なんとなく出会った時にされたお辞儀を思い出してしまった。
そうか絆、引き抜く様な事を言ってすまなかった
問題ない。硝子はこういう奴だからさ
みたいだ奴等は見る目がない
奴等というのはおそらく硝子の元パーティーの事だろう。
スピリットという種族の風聞だけで物事を決めたのは早計だったな。
まあ攻略wikiを全てと鵜呑みにするプレイヤーに陥りがちな知識不足って感じか。
硝子と意気投合したというのだから元は良かっただろうに、本当残念だ。
プレイヤースキルはトップクラスなのにな。
じゃあオレ達は行くぜ
おう、またよろしくな
軽く手を振り合ってロゼット達は帰路ノ写本を使って飛んでいった。
そしていつまでも俺にのしかかったままのマイシスター。
あのな
なあに?
お前のパーティー、先に行ったぞ
後ろを振り返りロゼット達がいない事を確認する紡。
そして指を咥えてう~ん』と首を傾げた。
お兄ちゃん達はこれからお花見?
その予定だが?
なんか紡が俺の目をジッと見つめてくる。
この目は紡が真剣にゲームをしている時の目だ。
考え事、というか脳が動いている時の目とでも表現するか。
この状態の紡は全力の姉さんでも止められない。
ある種、トランス状態に近い。
硝子にも言えるが、集中力が高いんだろうな。
紡の場合、好きな事つまりゲーム限定だが。
そして考え事は終わったのかニコっと微笑み。
き~っめた! お兄ちゃん、またね!
そう口にして帰路ノ写本を使い飛んでいった。
なんだったんだ?
取り敢えず、予定通り花見でもするか
それから俺達は誰もいなくなるまで話に花を咲かせてのんびり過ごした。
死の踏み切り板
絆殿がウザイでござる!
とある海上にて闇影が言った。
俺達は船の甲板にいつも通りいる。違う事といえば360度全てが海である事か。
つまり陸地がない。
お前な本人を目の前にして言うか普通
自分、もうイカは飽きたでござる!
そうですね。ですがしぇりるさん、食べ物を粗末にするのはいけません
粗末にしてない。武器にしてるだけ
今日の昼食であるイカを眺めて闇影が嘆き、バリスタの矢の代わりにイカを使ったしぇりるを注意している硝子。
そして他二名。
あはは、お兄ちゃん達、おもしろ~い!
はぁどうして僕は君達に付いて来てしまったんだ
紡が笑い、アルトが呆れている。
計六名の船員が何故、こんな面倒臭い事態に陥ってしまったのか。
それは一週間と少し前、丁度ディメンションウェーブ討伐の翌日まで遡る。
俺達はその日を休日、もとい追加実装されたアイテムなどの調査と称して第二都市を歩いていた。
そうして偶然ロミナに再会したので解体したケルベロスの解体アイテムを武器にしてもらう事にした訳だが、全員の強い勧めで俺の武器を作ってもらう事になり、アイテムを渡されたロミナは怪訝な目で見ていたが潔く作ってくれた。
さすがに俺がケルベロスのアイテムを大量に持っていたら勘繰るよな。
まあそこは置いておくとして出来上がったのはケルベロススローター』。
光を反射しない黒炎の様な柄が特徴のシンプルな包丁にも見える。
あれだけ強かったボスの材料から出来た武器だ。強いはず。
うん、強いはず。
エネルギー低下によって装備できなかった。
こうしてケルベロススローターはアイテム欄の肥やしになった。
こんな感じで武器系統の変更や媒介石などの買い物を行っていた。
俺はリールを手に入れ、ほくほく顔でパーティーメンバーである硝子、闇影、しぇりると歩いていた。
そして出会いを果たした。
一つのルアーに。
光輝く、というか実際に光属性の付いたルアーだ。
暗い場所でも使える、むしろ夜釣り用のルアーを売っている商売人と出会った。
お値段一万セリン。
最初その値段で買おうとしたら硝子にダメです。詐欺です。心を強く持ってください』と懇願され、どうにか理性を取り戻し、交渉の末一万セリンで購入。
完全に騙されてます! 人の話を聞いてください!
と、強く非難されたが後悔はしていない。
今だから言える事だが、結果的にこの時俺が取った行動は決して間違ったものではなかった。
結局、その日は買い物やらなんやらと平和な日常を謳歌して床に就いた。
明けて翌日。
硝子達の決断で失われた俺のエネルギーを少しでも取り戻すという名目で俺達のホームグラウンドである海へと帆船を使って狩りへと旅立った。
ここまでは良い。
絆殿がダメージを受けると本末転倒でござる。船内で休んでいると良いでござる
と言われたので、ディメンションウェーブと前日の買い物による疲れもあってか、妙に眠かったのでその場は任せて船内で一眠りする事にした。
船内には休憩部屋が二つあり、片方で眠る際、何か恥ずかしかったので鍵を掛けて横になるとNPCの宿程ではないが睡魔が直に襲ってきて俺は仮眠を取った。
やめてやめて! 助けてー!
こうして数時間程経った頃、睡眠を終えた俺は船上へ上がる。
何か妙に騒がしいとは思ったが、船上に上がるとその意味を一目で把握した。
そこには海賊みたいな事をしている俺の仲間がいた。
具体的には船の横腹で人一人が辛うじて乗れるであろう板の上に俺の妹である紡†エクシードが今にも突き落とされそうになっている、という常軌を逸脱した光景が俺の瞳に映し出された。
海面にはブルーシャーク三匹が今か今かと紡が落ちるのを待っている。
正直、何かのコメディーかと思った。
お前等なにやってんの!?
直に意識を取り戻した俺は思わず、叫ぶ。
その言葉に対しての硝子の返答がこれだ。
密航者は処刑です!
目が完全にイッていた。
果たして俺が眠っていた間に何があったのか。ぶっちゃけ知りたくもなかったが、聞かない訳にもいかないので、説得を繰り返す。
紡は俺の妹だぞ。一体何があったんだ!
密航者は断罪でござる!
お前は黙ってろ!
密航者はサメの餌
意味がわからん
シージャックは滅ぼすでござる!
もう喋るなダークシャドウ!
こんな感じで要領を得る事は叶わず、ともかく紡を救出し、謎のテンションになっている硝子達を落ち着かせてから事情を尋ねた。
すると驚くべく事に俺が眠っている間、シージャック犯なる四人組が現れ、船を占拠しようとしたらしい。
なんでも船底で密かに潜り込んでいたそうだ。
これに対して硝子達は真っ向から衝突、船上戦闘スキルを所持していなかったシージャック犯は返り討ちに合い、硝子達はそいつ等を拘束した。