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雑兵と言えど油断するな。屍兵は一体で十の兵士に匹敵する

冷静に指摘しつつも、ラーメスはくるりと後ろを振り返った。

そら、そちらからも来るぞ

えっ、ちょっ、わわっ

突然背後から壁を割って現れた屍兵の一撃を、マリーは二刀を引き抜いて防ぐ。

えっ、あれ?抜けないっ

しかし残る二刀を魔術で抜こうとして、ぴくりともしない剣に彼女は慌てた。

この中では余以外は術を使えぬ。太陽神が支配しているからではなく、そのように出来ている

ドンと音が鳴ったかと思えば、マリーに次撃を繰り出さんとする屍兵の胸にポッカリと巨大な穴が空いた。ラーメスの炎が、燃え盛る間すら与えずに吹き飛ばしたのだ。

そういう事は先にいいなさいよっ!

ザナが力を振り絞ってホスセリを援護しながら叫ぶ。実際には使えないと言うよりは大幅に出力を減じられるといったところのようだが、屍兵を止められない事には変わりなかった。

ならば術を使わぬものを呼び出すのみだ

言ってOlが担いだ革袋から、片刃の剣が突き出す。それはイェルダーヴの頭上を通り、ザナの耳の横を穿ち、ホスセリの腕の隙間を貫いて、屍兵の首を叩き落とした。

絶句する三人をよそに、何事もなかったかのように剣はするりと革袋の中へと戻る。

兄さん、相変わらず変態的な剣の冴え

動かなくなった屍兵を蹴り倒しながら、ホスセリは褒めているのか貶しているのかわからない評価を下した。

第20話一歩踏み入れば即死するダンジョンに挑みましょう-6

しかし、こうして見るとなかなかに厄介なダンジョンだな

なんでちょっと楽しそうなのよ

笑みさえ浮かべながら言うOlに、ザナは呆れて突っ込む。

魔術の類がほとんど使えなくなってしまう上に、通路が狭いために一度に一人しか戦うことが出来ない。その上死を恐れず突っ込んでくる屍兵たちは、首を落とすか心臓を破壊するかしなければ動きを止めない。

急所を突いて最低限の労力で生き物を殺す術を得意とするホスセリとは、非常に相性が悪かった。魔術と法術に剣術を組み合わせて戦うマリーも同様だ。

四性剣の能力自体はそこに内包されているためか使うことが出来るが、肝心の四刀流を扱えないとなると彼女の戦闘力は半減以下であった。

魔術師であるOlとイェルダーヴに至ってはほとんど何も出来ることがない。ザナもほんの僅かに敵の動きを鈍らせるのが精一杯で、あとはOlのダンジョンの維持に注力していた。

頼みの綱はラーメスの炎術と、Olの呼び出すホデリの剣だ。いっそのこと本人をまるごと呼んだ方がいいのではないかとも思うが、彼の長い刀は狭いピラミッドの中で振るうには不向きで、剣撃だけを呼び出す方が効率がいいのだという。

だからといって毎回毎回頭の上とか横とかを、古びて硬化した包帯でぐるぐる巻きになった人の首を一発で刎ねるような刃が通っていくのは勘弁して欲しい、とザナは思う。

だが通路の支配権を確保する関係上、ホスセリ、ザナ、イェルダーヴ、Olというこの隊列は崩せないのだという。確かにほとんど効果を表さない氷術で氷の壁を張るのには、前から二番目というのはギリギリの距離ではあるのだが。

大丈夫。兄さんが間違って斬るのは、御館様が誰も抱かない日を過ごすよりありえないこと

ホスセリが言った直後、ひやりとした刃の温度を感じられるほどの距離、首の真横を刃が通り過ぎていく。もしかしてOlと二人でしっぽり過ごしたことを根に持ってるんじゃないでしょうね、とザナは思った。

髪の隙間を貫いておきながらどういう原理か毛の一本すら切断せずに刃が通っていくのだから、言っている事に嘘はないのだろうが、怖いものは怖い。

この先は、二手に分かれる必要がある

何時間、ピラミッドの中を歩いただろうか。巨大な門が中央を塞ぐ十字路でそう告げるラーメスに、Olは愉快そうに声を上げた。

どういう仕組みだ?

この門は、左右の通路の奥にある仕掛けを同時に動かさねばならん

あれ?わたしが逃げた時に、そんな仕掛けあったっけ

この通路自体には見覚えはあるものの、流石に何ヶ月も前の記憶だ。マリーは首を傾げて問う。

そもそも王たる余を阻むわけがなかろう。あの時は既に開いておった。お前が逃げ出したのはこの更に奥でのことだ。しかし今は侵入者として、仕掛けを起動せねばならんだろうな

なるほどでは

Olは一同をぐるりと見回して、人選を行う。

ザナ、イェルダーヴ、ホスセリ。お前達は左の道を行け。こっちの三人で右の仕掛けを動かす。タイミングは呪印を通じて指示する。新たに術を使うことは出来んが、既に仕掛けた術自体は効果を失わぬようだからな

わ、わかりました

素直に頷いたのはイェルダーヴだけであった。ザナとホスセリは口にこそしないが不満そうにOlに視線を向ける。

氷を操りダンジョンを形作れるのはザナ、お前とマリーだけだ。それを維持できるのは俺とイェルダーヴのみ。戦闘になった時前衛を担えるのはホスセリとマリーだけのみ。俺は道を知るラーメスと共にいなければならない。この条件で他の分け方はあるか?

はいはい、ないわよ、わかってる。いくわよ

ザナは嘆息しつつもそう言って、ホスセリの腕をとって左の通路へと足を踏み入れる。

御館様。──お気をつけて

ホスセリが振り返りOlにそう告げて、彼女達は通路の奥へと姿を消した。

さて、我らも行くか。といってもこの先には屍兵の配置はない。安心せよ

ラーメスはそう言うと、すたすたと右の通路を進んでいく。Olとマリーは一瞬視線を交わした後、その後を追った。

兵の配置がないというのならば、この仕掛けの意味は何だ?

道すがら、Olはそんな事をラーメスに問うた。

意味だと?

そうだ。侵入者の戦力を分断し、叩くというのならばわかる。実に効果的な罠だ。だが兵の配置がないならば意味があるまい

ラーメスは少し考え、答える。

そも侵入者はそのような仕組みのことを知らぬ。純粋に、侵入を許さぬための仕掛けであろう

正確な所を知らんのか

Olの問いに、ラーメスはああと頷いた。

ピラミッドを作ったのは余ではない。太古の祖先より受け継いだものだ。構造、仕掛けは全て知っているが、その意図までは関知するところではない

そうだとしても推測はできるだろう

推測だと?

ラーメスはOlを振りかえって、不愉快そうに顔を歪めた。

そうだ。あらゆるダンジョンにはそれを設計したものの意志が込められている。敵を害する悪意にせよ、味方を守る善意にせよな