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Olは風のダンジョンに手のひらをかざすと、端的に言った。

全部氷で埋めれば良い

いや流石の余も、それは難しいぞ

なにせ風のダンジョンは縦にも横にも大地の果てまで続いているのだ。いくらラーメスが天稟を持つと言っても、それを埋めるだけの霊力など人にあがなえる量ではない。

何。人に無理なら、人でないものの力を使えば良いのだ

言ってOlは、ザラザラとした質感の白い玉を取り出した。

なんだっけ、それ

どこか見覚えのあるその玉を、マリーは矯めつ眇めつ眺める。

それは、マリナ様に贈った!

そう。龍の首の玉。火竜デフィキトの骨だ

言った瞬間、Olの手にした白玉から凄まじい量の魔力が溢れ出す。

竜というのは全身これ魔力の塊だ。肉、骨、腱、鱗に脂、血の一滴までもが、並の魔術師であれば消し飛ぶほどの魔力に満ち満ちておる

骨の一片でそこまでの力があるのか!?

瞠目するラーメスに、Olはしかし首を振る。

流石に一片、この程度の大きさでダンジョンを覆い尽くすほどの魔力はない。だが

溢れ出す魔力をマリーの剣で霊力に変換し、Olはそれをラーメスに注ぎ込む。そして生み出される巨大な火炎球を、再度変換して氷を形作った。

塞の神の権能を持って、この骨と残りの死骸との境界を取り払った。神代より生き続ける竜、まるまる一頭分の魔力を全て使えば──!

それはまるで、最高位の魔術師が使う隕石落下(メテオスウォーム)の魔術のような光景だった。違うのは、呼び出されたのが天上に漂う星ではなく、巨大な雪塊だというところだ。

一つ一つが小さな家ほどもある雪の塊が、次々とダンジョンに降り注いでは砕け、谷の合間を埋めていく。

Olの手にした竜骨がその役目を果たし、ぱきりと乾いた音を立てて真っ二つに割れる頃には、彼らの目の前には広大な雪原が広がるばかりであった。

さて。進むとするか

呆然とするマリーたちを尻目に、Olは何事もなかったかのようにそういった。

なんか、可哀想な気がするなぁ

雪に埋もれた怪物たちをみやり、マリーはぽつりと呟く。風のダンジョンで待ち構えていたのは、羽を持ち空から襲いかかるつもりの魔物ばかりであった。

そんな連中があの吹き荒れる氷雪の中無事でいられるわけもなく、大半が崖の下に撃ち落とされて、わずかに残った残骸が雪の重みに耐えきれなかった屍を晒していた。

飛行能力を持った魔物は空を飛ぶために軽量なものが多い。あの量の雪を食らってはひとたまりもあるまい

あの量の雪を食らったら飛行能力とか関係なくひとたまりもないでしょ

薀蓄を語るOlに、ザナが呆れた様子で突っ込む。

いずれにせよこれで、火山以外の全てのダンジョンを我が領域としたわけだ

間近に迫る不尽の山を前に、Olは改めて語る。

これで太陽神は逃げるわけにはいかぬ。手筈は良いな?

んうん

マリーは頷きながらも、不安げな表情を見せた。

ヤタラズを倒した後。Olは太陽神を追い詰めるための作戦を一行に語った。その方法に文句があるわけではないのだが

どこか、違和感があった。Olの立てた作戦は、あまりに不確定な情報の上に立脚していて、それは彼らしくないとマリーは感じていた。

今のだってそうだ。本当に、これでダンジョンは全てだっただろうか?

やはり来たか。魔王Ol

出し抜けに、その声は響いた。

まさかこんな入口で出迎えてくれるとはな

男のものとも女のものともつかぬ、透明な声色。

しかしそれを発するのは、誰よりも美しく、そして何よりも愛おしい娘の姿をした女神。

ソフィアとサクヤを返してもらうぞ、太陽神よ

全てを支配するまったき神に、Olは宣戦布告した。

第21話全知全能の神を斃しましょう-2

言ったはずだ。それは不可能であると

厳かに告げる太陽神を、Olは嘲笑う。

仮にも全知全能を標榜する神が不可能だと?

その挑発に、太陽神の形の良い眉はほんの僅か、しかし明らかに不愉快げに動く。

一番目だ

出し抜けに放たれた意味のわからない語句に、今度はOlが眉をひそめる番だった。

全知全能たる私が、あなたを滅ぼさなかった理由。それはテナが述べていた可能性の一番目。ただ単にあなたという存在に、滅ぼすまでの価値がなかったからに過ぎない

それは、Olが太陽神を倒すと決めた時、テナと交わした会話だった。

は。それで、俺達がお前のダンジョンの殆どを支配するまで待ってくれたと?随分お優しいことだ

内心の動揺を押し隠すようにOlは言う。

そこまでしてなお、あなた達は私の脅威とはなりえない。支配した、といっても──

太陽神の右の手のひらから砂嵐が、左の手のひらからは氷雪が溢れ出し、Olたちを襲った。

あなた達がなしたのは、私の足元に小さな氷を貼り付けただけの事。私の力は

砂嵐をザナの氷術が凍りつかせ、氷雪をラーメスの炎が焼き尽くす。

しかし。

この通り、微塵も減じてはいない

吹き荒れ続ける砂嵐にザナの氷は追いつかず、ラーメスの炎は力負けして、二人は共に吹き飛ばされて風のダンジョンを覆う雪の中に叩き込まれた。

ちっ!ユニス、スピナ!

Olが革袋を開けば風のように中から赤毛の英雄と稀代の魔女が飛び出す。それとほとんど同時にスピナの放った粘糸が太陽神を縛り付け、ユニスが斬撃を放った。

魔法生物生成の天才によって作られたその糸状のスライムは、蜘蛛糸の十数倍もの強度を持ちつつ、巨人ですら引き剥がせないほどの粘着力を持つ。一度縛り付けられれば古竜ですらおいそれと抜け出せないものだ。

そして空間を自由に転移する英雄が編み出した斬撃は、刃を境にした片側をほんの僅かに転移させ、空間そのものを斬り裂くという技だ。光と同じ速度で閃くこれを避けることは極めて困難で、どれほど硬い鎧も意味を持たない。

それを。

太陽神はこともなげに引きちぎり、片手で払い除けてみせた。

わっ。全知全能とか言うだけのことはあるね

お師匠様、ここはお任せを

呑気な声を出しつつもユニスはいつになく鋭い視線を向け、スピナは溜め込んだ魔力を用いて無数の分身を生み出しながらOlに向かって叫ぶ。

無理はするなよ!

Olはそう返しながら、雪の中からザナとラーメスを引きずり出した。

雪の女王が雪まみれなんて、洒落にもならないわ!

流石は太陽神、あれ程の力があるとはこの余が目をつけただけのことはあるわ

口に入った砂を吐き捨てながらザナがいい、ラーメスは愉快そうに笑う。

言っておる場合か。行くぞ!

Olの操作によって吹き荒れるザナの氷が太陽神を取り囲む部屋を作り出し、更に通路の先にOlのダンジョンを形成していく。