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死してなお子に取り付き、神の力を掠め取り、自ら太陽神を名乗る偽神めが

違う!我こそは全きもの!万物の支配者!全知全能の──

必死に否定するラーに、Olは告げる。

お前はただの、死霊だ

それはただの言葉ではない。ソフィアの力の乗った宣言。

ラーの化けの皮を剥ぎ、その力の全てを奪う宣告だった。

助けよおおおお!ラーメスうううう!私を父を!

マリーの付けた名によってそのあり方を規定され、Olの宣告によって残った力も失っていくラーは、己の子に腕を伸ばして助けを乞う。

父上

そんな彼を、ラーメスは複雑な表情で見つめた。

私を助ければ、お前も!王の中の王に!万物の支配者となれるのだぞ!

もがき苦しみながら、ラーはそう訴えかける。

Ol。すまぬ

ラーメスは数歩進むと、その手に炎を浮かべながらOlたちに向き直った。白い炎は万物を滅ぼす神の炎。彼女が太陽神の力を取り戻した証だ。

ラーメス

声をかけようとするOlを制し、ザナが一歩前に進み出る。

あんたね

彼女は長く深くため息をついて、言った。

タメとかいらないから、とっととやっちゃいなさいっ!

その言葉と同時にくるりと振り向き、ラーメスが炎を叩き込む。

何故だ!何故だああああ!

怨嗟の声とともに燃えていく死霊に。

助けるわけあるか、クソ親父っ!

ラーメスは、そう言い放った。

第21話全知全能の神を斃しましょう-9

終わった、のよね?

燃え尽き、影さえも残らず消えたラーの姿に、ザナは呟くように尋ねた。

ふむ。試してみるか

Olは言ってザナに向きなおると、問いを放つ。

マリナ。俺の質問に最善手で答えよ。ラーは消滅したか?

はい。完全にこの世から消滅しました

ザナの口を借りて、月の女神マリナが──正確には、その権能が答える。

ななにそれ!?

答え終わるなり、ザナ本人が声を上げた。

何だ?お前、記憶を返してもらっていないのか?リルの奴め、またいい加減な仕事をしおって

ぼやくOlの胸ぐらを掴み、ザナは問いただす。

ラーの奴に心を読まれるから記憶を消したのだ。今のように、マリナの権能で聞いたラーの情報を、全てな

元々、マリナの最善手の力は、ザナもマリナも知らないはずの異国の言葉を完全に齟齬なく話すことが出来る程の力を持つ。

その結果がどうなるかマリナすら知らないが故に、マリナが知らぬことでさえ説明することが出来るのだ。

俺がまず聞いたのはこうだ。俺が今敵対している、まったき一つの太陽神と称するものの正体は何だ?とな。すぐにウセルマートの父、セテプエンラーの亡霊が太陽神の力を奪ったものと答えが返ってきた

そんなの、アリなの!?

あまりにも身も蓋もない神の力の使い方に、ザナは思わず叫んでしまった。ではOlには最初からわかっていたのだ。何もかもが。

アリに決まってるだろう。最善手を打つ能力だぞ。最善の使い方をするに決まっておろうが

ラーとの戦い自体にそれを用いるつもりは、Olにはさらさらなかった。結果がどうなるか、自分が何をするのかすら予想できない能力など、信用できるわけがない。だがしかし、その能力で得た情報は間違いのないものだった。

ラーの手を逃れて隠れ潜んでいる神、チルの存在。マリーの法術の可能性。それぞれのダンジョンで必要となるもの。ありとあらゆる質問を三日三晩しつくして──そして、その記憶を全て捨て、Olは戦いに挑んだのだ。

アリかナシかで言うと、本当はナシなのですけれどね

ザナの口を借り、マリナが少し困ったように言う。この方法を成り立たせるには、何に対して最善であるかをOlが規定できなければならない。だがマリナの啓示は本来そのような軽々しい使い方をするものではない。

飽くまで、マリナの考える最善に導くためのものなのだ。

お兄様には、今回だけ特別です

太陽神イガルクも関わっている話ですから、とマリナ。流石に神が人に無制限に力を貸してしまっては、世界の秩序も乱れてしまう。

余からも礼を言おう、魔王Ol

出し抜けに、ラーメスがいつも以上に尊大な口調でそう言い放った。

貴様。アトムか

その正体を言い当てるOlに、ラーメスの身体を借りたアトムは鷹揚に頷く。

此度の件、余としても遺憾であった。よもや同じ太陽の神の親和性を利用し、無理矢理に力を奪われるとはな

戯言を言うな

厳かに告げるアトムに、Olは身体の芯から凍りつきそうな声でいった。

太陽神ともあろうものが、たかが死霊ごときに四柱も纏めて良いようにされるわけがなかろう

ホスセリに乗り移っていたククルはかつての栄光を取り戻したい、とそう言っていた。それはおそらく、フウロの国の復興でも再生でもない。ただ一柱の太陽神としての栄華の事だ。

そしてその望みは、おそらくソフィアを除く三柱に共通する思いだったのだろう。

わはははは!バレてしまってはしょうがない

Olに図星を突かれたアトムは、罪悪感を微塵も感じさせぬ屈託のない表情で笑った。

何、そう構えるな。こうして負けた以上、我らにこれ以上どうこうする力はない

反射的に警戒するOlに、どこか愉快そうにアトムは言う。

次の機会を待つさ。千年後か、二千年後かま、お前さんのような男がおらぬ時代をな

そう言い放ちラーメスの顔から、アトムの表情が消える。そして彼女は、すぐさま己の頭を抱えた。

ラーメス。お前、信仰を変えたほうが良いのではないか

検討する

唸るように、ラーメスはそう答えた。太陽神はけして悪神の類というわけではないのだ。ただ野心に溢れすぎ、人の都合を大して重要視していないだけで。

そして何より。

パパ

その野心に巻き込まれる形になった娘の声に、Olは振り返った。

ごめんなさい迷惑、かけちゃって、ごめんなさい

謝ることはない

ぼろぼろと涙をこぼす娘の頭を、Olは優しく撫でてやる。

でもわたしが、わがまま言ったからこんな、ことに

それの何が悪い

断固とした口調で、Olは言った。

子は親にわがままを言うものだろう?

その柔らかな緑の髪を指で梳いてやりながら、続ける。

ましてやお前は俺の娘であり妻でもあるのだからな

パパ!

ソフィアはぱっと表情を輝かせると、Olに一も二もなく飛びついた。

好き。すき!だいすき!

その豊かな双丘を押し付けるように、ぎゅうぎゅうと抱きしめるソフィア。しかしふと何かに気づいたように、彼女は視線を下に向けた。

でもわたし、ちゃんと奥さんのお務め、できるのかな

その脳裏に浮かぶのは、太陽神に取り込まれる直前のこと。ソフィアを抱こうとするOlのものが、どうしても萎えてしまう光景だった。