イエス、ロリータッ!
ローガンは衝動にいざなわれるまま、拳を振り上げ。
ノータッチ!
四方八方から迫りくる岩、炎、氷、砂嵐を全て防いだ。
全知全能と言えど!ロリにお触りは厳禁だぜ、太陽神さんよぉっ!
全身に力が満ち満ちている。何故かなど、考えるまでもない。
最高のロリと共に駆けているからだ。
しかも新たなロリの気配もするしな一万年ものの極上のロリの気配と完璧なロリの匂いだ
べろり、と舌なめずりをするローガン。
ねえ、ろーがん
はいっ!何でしょう!?
そこで突然マリーに話しかけられ、反射的にローガンは居住まいを正す。
こーげき、こなくなったね
だがその無垢な唇から紡がれたのは、呆れでも叱責でもなく、ただの素朴な疑問だった。
ああっ、やっぱこの頃のマリーちゃんマジ天使じゃなくって、言われてみりゃあそうだな。諦めたか?
先程の飽和攻撃をローガンがノリだけで防いだからだろうか。間断なく仕掛けられていた太陽神の攻撃が、ぴたりと止んでいた。
全知全能に、諦めなどない
かと思えばすっと行く手に太陽神の姿が現れ、そう告げる。
こんにちはー
マリーはぺこりと頭を下げて挨拶した。その下げた頭のすぐ上の空間を、ユニスの斬撃が切り裂いていく。
無駄だってのがわっかんねえのかなあ。折角のユニスの無駄遣いだぜ全くよ
呆れながら、ローガンはユニスに向けて炎を二つ三つ放り投げる。
ユニス本来の剣技がまるで使えてねえじゃねえか。単に何でも斬る斬撃を放つだけだったら怖くも何ともないぜ、全知全能さんよ
あらゆるものを燃やすはずのローガンの炎はあっさりと切り伏せられ、消滅する。だがそれだけだ。ユニス本人であれば、それと同時にローガンをバラバラにするくらいはしてのける。
そらよ
だから牽制の炎を無数に放つだけで簡単に動きを止められる。しかもユニスを操っている間は本体は動かせないらしく、他の攻撃の手も止むからいっそ普通に攻撃されるよりも楽なくらいだ。
確かに私の能力ではあなた達を殺すことは出来ないようだ
そしてとうとう、太陽神はそれを認めた。
だが同時に、あなた達の能力で私を殺すことも出来ない。それとも試してみるか?その幸運とやらで、私を倒せるか
誘うように腕を伸ばす太陽神に、ローガンはチッと舌打ちする。マリーの幸運は、偶然を必然に引き上げるもの。万に一度を万に万度にするものだ。
ローガンとマリーでは、太陽神に万回挑んで一度も勝てない。法術とはゼロを一に出来るような性質のものではないのだ。
ま。知ったこっちゃねえな。行くぜ、マリーちゃん
ローガンはマリーの背を押し、先を急ぐ。どこを目指しているのか、何をしたらいいのか。そういった詳しいことはローガンも知らされてはいない。
Olの旦那が何とかしてくれんだろ
だがローガンは楽観的にそう考え、さほど気にしてはいなかった。
そして
太陽神が、笑みを浮かべる。
その結界も、永遠に持つものではない
マリーを覆う炎が揺らぐのを見て、ローガンは己の失策を悟った。太陽神の目的は攻撃ではない。会話による、時間稼ぎだ。
くそっ、待て、待ちやがれ!
ローガンは消える炎に叫びながら、マリーを抱き上げ通路を急ぐ。
遅い
その炎がふっと立ち消え──そして、太陽神の指がパチンと鳴らされた。
わー!
そしてその、一瞬後。
はやいはやーい!
そこにはローガンの角を掴んで楽しそうにはしゃぐマリーの姿があった。
太陽神とローガンは、図らずも同時に間抜けな声をあげる。
馬鹿な!これだけは幸運でどうにかなるわけが!
パチン、パチンと何度も太陽神は指を鳴らす。それは己の領域にあるものを支配するという神の権能そのもの。結界がなくなった今、一万回試せば一万回マリーは死ぬはずの攻撃だ。運良く避けるとか、無効化されるとか、そういった事がありうる種類のものではない。
だが現実に、マリーは一向に死ぬ様子もなく、楽しげにローガンに揺られるのみ。
どうなってんだ?
何故マリーが死なないのかは、ローガンにすらわからなかった。
そういえばあれどうなってんの?
あれとは何だ
Olの膝にごろんと頭を乗せて尋ねるリルに、Olはわかっていながら問い返す。
マリナに渡そうとして、結局いらないって言われたやつ。氷のダンジョンで火蜥蜴の皮使って、石のダンジョンでメリザンドの器。風のダンジョンで竜の骨使ってえーと。ほら、あれもまあ、アレしたでしょ
不思議そうな顔をするチルに、リルは慌てて言葉を濁す。
で、最後に一個なんか残ってるはずじゃない。なんだっけ、えーと
スピナの作った、燕だな
迂闊な奴め、とリルの頭をぐりぐり圧迫しながら、Olは答えた。
あ、そうそう。それだ。アレは流石に使いどころないんじゃないの?
燕と貝の特徴を併せ持った気色の悪い生き物の姿を思い出し、リルは顔をしかめる。
何を言う。今まさに役に立っているだろう
Olは岩肌に映るマリーの姿を示していった。
え?何に?
呪殺避けだ
回避も防御も不可能な、絶対必殺の攻撃。それを防ぐのは簡単だ。
対象を、ずらしてしまえばいい。
流石に太陽神本人には効かないだろうが、他の存在に死を押し付けるのはそう難しい魔術ではない。そしてマリーの服の裏地に無数に張り付く燕貝が死んでいる事に、太陽神が気づくことはない。
なにせ死んでいるのは指先ほどの小さな貝だ。それを見逃す事は十分に有り得る。十分に有り得るということは、今のマリーに対しては絶対に見逃すということになる。
太陽神の絶対の権能は、どのような存在であろうと必ず殺す。故にそれがちっぽけな魔法生物であろうと、人一人であろうと、手応えは一切かわらない
かわらないから、己が何を殺しているかにすら気づけない。その全知で知ろうとすれば簡単に知れるだろうに。
全能ゆえに、己の能力に絶対の自信を持っているがゆえに、見逃すのだ
第21話全知全能の神を斃しましょう-8
何故だ。どうしてこうなった。自分は何をしているのか。
太陽神はマリーを追いながら、そう自問していた。
魔王Olなど取るに足らない存在だったはずだ。
ましてや子供の姿に戻ったマリーなど、脅威になるはずもない。
──いや。今なお、脅威ではないのだ。いくら殺すことが出来なかろうが、相手の攻撃も太陽神には通じない。ならば脅威などであるはずがない。別に殺さずとも、捨て置いても構わないはずの存在だ。
しかし同時に太陽神は心のどこかで、マリーを警戒していた。
取るに足らない子供一人と思いながらも、彼女が己に破滅をもたらす存在であるという直感が、どうしても拭い去れない。