
尚、しぇりるは今までの二週間、時間に余裕を見つければコツコツとトレント狩りをしていたらしい。相性の良い武器でもなければ、レベルも足りていないので一匹倒すのも時間が掛かっていたそうだが。
ともかく後何個か木を手に入れたら一度第一に帰ろうぜ
思ってたんだが、そのそう』っていうのは口癖か?
わざとか?
別に
いいけどさ
こんな感じだ。言葉足らずというか、話ベタというか、闇影とは別の意味でコミュニケーション障害の気質がある。
一応話してみれば普通というか、趣旨は理解できるけど、その努力が必要というか。
まあプレイヤーのほとんどが第三都市を見つけようと躍起になっている時に海を目指そうなんて、考えている奴等だから少し他より変なのはしょうがないか。
いや俺も類友だが。
おっと、しぇりるを眺めていたのがバレた。
俺は誤魔化す様に言い訳を口にする。
なんでもない
ともかく、後少しだな
うん。絆、ありがと
俺だけの協力じゃないだろう? 皆のおかげだ。もちろんしぇりるもな
なんだ? そのしらけた、みたいなそう』は。
なんだかんだで、ああいうセリフは結構恥ずかしいんだぞ。
硝子と闇影は何か春の陽光の如くニコニコこっちを見ているし、確実に俺をからかう環境が生まれつつある。そこだけは早急に改善したい。
ともかく、それからアイテムが全て揃ったのは二日後の事だった。
鉄は態々ロミナから程度の良い物を購入し、丈夫な布はアルト以外からも第一第二を駆け回って高品質の奴を捜し歩いた。
そうした甲斐もあって全部の材料が揃った訳だが、俺の貯金はほとんどなくなっていた。
エネルギー/26430。
マナ/4300。
セリン/16040。
未取得スキル/エネルギー生産力Ⅸ、マナ生産力Ⅵ、フィッシングマスタリーⅤ、クレーバーⅡ、舵マスタリーⅠ、船上戦闘Ⅰ、都市歩行術Ⅰ。
若干未取得スキルが増えている気もするが、日々行動の賜物だろう。
現状取得する気はないけどな。
ともかく、俺が第一と第二を走っていた間、三人には狩りをしていてもらった。
しぇりるのレベル上げもそうだが、海のモンスターは結構強い。