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うむ。故にこうする

Olがザナの胸元をとんと指で突く。途端にザナの手のひらから氷がほとばしり、水上の部屋を覆い尽くす。それは複雑な紋様を描いた壁となった。

な、何したの!?

先だって結んだ呪印を通し、お前の術を使わせてもらった。お前の意に沿わぬ操作はできんから安心しろ

ただ意思の疎通をするだけであれば、肌に印をしるすなどという大掛かりな事をする必要はない。わざわざそんな事をするだけの意味があった。

これでダンジョンの内側に、ダンジョンがもう一つ出来上がったことになる。つまりは俺の領域だ。神とて簡単には手出しできぬ

Olは神ではないだろう

流石に聞き咎めたのか、これまで珍しく沈黙を守っていたラーメスが口を挟む。

忘れたか。俺は塞の神の加護を受けている神主なのだぞ。境界を操ることは我が権能。そして

ぐっと床がせりあがり、Olたちは水中から浮上する。

ダンジョンの中では、俺もまた全知全能だ

予想された太陽神の攻撃はなく、神気もまた部屋の中からは完全に取り払われていた。

うう~びしょびしょだよ~。水中歩けるのはいいけど、濡れるのはどうにかならなかったの?

無茶を言うな。膨大な海水を押しのけるのにどれほどの魔力を消費すると思う。第一、海水を退けてはそこは海ではない。太陽神からの攻撃を受けてしまうだろうが

スカートの裾を絞りながら不平を漏らすマリーに、心外そうに反論するOl。

でもさあ

マリーは周囲をぐるりと見回して、言った。

皆すっごくえっちな感じになってるじゃん

いずれも劣らぬ美女美少女たちは、皆一様にびっしょりと濡れそぼっていて、服がぴったりと肌に張り付きなんとも色っぽい様相を呈していた。

まさかこれが狙いだったんじゃないでしょうね

愚か者。見たいのであれば堂々と見るわ

恥ずかしげに胸を庇うザナに、Olはそう言い返した。

ラーちゃん、どうしたの?大丈夫?お腹痛くなっちゃった?

し、痴れ者がぁ!見るでない!

マリーが膝を抱いて蹲るラーメスに声をかけると、彼女は顔を真っ赤にして怒鳴る。ただでさえ薄くラインの出る衣装がぴったりと張り付いて、いっそ裸よりも艶めかしい。

見るなと言っておろうが!

放たれた火炎を手で受け止めて、Olは部屋の中心に据える。

ちょうど良い。氷で冷えるからな、これで暖を取りつつ着替えろ

言って、Olは背負っていた革袋から着替えを取り出した。

なんでこれ濡れてないの?

着替えを受け取りつつ、マリーは素朴な疑問を口にする。革の袋と言っても口は紐で縛るだけのもので、浸水を防げるようには見えない。

この袋は俺のダンジョンに繋がっている。必要な物資があれば用意させる

はぁい

袋の中を覗いてみれば、その向こうからリルが手を振りながらウィンクしていた。

便利ね、境界の神の力

ぼやくように言いつつも着替えを受け取り、服を脱ごうと上着に手をかけたところで、ザナはぴたりと動きを止める。

あっち向いててよ

言ったであろうが

恥ずかしげに言う彼女に、Olは傲然と宣言した。

見たければ堂々と見ると

このエロジジイ!

減るものでもあるまい。それに、今まで散々見ているであろうが

うるさい!それとこれとは別!むこう向けー!

呆れたように言うOlにザナは何度も蹴りを放つが、ことごとくかわされる。なんでこんなに機敏なのよこの爺は、と内心毒づいていると、不意にマリーが言った。

っていうか、ラーちゃんはいいの?

完全に忘れていた。ここしばらくやけに大人しい上に、濡れ姿を恥ずかしがる様があまりに女らしかったため、ザナですらラーメスが元男であることを失念していた。

良いわけあるか!

当のラーメスはあいも変わらずしゃがみ込みながら叫ぶ。

天幕を寄越せ、さもなくば衝立だ!

えっ、そっちなんだ。とザナとイェルダーヴは顔を見合わせた。

そんな暇はないようだ。さっさと着替えろ!

御館様、着替え完了した

そんなやり取りの間にさっさと着替えていたホスセリが二刀を構える。

その瞳が見据える通路の先から、敵が迫ってきていた。

第20話一歩踏み入れば即死するダンジョンに挑みましょう-2

ふっ!

ホスセリの一呼吸で、小鬼が三体、真っ二つに切り落とされる。左右の短刀と刃物のように鋭利な回し蹴り。まるで踊るように滑らかな、見事な連携だった。

なに?森のダンジョンに棲んでた小鬼が迷い込んできたの?

そんなわけがあるまい。太陽神の遣わした尖兵だ。直接殺せぬと見て送ってきたのであろう

あるいはそれは、ダンジョンの防衛本能とでも言うべきものかも知れなかった。ダンジョンを訪れた異物に対してまず真っ先に反応するのは、Olの魔窟でもまずはこういった小物たちだ。

御館様、キリがない

次々と襲い来る小鬼を切り捨てながら、ホスセリは呟く。

進むぞ!さっさと着替えろ!

Olは未だもたもたと着替えをしているラーメスたちに叫んだ。

だ、だが余は

ああもう、これでいいでしょっ!

うじうじと恥ずかしそうにしているラーメスに業を煮やし、ザナは氷術で彼女の周りに壁を作る。

すまぬ。恩に着る

わざと屈折させて透明度を下げた白い氷の壁の向こうからそんな声が聞こえてきて。

あいつが、礼を言った?

ザナは思わず、己の耳を疑った。

着替え終わったな。道を作るぞ

言って、Olは呪印を通じて同時に干渉する。ラーメスの放出した炎の霊力をマリーの持つ冷性剣で変換。ザナへと流して氷の通路を作り出し、その権限をイェルダーヴに譲渡。彼女の霊力で維持する。

ラーメスの無尽蔵の出力。マリーの応用力。ザナの速射性。イェルダーヴの持続力。

その全てを、Olの精微極まる魔力操作で引き出し、混合した結果であった。この方法であれば、広大なダンジョンを端からOlのものに塗り替えていける。

そして道を進む際の露払いは、その大半をホスセリが担う。いくら手練れの忍びといっても、連戦が続けば細かな傷は免れない。小さな傷でも重なれば致命傷となる。しかし彼女に限ってはその心配は無用であった。

ククルにその身体を明け渡した後遺症か、傷の治りが異常に早いのだ。ちょっとしたかすり傷程度であれば、数歩歩いた程度の時間で治ってしまう。相手が小鬼程度の相手であれば、疲れすらなく幾らでも倒すことが出来た。

よし地上部に出るぞ!

あ、懐かしいね、ここ

マリーの剣がダンジョンの天井を切り開き、ザナの氷術が筒状の通路と螺旋階段を作り出す。それを登れば森のダンジョンの地上部分、木々の壁が生い茂る天然の迷宮だった。