Выбрать главу

行かせは

それはこっちの台詞だよっ!

無論そんなものは時間稼ぎにすらなりはしないが、目くらましにはなる。瞬時に消しとかされる氷の壁に紛れて、ユニスの斬撃が飛んだ。

やっぱり、手で撃ち落とすよね

その尽くを打ち払う太陽神に対し、ユニスはにっこりと笑った。

手を使わないと防げないんだ。全知全能なのに

それは、獲物を捕らえる時の肉食獣のような笑みだ。

それは認めよう。だがこのようなもの、百来ようと千来ようと?

言葉の途中で太陽神は急に力を失い、がくりと片膝を突く。目を向ければそこには、小さなスライムが二匹、蠢いていた。真っ黒なスライムと、純白のスライムだ。

結局、霊力というものを吸い取るスライムは作ることが出来ませんでした

残念そうに、スピナは言う。

ですので魔力喰いと理力喰い。二種のスライムを放たせて頂きました

左右に大きく広げた彼女の両手がどろりと溶けるようにして崩れ、黒と白とに染まる。

じゃ、頑張ろうね、スピナ

力をお借りします。ユニス

二人は互いにそう言い合うと、太陽神に向かって駆け出した。

大丈夫かな、姉さんたち

心配ないとまでは言えぬが。我が妻で最強の二人だ

心配そうにぼやくマリーに、Olは走りながら前方を示す。

それよりも、己の心配をした方が良かろう

そちらからはOlたちを迎え撃つべく、次々に怪物たちが姿を現していた。

敵は任せたぞ

承知致しました

がんばりまーすっ!

それに対するは、ホデリ、ホスセリの兄妹に巫女の少女、ユツだ。

津波のように押し寄せる小鬼たちの額に正確にホスセリの放った手裏剣が突き立ち、その死骸を踏み越えて襲い来る巨大な蜘蛛の身体をホデリが一瞬にしてバラバラに切り捨てる。

むユツ殿!

その背後で大きく口を開け、紅蓮に染まる鵺の喉奥を見て、ホデリが叫んだ。

はあい。風よっ!

ユツが妖狸の尻尾を変化させた大団扇を振るうと、凄まじい風が巻き起こって鵺の吹いた炎は逆流し、鵺自身を焼き焦がす。

忝(かたじけ)ない。助かり申した

その一瞬、ホデリはその風に乗るようにして間合いを詰めると、猿頭の怪物の身体を一刀のもとに両断した。

やるじゃない!

ほとんど一瞬にして全滅した怪物たちにザナが快哉を叫ぶ。それと同時に巨大な広間を氷が覆い尽くし、新たな部屋を作り出した。

イヴ、大丈夫?

はいお姉様。まだいけます!

あちこちに煮えたぎるマグマが流れる火山の中、氷を維持するのは流石のイェルダーヴにもかなりの負担となっている。そうでなくとも、彼女は今まで辿ってきた全てのダンジョンの維持を担っているのだ。だがイェルダーヴは荒く息を吐きつつも気丈に答えた。

Ol、厄介な新手が来たぞ

舌打ちし、ラーメスが暗がりに向けて炎を飛ばす。神の力を帯びずとも、彼女の膨大な霊力によって甚大な破壊力を秘めた火炎球は、しかし長い尾の一振りで弾き散らされる。

何だ?大蛇か?

いえ、違います、あれは!

ずるりと伸びた細長い身体に呟くOlに、ユツが悲鳴じみた声で答える。

確かにそれは蛇によく似ていた。だがその頭はワニのように長くゴツゴツとしていて、頭には鹿のような角が二本、生えている。そして四本の指を持つ小さな手足は、しかし大地を踏みしめることなく、まるで空中を泳ぐかのように宙をたゆたっていた。

龍です!まさかあんなものまで支配しているなんて

その言葉は、正確にOlに伝わった。

竜。いわゆるドラゴンとは別種のしかし、同等の脅威を持つ存在。

殿、お下がりを。あれは、某が刺し違えてでも仕留めまする

ざわり、とホデリの肉体が隆起し、その瞳が漆黒の真円を描く。忌まわしい呪いによる獣の姿も、龍の生み出す風雨を防ぎ牙と爪とを弾く鎧になるならありがたい。異形に変ずるホデリを強敵と認めたか、龍の髭がパリパリと乾いた音を立てて雷気を帯びた。

兄さん!

ホスセリ。お前は殿を御守りせよ

ぽんと妹の頭を撫でて、鮫頭の男は笑みを浮かべる。

良い子を産むのだぞ

そしてそう告げると、死地へと赴いた。

龍とはただの獣ではない。神の一種とも言われる、最強の存在。そんな相手に只人の身でどこまで迫れるか。ホデリはぶるりと身体を震わせた。

武者震いは武士の誉れだ。たとえ勝てたとしても死は免れぬであろう、必死の戦。

その戦場に、彼は足を踏み入れ──

ごめん、ホデリさん

そのときにはもう、全ては終わっていた。

マリーは龍の死骸を背に、髪が赤く染まった頭を下げる。

竜っていうからイケるかなって

結論から言うと、イケた。マリーがその身に降ろした竜殺しウォルフディールの竜種必殺の権能はてきめんに効き、龍は何をもする前にその躯を地面に横たえることになった。

ぷしゅうう、と風船が萎むような音を立て、ホデリの身体が元の人へと戻る。

皆様ご無事で何よりでござる

その姿はどこか、年老いたようにも見えた。

あったぞ。あれだ

火山のダンジョンの奥。要と呼べる場所に辿り着いて、Olはそこに鎮座する巨大な岩を指し示した。そここそ火山のダンジョンの心臓部。サクヤの住んでいた部屋だ。

といっても、それを破壊すればサクヤの身に何かがあるというわけではない。ましてや太陽神を倒すのに役立つというわけではなかった。

いくぞ。結界を張る

だがわざわざそこまでやってきた理由は無論ある。

そうはさせない

故に。全知全能の神もまた、それを阻まんと手を打っていた。

岩の陰から現れたのは、薄紅色の美しい髪をたたえ、まるで花びらのように幾重にも広がる着物に身を包んだ見目麗しき女神。

姫、様!

行くなよ、ホスセリ

無論、それがサクヤ本人であろうはずもなく。

悪趣味な真似をしてくれる太陽神めが

Olは憎々しげな目で、サクヤの姿をしたそれを睨みつけた。

第21話全知全能の神を斃しましょう-3

悪趣味

太陽神は、Olの言葉を反芻して言った。

別にこれはあなた達の戦意を削ぐために外見を変えているわけではない

その声色からは平坦で何の感情も読み取れなかったが、心外だと訴えているようにも思えた。

ただ、余った肉体を活用しているだけだ

落ち着け

凄まじい殺気を迸らせるホスセリとホデリを、Olは押さえる。

俺が結界を張るまでの間、奴を押さえられるか?

この命に代えましても

必ず

相も変わらず物騒なことを言うホデリを、Olは咎めなかった。

ユツ。ザナ。ラーメス。マリー。イェルダーヴ。お前達も援護しろ