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サクヤに負けず劣らず美しいではないか

確かにイワナガに欲情するような男はそういないであろう。あまりにも幼すぎるからだ。しかしその造形そのものはけして醜くも不細工でもなく、むしろ美しかった。

子供らしい愛らしさとはまた違う十数年もすれば美人になるだろうと感じさせるような、そんな美しさだ。

だけどわ、わらわせいちょうは、しないの

サクヤが花のような繁栄を象徴する神であれば、イワナガは岩のような永続性を象徴する神である。故にその幼い容貌はけして変わることなく

生まれたときから、サクヤに求婚するものは引きも取らず、イワナガに求婚するものは全くいなかった。故にイワナガはサクヤを妬み嫉み、憧れながらもけして認められないのだった。

もっともサクヤはサクヤで、そのせいで理想を高く持ちすぎて結局Olと会うまで男と縁がなかったりしたのだが。

案ずるな。見ての通り

Olはリルを抱き寄せながら、言った。しかしその使い魔の姿は常とはまるで違う。メロンのようにたわわに実った双丘は引っ込み、むっちりとした芸術品のような太ももは細く短く、男を誘惑してやまない尻は小さくなっていて。

ちょうど、目の前のイワナガと同じ年頃に見えるまでに縮んでいた。

俺はロリコンだ

血を吐くような思いでそう宣言するOlの脳裏で、四本腕の悪魔が快哉を上げたような気がした。

くしゅんっ

一人火山のダンジョンの外を駆けながら、マリーはくしゃみをした。全身暖かなイェルダーヴの炎を纏ってはいるが、火山から雪原に移動してまた火山、という温度変化でやられたのかもしれないな、などと思う。

ええと、この辺りのはずなんだけど

Olから指示されたものを探しながら、マリーは山の麓をキョロキョロと見回すがそれらしいものはまるで見つからない。

げっ

それどころか、木陰から姿を表した小鬼とバッチリ目があってしまった。

見つけた

しかもその小鬼から、例の男とも女ともつかぬ太陽神の声が聞こえたものだから、マリーは思わず表情を引きつらせる。

結界か。小賢しい

その小鬼が自分を指差し呟くのを聞いて、マリーは反射的に自分が今即死させられそうになったことを悟った。イェルダーヴの炎がなかったら成すすべなく死んでいたに違いない。となれば。

ひゃぁっ!

マリーが横っ飛びに飛ぶと同時に、彼女が先程まで立っていた地面が真っ二つに裂けた。即死させられなければ、次はユニスのすべてを切り裂く斬撃だ。あまりの殺意の高さに戦慄しつつ、マリーは当て所なく逃げる。

逃さない

言葉とともに出てきたのは、ユニスの姿をした太陽神だった。英霊も神と本質的には同質の存在だ。つまりはユニスも取り込まれてしまったということなのだろう。

あれ?ってことは

マリーが思わず別の事に思考を飛ばした時。彼女は地面にあいていた穴に躓いて、そのまま穴の中に転がり落ちた。

チ。まあ良い。好都合だ

太陽神がパチリと指を鳴らすと、火山の側面からマグマが溢れ出し、マリーの落ちた穴へと流れ込んでいく。

太陽神が全知の力で確認した限り、その穴の先はなにもないただの地下道だ。

こうしてマグマを流し込んでやればもはや逃げ場もなく、先程の転移のような幸運もそう何度も続くまい。なにせ火山のダンジョンはその殆どを岩で占めている。確率で言うなら生き埋めになってしまう可能性の方が何倍も高いのだ。

そこまで考えて、太陽神はふと違和を感じた。

なにもない地下道?

なぜ、そんなものがこの火山の麓に存在しているのか。無論、山の中には自然にできた火山洞は無数にあるが、ここは火山の外だ。しかも地下道はよくよく見てみれば、レンガを積んで作られた明らかに人工的なものだ。

いやだからといって何になるというのか。逃げ場がないことには変わりがない。ついでに念のため、転移を防ぐ結界を張ってやれば、マグマによって焼け殺される運命は覆しようもない。

案の定マリーは行き止まりの部屋でマグマに追い詰められて

そして、その時、爆発が起きた。

マリーのいた部屋の天井が吹き飛び、それと同時にマリー自身も空高く飛んでいく。何が起こった──そう考えるのと同時に、太陽神の全知の権能がその理屈を感じ取る。

マグマによって圧縮された空気の圧力で比較的薄かった天井が吹き飛び、マリーごと吹き飛ばされたのだ。

そして少女はそのまま空中をくるくると回りながら、すとんと足から着地した。

太陽神の、目の前に。

けれどその姿はつい先程とは全く異なっていた。

アルティメットマリーちゃん

少女はいや。もはや少女とは呼べぬ姿の彼女は。

ぜんせいきのすがた、さんじょう!

五歳児の姿で、堂々とそう宣言した。

第21話全知全能の神を斃しましょう-6

あはははははははは!

幼子の無邪気な笑い声がこだまする。それはまるで、大人と遊んでもらって楽しくて仕方ないと言わんばかりの笑い声だった。

だが、そんな彼女の傍らでは、盛大な破壊音が鳴り響く。壁が真っ二つに割れ、マグマが吹き出し、氷の槍が突き立ち、砂嵐が巻き起こる。

全知全能の神が振るう、ありとあらゆる破壊の渦に狙われながら。

しかし、マリーは傷一つついてなかった。

馬鹿な馬鹿な馬鹿な!何故だ、何故当たらん!?

太陽神は全知である。マリーがどのように動き、何をしようとしているかまで、完璧に把握している。にもかかわらず。

マリーが突然つんのめって転げ、たまたまその瞬間を狙った全てを斬り裂く次元の斬撃が彼女の頭上を切り裂いていく。

その足元を狙ったマグマの隆起が、くしゃみをして立ち止まったマリーの鼻先をかすめて虚しく通り過ぎる。

ならば全てを飲み込んでくれると放った砂嵐に乗って、マリーの軽い身体はふわりと浮いて飛んでいき、おもしろかった!もっかい!などとおかわりを要求される始末だった。

それらはどれもマリーが狙ってかわしたわけではない。

たまたま、運良く、偶然、当たらなかっただけに過ぎない。

だがそれが十度も二十度も続けば、何かがおかしいのはわかった。

わかったが何故そうなるのか、全知の能力を持ってしてもわからないのだ。

ならばこれでどうだ!

太陽神はマリーの進む先、通路全体を崩落させる。ダンジョンは太陽神にとって肉体そのものに近しい。小さな傷ならばともかく、大規模な崩落となると流石に痛みが走る。しかしその傷を負ってでも今のマリーを止めなければならないと、全知の力が警鐘を鳴らしていた。

あははははは!

マリーは楽しそうに笑いながら、臆することなく崩落する通路に突っ込んだ。