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お前の国では、着衣のまままぐわうのが普通なのか?

痴れ者め! そのようなことがあるわけがなかろう!

ではどういうことなのだ、と問いかけて、Olはふとある可能性に思い至る。

まさか、貴様

絶対権力者として一国を支配し、何人もの美女を後宮に侍らせておきながら。

童貞なのか?

童貞の何が悪い!?

Olの問いに、ウセルマートは渾身の力を込めて叫んだ。

(本当にこれで良かったのでしょうか)

脳裏に響くマリナの言葉に、Olは答えることが出来なかった。

第19話高慢なる砂漠の王の鼻をへし折り絶望の淵に落としましょう-2

あはははははは!良い格好ねウセルマート!しかも童貞なんですって?折角だからOlに処女を奪って貰ったら!?

お、おのれぇー!貴様、言わせておけば!

ウセルマートを指差し爆笑するザナ。ウセルマートは激高し炎を出そうとしたが、それはザナに向けた途端に掻き消えた。彼いや、もはや彼女となったその身には、Ol特性の呪いがたっぷりと練り込んであるからだ。

あまり煽るな

実に楽しそうな氷の女王を、流石にOlは諌めた。

ザナの妹、イェルダーヴが怒り狂うウセルマートに怯え、Olの影に隠れるようにしていること。そして、十重二十重に構築した呪いの一部が、ウセルマートの放とうとした膨大な霊力によってピシリとヒビが入るのを見てしまったからだ。

力づくで鉄の檻を破るような、常識はずれな力だった。

お館様。準備が整いました

お茶とか用意したよー

そこへ、会談の用意を言付けていたホスセリとマリーが報告にやってくる。

うむ。ではお前たちも同席せよ

昇る太陽の神、純白のククルの巫女たるフウロの末裔、ホスセリ。

中天に座す神、金色のイガルクの巫女たるヒムロの姫、イェルダーヴ。

沈む太陽の神、赤きアトムの巫覡、砂の国サハラの王、ウセルマート。

地に隠れし神、黒きオオヒメの親にして地下迷宮の娘、マリー。

そして月の女神マリナの巫女ザナと、魔王Ol。

会議室に、太陽神に直接関わる者全員が集まっていた。

大体だな、この世で最も高貴なる余の胤(たね)をそうやすやすと下賤な女に渡せるわけもなく、ましてや何よりも尊い我が童貞をだな──

貴様の性経験の話はどうでもいい

ザナに煽られたのがよほど腹に据えかねたのか、椅子に座ってもなお言い訳じみたことを言い募るウセルマートに、Olはピシャリと言い放つ。

神に対して、基本的にはこの六人で挑む

嘘でしょ!?

そしてそう切り出したOlに、まずザナが異議を唱えた。

相手は四柱の太陽神の習合、全知全能の神なのよ!?それを、たった六人でって、正気なの?

だからこそだ

彼女がそう来ることはわかっていた。Olは落ち着き払って答える。

数を揃えたところで意味がない。対抗できる、ごく少数の精鋭。それこそが最善だ

──だとしても!

机を叩き、ザナは向かいに座ったウセルマートへ指を突きつける。

こいつは信用できない

ほう。不埒にもこの余を疑うか。王の中の王たる余が協力してやろうと言うのだ。それとも、この余が魔王との約定を違えるとでも?

ウセルマートは豊満な双丘を支えるように腕を組み、すらりとした脚も組んで椅子の背もたれに身体を預けた。元男とは思えぬほど妖艶な仕草に歯噛みしつつも、ザナは答える。

ええ、破るわ。あんたは他人との約束なんてなんとも思ってない

ははははははは!その通りだ。そも約束事、契約など対等な関係でするもの。万物の王たる余がなぜ貴様ら凡夫と結んだ約束を守ってやらねばならぬ?

ザナの指摘にウセルマートは隠しすらせず哄笑した。これには流石にマリーとホスセリも鼻白む。

それは構わんが、一生女の体のままでいいのか?

しかしOlの指摘にその笑い声はピタリと止んだ。

くっだがそのようなもの、全能の力を手に入れさえすれば

手に入れるまでは、否応なく協力する必要があるということだな

流石にウセルマートも一人でどうにかできると思っているわけではないのだろう。悔しげに表情を歪めつつも押し黙る。

まあ良い。だがむしろ、余の方こそ人選には不満がある。こやつらが何の役に立つというのだ?

ウセルマートはぐるりと一同を見回すと、尊大に言い放った。

太陽神の力を失い赤子同然の娘。未熟な半人前。犬ころ風情。一番マシなのが月の加護を得た氷の女王とはな。太陽に月が勝てるとでも思っておるのか?

あんた、誰のせいでイヴが!

太陽神と敵対しその加護を失った今、イェルダーヴは無力なただの女に過ぎない。それどころか服従の首輪によって自由を封じられ続けたために、できることは童女の頃と変わりないのだ。

誰のせい、だと?笑わせるな

激高するザナを、ウセルマートは嘲笑う。

お前がその軽い尻を振って、余を迎え入れたからではないか。余に拒まれれば今度は魔王に股を開いて助けを乞うなど、まこと呆れた淫売よ

ザナは怒鳴りも叫びもしなかった。代わりに彼女の手のひらから鋭い氷の槍がほとばしり、瞬き一つの半分の時間でウセルマートの心臓を貫く。

見よ

だが。その一撃は、ウセルマートの豊かな胸に届くより先に、放たれる熱波によって溶け消えてしまっていた。

余にすら歯が立たぬこの女が、一体何の役に立つ?

ギリ、と噛み締めたザナの唇から、血が滴る。ザナとウセルマートの術には絶対的な相性差、そしてそれ以上の出力差があった。どれだけ早く氷を繰り出しても、ウセルマートの纏う熱の鎧を彼女の氷は貫けない。ザナがウセルマートに攻撃を当てるためには、以前やったように完全に油断している隙を突くしかないのだ。

そして一度それを行った以上、もうそれが成功することはないだろう。ザナの目の前でウセルマートが油断することはない。

お前もだ、魔王。運もあったとはいえ余を下した智謀智略。余を蘇らせたその技術。見るべきところはないとは言わぬ。だが余の伴をするにはあまりに貧弱。お前の配下をよこせ。あの空を斬る赤毛の女や、獣を繰る女であれば多少の役にも立とう

ほう、とOlは内心声を上げる。ウセルマートは他人を歯牙にもかけないように見えて、存外Olの配下のことを見ていると思ったからだ。確かに、純粋な実力で言うなら連れて行くのはその二人だろう。

ユニスにミオか。無論奴らにも協力はしてもらう。だが、俺より部下の扱いが下手な奴に任せるわけにはいかんな

どんなことでも負けるのは気に食わないのか、ウセルマートは柳眉を釣り上げる。

俺ならば、この四人を従えお前を倒すこともできる

──ほう

しかしその表情は続くOlの言葉に、値踏みをするような笑みへと変わった。