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だがそれにしても、早い。無数の斬撃は石壁の実体化が消える前に放たれ、Olはほとんど全身を石壁で覆われているような状態になっていた。

このオレの斬撃を凌ぎ切るとは!これはどうやら本物のようだな!

サルナークは興奮した様子で言いながら、チン、と音を立てて、剣を鞘に収める。

この鎧が防げるのは斬撃だけではない。炎や毒といった、物理的でない脅威からも身を守る事ができる

ふむ?そうか

だが続くOlの説明には、サルナークはさしたる反応を見せなかった。彼の能力が本当に物理攻撃のみを無効化するというのなら、十分価値のある情報だろうと思ったが、とOlは内心首をひねる。

これと、お前がナギアから受け取ったというフローロの瞳を交換してもらいたい

ああ、構わん──と、言いたいところだが、その前に一つ聞きたいことがある

サルナークは鋭い視線をOlに向け、問うた。

それはオレにも使えるものなのか?

Olは思わず目を見開きそうになるのを堪える。

使える。まあ、多少の訓練は必要かもしれないが

ここで嘘をつくわけにはいかない。ナギアのように呪いをかけるのであれば、取引そのものは公正である必要があるからだ。

多少の訓練──か。貴様の見立てだと、オレはそれに何年くらいかかる?

サルナークは更に深く切り込んでくる。

個人の素質にもよる。お前の能力は知らないから、正確なことは言えないが

世界でも屈指の魔力操作能力を持ち、その生涯の大半を迷宮作りに捧げてきたOl。ダンジョンキューブはそんな彼だからこそ操れる魔道具だ。つまりそれを十全に使うためには彼と同じ領域まで鍛え上げる必要があり

七十年はかかるだろうな

彼が今までの人生で費やしてきた以上の時間はかかるであろうことは確かだった。

ハ!七十年だと!これはまたとんでもない物を売りつけようとしたものだな?

サルナークはOlの言葉に怒るどころか、愉快そうに笑ってみせた。

質問が致命的すぎる、とOlは思う。全くの未知の道具を見せられ、それを自ら操るものであると看破し、具体的な期限までをも確認してくる。それは、Olの想定の範囲を大きく超えていた。

そもそもダンジョンキューブを見て、自分で操作するものであると見抜けるはずがないのだ。Olがサルナークの斬撃を防いだ部分は自動的なもので、操作など一切していないのだから。

だがそれに気づいた理由はどうあれ、こうまでされては流石に取引は成り立たないだろう。別の手を考えなければならない。

いいだろう。商談成立だ、瞳を持ってこい

だからそう言ってのけるサルナークに、Olは驚愕した。

奴隷の一人が運んできた箱から、サルナークは石を取り出す。

それはフローロの瞳にそっくりな、漆黒の石であった。球体だったOlの魔術防護とも、石英の原石のようだった言語スキルとも違う。美しくカットされた、宝石のような石だ。

そら。これが瞳だ

サルナークはOlからダンジョンキューブを受け取って、瞳を無造作に投げ渡す。それを受け止めたOlの右腕が、ずるりと落ちた。

何のつもりだ

肘から先が切り落とされ、地面に転がる右腕に、Olは低い声で問う。

商談は無事終わったろ?

血に赤く濡れる剣を閃かせ、笑みを見せながらサルナークは答えた。

こっからは、強奪の時間さ

第2話奪われたものを取り戻しましょう-3

約束は違えてないだろ?なあ?オレはちゃんと約束通り、貴様に瞳を渡した

転がるOlの右腕を蹴り飛ばし、サルナークは地面に落ちたフローロの瞳を拾い上げる。

ただ不幸なことに、その後貴様は強盗に遭う。ただそれだけの話だ。ナギア!

サルナークが声を張り上げると、部屋の外で待機していたナギアが戸惑いながら入ってきた。

サルナーク様これは、一体

貴様がこの男と通じているのはわかっている。おっと、余計な事を命じるなよ

腕を押さえるOlに剣を突きつけ、サルナークはナギアに顎をしゃくった。

こいつから、この石壁の鎧とかいうのを操るスキルをいや、面倒だ。こいつの持っているスキルを全部奪え。悪くない商談だろう?貴様の全てと、生命を交換だ

そうか。目か

Olが呟くように言った瞬間、彼の左脚が切り裂かれた。

余計な事を言うなって言っただろう?だがまあ、教えてやる。その通りだ。オレはこいつで、貴様とナギアのやり取りを全て見聞きしていたのさ

フローロの瞳をチラつかせながら、サルナークは笑う。

愚かな魔族め。その本当の価値もわからないままに、貴様はオレにこれを差し出したな

サルナークが嘲笑っているのはOlではなく、ナギアだ。彼女の鑑定では、スキルの名前はわかってもその効果まではわからなかった。ただの瞳でないことはわかっても、具体的にどれほどの効果があるかまではわからなかったのだろう。

これこそは支配者の瞳。全ての魔族を支配し従える、魔王の瞳だ!

魔王、だと?

Olは驚愕に目を見開く。その右足に、剣の切っ先が突き刺さった。

ぐぅっ!

おっと、あんまりやり過ぎるとそろそろ死ぬか?殺して奪ってもいいんだが、聞きたいことは色々あるからな舌は残しておいてやる。ナギア。さっさと奪え

剣を引き抜き、つまらなさそうにサルナーク。

待ちなさい!

そこへ、突然フローロが現れて割って入った。

おっと魔王陛下御自らお出ましか。ご機嫌麗しゅう、元、魔王陛下

サルナークは元に殊更アクセントをつけて、慇懃無礼に礼をしてみせる。

へ陛下!?

ナギアはそれを知らなかったのか、驚きに目を見開いた。

Ol。私の配下になると誓いなさい!そうすれば助かります!

おっと、そうはさせるか!貴様ら、そいつを黙らせろ!

サルナークの命令に、彼に従う奴隷たちは皆戸惑いの表情を見せる。

やれ!

だが重ねてサルナークが命じると、奴隷たちは一斉にフローロに向かって襲いかかった。

Ol!お願いです!私の配下になる、と!

奴隷たちによって取り押さえられ、床に押し付けられながらもフローロは叫ぶ。

黙れ!

サルナークは彼女に向かって剣を振り上げ──

断る

Olの言葉に、ピタリとその動きを止めた。

何だと?

断る、と言った。俺とナギアの会話を全て聞いていたというのなら、お前も知っていよう。俺は誰にも従わぬ。生きる道は己で決める

サルナークのみならず、奴隷たちも、ナギアも、フローロもぽかんとしてOlを見つめた。

配下になると言ったとして、Olに何が起こるのかはフローロ以外にはわからない。しかし彼女がOlを助けようとしたのは明白であった。その救いの手を、Olは自ら跳ね除けたのだ。

──ハ

最初に我に返ったのは、サルナークだった。