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ダンジョンキューブは直接相手を攻撃するような、早く重い動きができるようにはなっていない。しかし大蛇のようにゆっくりと相手を取り巻き、締め付ける事くらいは出来た。そしてその力は、人間の膂力で外せるようなものではない。

オOl、サラフィヴノイク?

フローロが恐る恐る問いかけてくるが、Olはそれを無視し、男を睨みつけて言った。

オグナサルプラム

その言葉にどのような意味があるのかは知らない。だが、罵倒の意味を持っているはずであった。それは先程から男が何度もフローロに投げかけていた言葉だったからだ。

オグナサルプラミ、ム、サツセオイチクゥク!?

案の定、男は顔を真っ赤にして怒鳴る。彼にとってひどく侮辱的な意味だったのだろう。でなければ、人はそれを罵倒として使わない。

セズ

Olはゆっくりとした口調で答えた。これは恐らくはいだ。フローロが返事をした時に使っていた。そのままでは丁寧な受け答えである可能性が高いから、Olは殊更相手を馬鹿にしたような表情で、無礼に聞こえるように言う。

ヌンニグヴェッラム!ニヴソギツロミム!ジョヴァルクッサツセイヴェイ!

怒鳴り文句をつける男の前で、Olは手を掲げ、何かを握るように指先をすぼめるジェスチャーをしてみせた。それと連動させて、男を拘束するダンジョンキューブに圧力をかける。

ぎしり、と両手両足、そして首を締め付けられる感覚に、男は焦りを見せた。

エウルフリロフ!ネルプスラムネヴ!

男は何かを命ずるように怒鳴る。

ウツラフ!ノルヌイティクセク、フローロ!

だがOlが反応せず更に締め付けていくのを悟ると、フローロに向かって怒鳴った。頼るタイミングが随分遅い。ということは妻や娘ではあるまい、とOlは当たりをつける。信頼関係が──それが一方的なものであれ──あるのであれば、人はもっと早く頼る。

Ol!ウツラフ!

フローロがOlの腕に抱きつくようにして止めようとする。だが、ダンジョンキューブは別にOlの腕で動かしているわけではない。Olに止める気がない以上、無駄な行動であった。

ウツラフニグセク

男の語気が急激に弱まり、頼むような響きを帯びる。言葉が違ってもこの手の人間の言うことは同じなのだな、と思いながら、Olは眉を上げて問い返した。

ニグセク?

言葉の意味はわからない。だが、それはまだ懇願ではないことだけはわかる。まだ男は命令している。

サテピ、ミ、セクロヴノブ

男は一瞬屈辱に表情を歪めた後、力なくそう懇願した。Olは満足げに頷き、微かに笑みを漏らす。男の体が僅かに弛緩し、彼が安堵したのがわかった。

フローロ。怪我はないか?

そしてOlはフローロに向き直り、彼女に殊更優しくそう問いかけた。

ウム?ニギ、ネルプロフ、スヴォピ、ヴ、ク?

男が不思議そうな声を上げる。だがOlはそれを無視した。無視しながら、締め付けを更に強くする。

イドネタウ、ロヴノブ!ニギテメヅロヴノブ!サテプノドラピム!サテプノドラピム!

男が叫ぶのは怒りの文句か、それとも命乞いの懇願か。声から想像できるのは後者のような気がしたが、Olは徹底して無視したし、事実として興味もなかった。

Olニミ、プレフ、ロヴノブ?

フローロが控えめに、Olに何か告げる。まあ、男を助けてやれという内容だろう。

セズ!ニミプレフ!

喚く男にOlはもう一度視線を向けて。

うるさい

平坦な声で、ただそう告げた。何の感情も興味も交えない、怒気や苛立ちさえこもっていない、家畜に対して告げるような声色。

Olが自分を救う気などないのだと察した男の顔が、青く染まっていく。そしてそのまま、彼はがくりと項垂れ、動かなくなった。気脈を本格的に封じ、気絶させたのだ。

ニグ、シギトロミ、ヴ、ク?

地面に下ろした男に恐る恐る近づき、フローロは問う。殺したのかといったところだろう。

いいや。殺してはおらん

男にどれだけの後ろ盾があるのか、敵対することの危険度がどれほどなのか、Olにはわからない。だから男を止めるなら方法は一つしかなかった。

恐怖で、徹底的に心を折ることだ。

Olは男の頭に触れ、先程までの記憶を封じた上で気付けをしてやる。激しく咳き込みながら男が起き上がる前に、Olは隣の部屋へと戻った。

オイクシラヴィヴノイク?オグナサル!

頭を振りながら、男はフローロに怒鳴りつけようとして固まる。

アルプ、ニグ、ネト

そして何かを恐れるように辺りをキョロキョロと見回し、フローロに何かを言い残して去っていった。

記憶は消しても、感情は消えはしない。むしろなぜ自分が恐怖を感じるのかわからない分、かえってそれは大きく不気味なものとなって襲いかかる。彼はもうフローロを怒鳴りつけ鞭打つことは出来ないはずだ。その行動が、Olが与えた恐怖と強く結びついているがゆえに。

Olサツセ、イ、ヴイク?

悪いが

大きく目を見開いて尋ねてくるフローロに、Olは肩をすくめて答えた。

お前が何と言ってるのかは、全くわからん

第1話新たなダンジョンで目覚めましょう-3

Olは突然めまいを感じ、壁にもたれかかる。その症状に、Olは心当たりがあった。

魔力失調だ。自分のダンジョンから切り離された上に、体内の魔力までもがほとんど抜けてしまっている。わずかとはいえ魔術を使うことによって、体調が悪化したのだろう。

とはいえ、そもそもOlがそんな状態になるのは奇妙なことだった。補給無しで丸一晩マリナと睦み合っていたのだから多少の消耗は不思議ではないが、体調を崩すほどに失っているというのはおかしい。

イドネタ、ウロヴノブ

フローロはOlにそう言いおいて、部屋を出ていく。Olが不調が収まるのをじっと待っていると、ややあってフローロはコップに入った水とパンを持って戻ってきた。

イグナムロヴノブ

そして、それをOlにそっと手渡す。食べろ、ということだろう。Olの不調を空腹であると思ったのか、それとも気休めか。いずれにせよ、食事にはわずかながら魔力が含まれている。Olはありがたくそれを食べようとして、手を止めた。

乾燥しきって、まるで石のように固いパン。明らかに不衛生で、不純物が浮き据えた匂いの漂う水。Olの価値観からすると残飯より酷いその内容に、彼は思わず顔をしかめた。

一旦皿を床に置き、Olはなにかなかったかと懐を探る。幸い、非常食として携帯していたチーズと干し肉が入った袋が見つかった。

Olはそれを小さく削ってコップに注ぎ入れ、熱を呼び覚まして温める。熱だけを呼び出す魔術は制御が難しいが、炎を出す魔術に比べて消費が少なくてすむし、木製のコップも燃やさずにすむ。