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あたしも大丈夫です

疲れもない。私も問題ないぞ

その一言でメンバーは彼の意図を正確に把握し、体調を報告した。

よし、じゃあ行くぞ

こくりと頷き、アランは扉を軽く調べる。鍵穴はなく、鍵もかかっていないようだ。もう一度メンバーを見渡し、声を出さず手でタイミングを合図する。

3,2,1

0と同時に、アランは扉を蹴り開けた。その隣をナジャがすり抜け、次にアランが扉の中に飛び込み、Shalとウィキアが中に入って扉を閉める。その動作は殆ど一瞬にして行われた。

Shalとウィキアが扉を閉めている間に、アランとナジャは剣を抜き放って前方に駆ける。扉の向こうは大きなホールになっていて、中央に巨大な怪物が座り込んでいた。3mほどの隆々とした体躯に、牛の頭を持つ怪物。ミノタウロスだ。

アランとナジャはミノタウロスが立ち上がる前に怪物へと接近すると、左右から同時にきりつけた。ミノタウロスは座った体勢のまま巨大な斧を持ち上げると、その剣戟をいともたやすく防ぐ。

舌打ちし、反撃を恐れて距離をとる二人の前でミノタウロスはのっそりと立ち上がった。

人間ならば二人がかりでようやく持ち運べそうな大斧を、片手で軽々と持ち上げ、ぶんと振るう。

巨大な体躯と斧の柄の長さもあいまって、その射程は生半可なものではない。アランはかろうじてそれをバックステップでかわしたが、ナジャは避けきれず吹き飛ばされた。

大丈夫ですか?

しかし、胴体を両断されても良いほどの衝撃にもかかわらず、彼女には大した傷はない。Shalの唱えた魔術がメンバー全員の身体を淡く包み込み、ダメージを軽減させていた。

ああ、助かった。しかし、アレはちょっと迂闊に近寄れないな

広い場所で大斧を振るうミノタウロス。アランはかろうじてそれをかわすものの、激しく地面を打ち付ける斧は床の一部を破壊して飛ばし、アランに細かい傷を無数につける。更に、足場が破壊される事でアランの素早いステップが殺され、よけるのが徐々に困難になっていく。

動きを止めてみる。あんまり長くは持たないから

そういい、ウィキアが長い呪文を唱え始める。ナジャは頷くと、ミノタウロスに向かって突進した。

新たに向かってくる彼女に向け、ミノタウロスは斧を横薙ぎに振るう。

うおおおおおお!

吼え、ナジャは床に剣を思いっきり突き刺した。直後、凄まじい衝撃が彼女を襲うが、大斧の一撃は床に刺さった剣を折ることはかなわず、ナジャの手前で止まる。凄まじい衝撃がナジャを襲い、剣を抑えた左腕に刃が食い込むが、戦闘不能に至るほどの傷ではない。

そこで、ミノタウロスの両脇に石の壁が立ち上った。ウィキアの魔術だ。本来防御に使うためのものだが、生半可な呪いでは動きを止められないミノタウロスの動きを強引に制限した。

ナジャ、続けッ!

好機と見て、アランがミノタウロスに向かって突っ込む。ミノタウロスは素早く大斧を手元に引き戻すと、アランに向かって思いっきり振り下ろした。

しかし、アランはそれを軽くかわす。両脇の石壁のおかげで大斧は振り回せず、振り下ろす事しかできない。それだけで、攻撃の避け易さは段違いになる。そして、アランが誘発した攻撃によって前傾姿勢となったミノタウロスの手首を蹴り、ナジャが跳んだ。

階段を駆け上がるようにしてその太い腕を駆け上り、両手で構えた剣を横薙ぎに振るう。狙い済ましたその一撃は、ミノタウロスの首に突き刺さった。

だが、オーガの胴体をも両断する鋭さを持って尚、ミノタウロスの太い首を刎ねるには至らない。剣は30cmほど食い込んだところで止まった。

くっ、しまった!

慌てて剣を引き抜こうとするが、それもかなわない。

危ないっ!

ナジャを衝撃が襲った。しかし、それはミノタウロスの攻撃ではない。彼女を突き飛ばした、アランの腕の柔らかな衝撃。そして、その後ミノタウロスの豪腕によって殴り飛ばされ、宙を舞うアランを目の当たりにした心の衝撃だった。

アランッ!?

普段冷静なウィキアが悲鳴を上げる。

だいじょうぶ、だ!

口から血を吹きながらも、アランはくぐもった声で答えた。

や、れ! とどめだShal、ウィキア、ナジャ!

アランが、指示する。三人の娘達は、彼の意図を一瞬で掴み取った。

ミノタウロスが腕を振るい、石の壁を殴りつける。魔力で作った仮初の壁はミノタウロスの腕力の前に耐え切れず、轟音を立てて崩れた。

ブオオオオオオオオッ!

傷をつけられ、怒りを露わにミノタウロスは突進する。狙いはナジャだ。

神よ、光を!

その瞬間、Shalが魔術で光を放つ。悪霊や夜の生き物達を討ち滅ぼす、神の光だ。ミノタウロスには毛の先ほどの傷をつけることも出来ないが、その目をくらませるのには十分だった。

強烈な光に一瞬視力を失い、よろけるミノタウロス。突進姿勢で低く下げたその首に向かって、ナジャは再び跳躍した。何も持たないその手に、アランが投げた剣が収まる。殆ど同時に、ウィキアの魔術がその剣に纏わりつき、光り輝いた。

うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!

渾身の力を込めて、ナジャはまっすぐ剣を振り下ろす。左側に刺さったナジャの剣と挟み込むようにして放たれたその一撃は、今度こそミノタウロスの首を両断した。巨体がぐらりと揺れ、ずんと音を立て床に沈む。

大丈夫か、アラン!

今、傷を治しますね

無茶を、しないで

勝利の感慨にふける間も無く、娘達はアランの下へと駆け寄る。早口でShalが回復魔術を唱え、アランの腹に手を当てる。

助かったよ、Shal

やがて傷が癒え、アランはShalの頭をなでた。嬉しそうに目を細める彼女の両脇で、ナジャとウィキアが不平を口にする。

とどめを刺したのは私なのに、私にはなしか?

私も色々活躍したと思うんだけど

わかってる、ナジャもウィキアもありがとな

二人を撫でてやると、ナジャはにこっと笑い、ウィキアは二人同時ってと形のいい唇を尖らせながらも頬を染めた。三人から好意を持たれているのには、アランは気付いている。が、その中から誰か一人を選ぶ事はずっと出来ないでいた。

初めてここまで来るものがいると思えば、これはとんだ色男だな

唐突に、地獄の底から響くかのような低い声が聞こえた。慌てて声の方に目を向けると、そこには琥珀色の髪の男が、ミノタウロスの死体に腰掛けるようにして座り、値踏みするかのようにアラン達に目を向けていた。

奇妙な仮面を身につけている為顔はわからないが、武器も防具も身につけていない普通の人間の男に見える。しかし、声をかけられるまで誰も気付かなかったその異常性に、アラン達は武器を構えた。