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あんなモン、防げる奴はこの世にいねえよ! 超長距離からの攻城級魔術だと!?人間技じゃねえ! 金なんかいらねえ、降りさせてもらうぜ

先ほどまで笑みを交し合った兵士と冒険者が諍いを始める。

いざとなったら冒険者を盾にせよ

兵士達は、町長からそう通達を受けていた。そうすれば、支払いも減ると。

ならん! 逃げるというなら貴様らも、逆賊としてこの場で処分する!

目を血走らせ、兵士は冒険者達に槍を突きつけた。前方には魔物の集団、後方には槍を構えた兵士。冒険者達は、互いに視線を交わすと覚悟を決めた。

わかったよ。やってやろうじゃねえか!

そして、魔物達に向かって突進していく。

後ろで街に入っていく兵士達を見て、冒険者の一人が唾を吐いてつぶやく。

馬鹿め。門も射手もいないってのに、街に立てこもってどうする気だってんだ。民間人もろともなぶり殺しにされるだけじゃねえか

彼らはもちろん、勇敢に敵に立ち向かったりなどしない。Ol軍に接敵する前に進路を変え、さっさと逃げ出す。敵の狙いは街なのだ。ちょいと横にどいてやれば、それで戦う必要なんかなくなる。冒険者達が選んだのは、この負け戦からさっさと逃げ出す事だった。

愚か者め。そんな事をしても鴨撃ちにされるだけだ

そんな冒険者達を見て、兵士の一人が吐き捨てる。

射手を皆殺しにした攻撃方法があるのだ。戦線を離脱すれば、それを狙って殺されるに決まってる。

しかし、案に相違して冒険者達は狙い撃たれる事なく、無事に戦場を脱した。

撃たなくて良いのか、主殿

逃げ出していく冒険者を見ながら弓を構えるエレンに、Olは頷いた。

彼らにはこの戦争の事を伝えてもらわなければならない。

大勢は決まったようだな

間も無く魔物達が街に雪崩れ込む。そうしたら、街をゴブリンが破壊しつくす前に、奴らを止めなければならない。オークはOlが、オーガはリルが完全に操っているが、ゴブリンは別に操られているわけではない。ただ単に、オークやオーガを恐れて逃げているだけだ。

しかし、やはり人間は愚かだな。この大事に、お互いに争い、足を引っ張り合う。醜いものだ

エレンの言葉に、同意するようにスピナが頷く。しかし、Olは首を横に振った。

それは違う。人間と言うのはな、多様な生き物なのだ。恐らくあの人間共は、最初は奮起し正義の為に心を燃やした事だろう。それそのものは、別に嘘でも偽りでもない。しかし、同時に裏で打算や醜い欲望も渦巻いている。それもまた嘘ではない。どちらかのみを持てる人間などおらぬ。人は常に善と悪の狭間で揺れ動く。その多様性は時には恐ろしい矛となり、時には自分を殺す毒となる。今回は毒として機能するよう働きかけたのが上手くいった。しかし、だからといって人間を侮れば足元をすくわれるぞ

むう、と呻いてエレンは表情を引き締める。

確かに、たかが人間風情と侮った先にあったのは、黒の氏族の壊滅だった。

今回は辺境の田舎町、勝てて当然の相手だ。練習だと思え

とはいえ、初陣としては上々か。兵士達を蹂躙している魔物達を見て、Olは心の中でそう呟いた。

では、そろそろ行くか

戦えなくなった街で、もう一度突き付けてやるのだ。

隷属か、死か

多様な意見を持つ街であるが故に、個の意見によって意向が決まることはない。圧倒的な力を見せ付けた今、徹底抗戦を唱える人間がいても、同じ人間によって潰されるだろう。

その日、Olは街を一つ手に入れた。

第10話欲にまみれた冒険者どもに絶望を与えましょう-1

グオオオアアアアアアァァァッ!

唸りを上げて振るわれるオーガの豪腕を、アランは軽く身体を傾けてかわす。それと同時に懐に入って剣をひらめかせる。鉄の様に硬いオーガの皮膚に、瞬く間に無数の裂傷が走った。

グウガァァァッ!

全身を切り裂かれながらもさほど怯んだ様子もなく、オーガはアランを叩き潰そうと、丸太のような太い腕を振り上げる。そこに、ウィキアの放った火炎弾が炸裂した。

全身を炎に包まれ、流石のオーガもよろけ、片膝を突く。そこにすかさずナジャが斬り込み、横薙ぎに剣を振るうとオーガの身体は腰で上半身と下半身にわかれた。

ふぅっ

剣についた血糊を払い、鞘に収めるとShalがとたた、とアランに駆け寄ってその腕に触れる。彼女が短く呪文を唱えると、暖かい光がアランの傷を包み、一瞬にして綺麗に回復させる。

うむ、素晴らしい威力だな。真っ二つの剣《ソード・スラッシュイング》、とでも呼ぼうか

今オーガを両断した剣を見つめ、嬉しそうに言うのは戦士のナジャ。ゆるくウェーブする赤銅のような赤毛を長く伸ばした、長身の美女だ。南国グランディエラ出身で、豪胆でサッパリとした気性の女性だ。

ロングソード+1とかで良いんじゃないの

ぼそりと突っ込みを入れるのは、魔術師のウィキア。サラサラの青銀の髪をまっすぐ伸ばした美少女で、表情に乏しく寡黙だがその実誰よりも情に厚く心優しい。

あ、あたしは素敵な名前だと思いますよ

慌てたように二人の間に割ってはいるのは、僧侶のShal。エメラルドの様な緑の髪をボブカットにした小柄な少女だ。かなり幼く見えるが、見た目に反して白アールヴの彼女は最年長だ。パーティで諍いが起こった時も、にこにこと微笑んで心を和ませてくれる。

じゃあ俺の剣は切り裂きの剣(ソード・スライシング)って所か

そして、腰の剣をぽんと叩きそう答えたのがパーティ唯一の男性にしてリーダー、剣士のアランだ。金髪碧眼の美男子で、剣の腕のみならず魔術に罠の解除もこなす、オールラウンダー。恐れを知らぬ勇猛さと、冷静な判断力を併せ持つ凄腕の冒険者である。

彼らはたった四人で、凶悪と噂される邪悪なる魔術師Olの迷宮に挑み、既に地下4階まで足を踏み入れていた。ゴブリンやオーク、オーガにスケルトン、ドラゴン・フライにジャイアントスラッグさまざまな怪物が彼らの行く手を阻んだが、どれも敵ではなかった。

むしろ、時折怪物が落としていく宝箱からは強力な魔法の品や金貨などが手に入り、彼らの戦力はますますあがるばかり。アランとナジャが手に入れた剣もその一つだ。

それより、アランあそこ

くいとアランの袖を引っ張り、ウィキアが曲がり角の奥を指差した。アランがそちらを覗き込むと、通路の奥に、なにやら大きな扉が見えた。今まで見たのとは違う、両開きのしっかりした作りの扉だ。

いかにも何かある、と言わんばかりのその扉に、アランはごくりと唾を飲み込んだ。

どうする?

魔力は十分に余っているわ