Выбрать главу

リルとユニスが、それぞれマリーベルの能力を分析する。Olの所見も彼女達と同様のものだった。

若くて清らかな娘を寄越せ、とは言ったがな

幾らなんでも若すぎる。Olはため息をつくと、軽く手で払って魔法陣を打ち破る。

村に行く。ユニス、共をしろ。リルはその娘の相手をしていてくれ

また留守番、しかも子守~?

Olはあたしが守るからねー

不満を漏らすリルと、嬉しそうにOlの腕に抱きつくユニス。どうしてこう、忠実な部下が手に入らないのだろう、と悩みながら、Olは転移の術の準備を始めた。

第7話穢れ無き乙女を生け贄に受け取りましょう-3

Olはユニスを伴い、マリーベルの村へと転移した。転移先は村の中央の祭壇ではなく、村から少し離れた場所だ。今回の件について、Olは三通りの予測を立てていた。そのうち二つは、こうしてOlが村を訪れる事を見越したものだ。

一つ目。抗議に来たOlに奇襲を仕掛け、倒す為の罠。

二つ目。抗議に来たOlが留守の間にダンジョンを攻める為の罠。

前者は転移先を村から離れた場所にする事で奇襲を避け、ユニスを伴うことで戦力的にも問題ない。後者はダンジョンにリルを残しているから、侵入者があればすぐにわかるはずだ。

問題は、三つ目だった場合。そして困った事に、その三つ目である可能性がもっとも高い。

村を訪れるとすぐさま平伏した村人達を見て、Olは自分の嫌な予感が当たった事を悟った。

つまり、マリーベル以外に清らかな若い女はいない、と、そういう事だな?

はい、その通りでございます。今、この村には若い娘が殆どおりませんで僅かにいた若い娘も、Ol様がいらっしゃる前に嫁いだもので、男を知らぬ中ではマリーが一番の年嵩なんでございます

さすがに生贄がOlの望んでいるものでなかった事は理解しているのだろう。村長は身を最大限小さくして、地面に額をつけんばかりに頭を下げた。

三つ目の予測。それは、村人が最大限誠実に取引を行った結果がこれである、と言うものだった。それは非常に困る。Olは今、切実に人手を必要としているのだ。

本来なら二ヶ月前に一人生贄が手に入る予定だったのだが、その村はユニスを手に入れる際に丸ごと灰にしてしまった。

骨も残さず燃やした為、リビングデッドやスケルトンさえ手に入らなかったのだ。

その言葉に嘘はないな?

猛禽の様に鋭い目で、Olは村長を射抜く。重圧に耐えかね、村長は震えながら答えた。

そ、その、一人、おるにはおるのですがとてもOl様に捧げられるような器量の娘ではなく

良い。その娘を連れて来い

もとより、Olは村娘の外見には殆ど期待していなかった。所詮田舎の村にそれほど美しい娘がいるとも思えない。処女を要求したのも、性処理ではなく魔術的な価値を重視しての話だ。

しかし

二度は言わんぞ

躊躇する村長に睨みを聞かせると、村長は逃げるように屋敷を飛び出していく。何故そんなに躊躇うのか、という疑問は、連れられて来た娘を見て氷解した。

長い黒髪に白い肌、均整の取れた体付きに、整った容貌。

そして、それら全てを台無しにする醜い傷跡が、顔の左半分を覆った娘だった。

Olの隣で、ユニスが僅かに息を呑む気配を感じる。

なるほど、醜いな

Olは率直にそういった。

幼い頃に重度の火傷を負ったのだろう。半分だけ焼け爛れた肌は、もう半分の美しさと対比されそのおぞましさをいや増していた。長い袖の服から顔を出している指先を見るに、顔だけでなく左半身の殆どが傷を負っているのだろう。この娘を抱こうなどと考える男は皆無であったに違いない。

ええ、ですから、Ol様のお目に入れるも見苦しく、候補から外した次第でして

Olの言葉に少し安心したらしく、村長は僅かに緊張のほぐれた表情で言った。

娘。名は何と言う

ソフィアと申します

それに対し、娘は全く臆した様子もなくそう答えた。Olに醜いと蔑まれた時も、眉一つ動かさなかった。その瞳は氷の様に冷たく、表情と同様に何の感情も読み取れない。

面白い

Olはニヤリと笑みを浮かべた。

姿かたちは若返っているとは言え、Olは熟練の魔術師である。その視線を真っ向から受けて、表情一つ変えない者など滅多にいない。

村長よ。俺はこの娘が気に入った。貰っていくぞ

は、はぁ、それは構いませんがその、マリーは

驚きつつも頷き、村長は探るような視線をOlに送る。

悪いが、マリーベルというあの娘を帰す訳にはいかん

Olの迷宮のほんの一端とは言え知った者を外に出す気はなかった。

が、契約は一年につき一人娘を差し出せ、と言う内容だ。無闇にその約定を破る訳にはいかん。10年。今から10年の間、娘を差し出すのを取りやめてよい

あありがとうございます!

マリーベルの、と言うよりは来年以降の事を心配していたのだろう。

Olがそういうと、村長は露骨に安堵の表情を見せた。

Olとしても、来年から赤子の様な娘を差し出されても困る。

良いだろう。では10年後の娘と、月々の作物を忘れぬようにせよ

そう言い残し、Olはユニスとソフィアを抱きかかえるようにして転移の呪文を唱える。

邪悪な魔術師が姿を消した後、村長は息をついて長椅子に深々と腰掛けた。

凄まじい圧力を放つ魔術師と、村中で忌み嫌われていた娘が村を去った事に、心の底から安堵しながら。

第7話穢れ無き乙女を生け贄に受け取りましょう-4

召喚の間に戻ると、マリーベルとリルの姿はなかった。マリーベルと一緒にやってきたはずの家畜も姿を消している。リルがちゃんと家畜小屋の方に連れて行ったのだろう。

こっちだ

召喚の間唯一の扉を見ていたソフィアに声をかけ、Olは部屋の隅の壁へと手招きする。Olが壁に触れると、その腕は何の抵抗もなく壁の中にもぐりこんだ。壁に見えるのはただの幻影で、外への通路はここにある。当然、扉の方は罠で、開いて出ようとすると底に槍衾を仕込んだ落とし穴が待ち受けるようになっている。

万が一、転移先を発見された時の予防策だ。

ソフィアはそんな仕掛けを不思議そうな目で見る事もなく、黙ってOlの後をついてくる。その仕草はまるで何の感情もない人形のようだった。

ね、Ol、あの子なんだかちょっと変じゃない?

Olの隣を歩きながら、ユニスが小声で尋ねる。

何がだ?

対して、Olは声を抑える気もない。

わかんないけどあの傷がどうこうとかじゃなくて

ユニスは違和感の正体に気付いていないのか、言葉を濁す。

Olは、リルであればどう評するだろうかと少し気になったが、構わず自室にソフィアを連れて行くと、後ろを振り返りおもむろに命じた。

脱げ

端的に命じると、言葉もなくソフィアは着ていた衣服を脱ぐ。その動きはよどみなく、恐怖も羞恥心も見て取れなかった。