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 「もどっといで!」といもむしがうしろからよびかけました。「だいじな話があるんじゃ!」

 これはどうも、なかなか期待できそうです。そこでアリスは向きをかえると、またもどってきました。

  「カッカするな」といもむし。

 「それだけ?」とアリスは、はらがたつのをひっしでおさえて言いました。

 「いや」といもむし。

 じゃあまちましょうか、とアリスは思いました。ほかにすることもなかったし、それにホントに聞くねうちのあることを言ってくれるかもしれないじゃないですか。何分か、いもむしはなにも言わずに水パイプをふかしているだけでしたが、とうとううで組みをといて、パイプを口からだすと言いました。「で、自分が変わったと思うんだって?」

  「ええ、どうもそうなんです。むかしみたいにいろんなことがおもいだせなくて― ―それに十分と同じ大きさでいられないんです!」

  「おもいだせないって、どんなこと?」といもむし。

 「ええ、『えらい小さなハチさん』を暗唱しようとしたんですけれど、ぜんぜんちがったものになっちゃったんです!」アリスはゆううつな声でこたえました。

 「『ウィリアム父さんお歳をめして』を暗唱してみぃ」といもむし。

 アリスはうでを組んで、暗唱をはじめました。

*     *     *     *     *

『ウィリアム父さんお歳をめして』とお若い人が言いました。

『かみもとっくにまっ白だ。

なのにがんこにさか立ちざんまい― ―

そんなお歳でだいじょうぶ?』

ウィリアム父さん、息子にこたえ、

『わかい頃にはさかだちすると、

脳みそはかいがこわかった。こわれる脳などないとわかったいまは、

なんどもなんどもやらいでか!』

『ウィリアム父さんお歳をめして』とお若い人、

『これはさっきも言ったけど。そして異様(いよう)なデブちんだ。

なのに戸口でばくてんを― ―

いったいどういうわけですかい?』

老人、グレーの巻き毛をゆする。

『わかい頃にはこの軟膏(なんこう)で

手足をきちんとととのえた。

一箱一シリングで買わんかね?』

『ウィリアム父さんお歳をめして』とお若い人、

『あごも弱ってあぶらみしかかめぬ

なのにガチョウを骨、くちばしまでペロリ― ―

いったいどうすりゃそんなこと?』

父さんが言うことにゃ

『わかい頃には法律まなび

すべてを女房と口論三昧

それであごに筋肉ついて、それが一生保ったのよ』

『ウィリアム父さんお歳をめして』とお若い人、

『目だって前より弱ったはずだ

なのに鼻のてっぺんにウナギをたてる― ―

いったいなぜにそんなに器用?』

『質問三つこたえたら、もうたくさん』と

お父さん。『なにを気取ってやがるんだ!

日がなそんなのきいてられっか!

失せろ、さもなきゃ階段からけり落とす!』

*     *     *     *     *

 「いまのはまちがっとるなあ」といもむしは申しました。

 「完全には正しくないです、やっぱり」とアリスは、ちぢこまって言いました。「ことばがところどころで変わっちゃってます」

 「最初っから最後まで、まちがいどおしじゃ」といもむしは決めつけるように言って、また数分ほど沈黙(ちんもく)がつづきました。

 まずいもむしが口をひらきました。

 「どんな大きさになりたいね?」とそいつがたずねます。

 「あ、大きさはべつにどうでもいいんです」とアリスはいそいでへんじをしました。「ただ、こんなにしょっちゅう大きさが変わるのがいやなだけなんです、ね?」

 「『ね?』じゃない」といもむしが言います。

 アリスはなにも言いませんでした。生まれてこのかた、こんなに茶々を入れられたのははじめてでした。だんだん頭にきはじめてるのがわかります。

 「それでいまは満足なの?」といもむしが言いました。

 「まあ、もしなんでしたら、もうちょっと大きくはなりたいです。身長8センチだと、ちょっとやりきれないんですもの」

 「じつによろしい身長だぞ、それは!」といもむしは怒ったようにいいながら、まっすぐたちあがってみせました(ちょうど身長8センチでした)。

  「でもあたしはなれてないんですもん!」とかわいそうなアリスは、あわれっぽくうったえました。そしてこう思いました。「まったくこの生き物たち、どうしてこうすぐに怒るんだろ!」

 「いずれなれる」といもむしは、水パイプを口にもどして、またふかしはじめました。

 アリスはこんどは、いもむしがまたしゃべる気になるまで、じっとがまんしてまっていました。一分かそこらすると、いもむしは水パイプを口からだして、一、二回あくびをすると、みぶるいしました。それからキノコをおりて、草のなかにはいこんでいってしまいました。そしてそのとき、あっさりこう言いました。「片側でせがのびるし、反対側でせがちぢむ」

  「片側って、なんの? 反対側って、なんの?」とアリスは、頭のなかで考えました。

  「キノコの」といもむしが、まるでアリスがいまの質問を声にだしたかのように言いました。そしてつぎのしゅんかん、見えなくなっていました。

 アリスは、しばらく考えこんでキノコをながめていました。どっちがその両側になるのか、わからなかったのです。キノコは完全にまん丸で、アリスはこれがとてもむずかしい問題だな、と思いました。でもとうとう、おもいっきりキノコのまわりに両手をのばして、左右の手でそれぞれキノコのはしっこをむしりとりました。

  「さて、これでどっちがどっちかな?」とアリスはつぶやき、右手のかけらをちょっとかじって、どうなるかためしてみました。つぎのしゅんかん、あごの下にすごい一げきをくらってしまいました。あごが足にぶつかったのです!