大きく出たな。この半端ものどもで、余を倒すだと?
容易いことだ。何なら試してみるか?
──かかった。そう内心で笑いつつ、彼は答える。
良かろう。しかしよもや、この神帝たる余を試すなどという愚挙ただで済ますとは思ってはいまいな?
言ってみろ
余が勝ったときには、この女どもは余のものとする。もちろん、余の身体も男に戻せ
ば
馬鹿じゃないの、とザナは叫ぼうとする。そんな勝負を受けるメリットが全く無いからだ。
いいだろう
マスター!?
しかしあっさりと頷くOlに、彼女は驚愕した。彼が思っている以上に、ウセルマートの防御は鉄壁だ。たとえ四人がかりだろうと、勝てるとは思えなかった。
負けた時はどうするの?
それまで無言だったマリーが、不意に尋ねる。
は。余が負けることなどありえぬ
その問いをウセルマートは鼻で笑った。
いや普通に負けたじゃん
ぐっあれは例外だ。二度はない!
しかし鋭いマリーのツッコミに、狼狽えながらも言い放つ。
ないんだったらどんな条件だっていいよね
吐き捨てるようなウセルマートの言葉に、マリーはにんまりと笑う。
これが狙いだったのだろうか?と、ザナは思う。けれどそれはあまりに無意味に思えた。ウセルマートに言うことを聞かせるのであれば、そもそもその身体をもとに戻す約束を盾に取ればいいのだ。
ただの口約束なら、ウセルマートはそれを守る気などない。だが自分が勝ったとなれば平気でそれを守らせようとするだろう。相手と同様、そんな約束など守る理由がないと拒否する事もできるがそうなれば、ウセルマートは協力しなくなるだろう。
悔しいが、砂の王の実力は本物だ。太陽神と戦うのであれば必要だというマリナの判断はおそらく間違っていない。だが、この勝負にはあまりにも益がなく、失うものばかり多いように、ザナには思えて仕方がないのであった。
第19話高慢なる砂漠の王の鼻をへし折り絶望の淵に落としましょう-3
四対八つの乳房が、Olをぐるりと取り囲むように並ぶ。
ザナ、イェルダーヴ、ホスセリ、マリーの四人は、上着をはだけ胸を露出するようOlに命じられ、言われるがままに乳房をさらけ出していた。
無論、別に淫らな欲望からそうさせたというわけではない。胸元に特殊な顔料で塗り込めるのは、術の媒介となる魔法陣。ウセルマートとの勝負に向けての下拵えだ。
その光景に人知れず、ザナは苦悶の声を漏らす。
たわわに実ったイェルダーヴの双丘はもとより、Olの手のひらにちょうど収まる程度のホスセリの乳房、そしてもっとも年若いマリーの青い果実ですら、ザナの薄い胸より明らかに大きかった。
遅いぞ魔王、早くせぬか!
それどころか部屋の外から怒鳴り声を上げる元男にすら負けているのだ。
どうした。緊張しておるのか
あ、ええそうね。どうしてあんな条件で受けたの?
気づけば己の顔を覗き込んでいるOlに、ザナは慌ててそう問う。
簡単な話だ。お前たちは負けん。それに
Olはザナの胸元に呪印を描きながら答えた。
奴の鼻っ柱をへし折ってやりたいだろう?
ええ!
ニヤリと笑うOlに、ザナも笑みを返す。
一度殺したせいか、妹を取り返したせいか、それとも目の前の男のせいか。かつての殺したいほどの憎しみも、焦がれるような思慕ももはやない。だが叩きのめしてやりたいとは思う。
(それと、胸のことはあまり気にするな。俺はお前の感度の良い乳も好きだぞ)
と、ザナの頭の中にOlの声が響いたかと思うと、彼は無造作にザナの胸を鷲掴みにした。
思わずザナは胸を庇うように腕で押さえるが、Olが手を離さないせいでかえって彼の手を自分の胸に押し付けるような形になる。
この呪印の効果だ。以前お前と結んだ魂の紐の簡易版と言ったところだな。互いの思考を速やかに伝える効果を持つ
どうも
伝わってきたのは思考の声だけではない。Olが心からザナの胸を褒め、僅かに欲情している事までが伝わってきて、彼女は羞恥に頬を染めながらもゆっくりと丁寧にOlの指を外した。
まだか、魔王!余を待たせるとは万死に値するぞ!
ええい、気の短い奴め
Olは舌打ちすると、四人にはだけた衣服を直すよう命じる。
そら。もう入っていいぞ
まったく余を待たせおって!さあすぐに──
Olが言った瞬間ウセルマートは弾かれるように部屋に踏み入り、好色な目で女達を見回す。だがすぐに、その表情は何かを訝しむようなものへと変わった。
いや何でもない。さあ、さっさと始めろ、魔王!
マリーの問いにウセルマートは首を振ってOlを急かす。
そう急かすな
Olがパチンと指を鳴らすと、会議室が広がって家具や装飾が取り払われ、戦うのに十分な広さを持った大広間となる。
これで良い。では始めるとするか
待ちかねたぞ。どこからでもかかってくるがいい!
対峙するマリー、ザナ、イェルダーヴ、ホスセリに対し、ウセルマートは堂々と腕を組みながら胸を張った。その全身は、既に猛烈な炎熱によって覆われている。それはあらゆる攻撃を防ぐ、炎の壁だ。
喰らいなさいっ!
バカの一つ覚えめ
ザナが氷を放つが、ウセルマートは髪の毛一本揺らすことなくそれを身に受ける。
壊れよ、水よ!
そこにマリーが冷性剣グラシエスと湿性剣ウミディタスを振るい、ザナの作り出した氷を切り裂く。途端に氷は崩壊し、大量の水となってウセルマートへと流れ込んだ。
ぬおおおお!?
水は蒸気となってもうもうと立ち上り、視界を塞ぐ。その隙に、イェルダーヴは小さな炎を生み出し放った。
小癪な!
しかしウセルマートの一喝とともに熱風が吹き荒れ、イェルダーヴの放った炎は蒸気ごと吹き飛ばされる。
これでも、喰ら──
ウセルマートの手のひらで炎の玉が急速に膨れ上がり、投げ放たんと振りかぶった瞬間。ホスセリの放った手裏剣が火炎球に突き刺さって大爆発を起こした。
ええい、鬱陶しい!余に敵わんというのがわからんのか!?
しかし爆炎の中から現れたウセルマートは髪の毛一本焦げていない。炎熱の鎧は炎そのものも焼き尽くし防ぐ。
よかろう、一匹ずつ踏み潰してくれる!
再びイェルダーヴの放った炎を片手で払い除け、ウセルマートはザナに向けて片手をかざす。そこから炎がうずまき、奔流となってザナを襲った。炎の渦に巻き込まれ、ザナは一瞬でかき消える。
む?
その光景にウセルマートは怪訝そうに眉を寄せた。流石に即死するほどの威力は込めていない。それが骨も残さず蒸発するとは
などと思った時、背後から氷が突き刺さった。無論それは炎鎧に阻まれウセルマートに傷を与えることはなかったが、明らかに今倒したはずのザナの仕業だ。