ハハハハハ!いい啖呵だ。貴様の方がよほど王に向いているんじゃないか?
髪をかきあげ可笑しそうに笑い。
ではその選択通りナギア。そいつのスキルを全て奪え
己の奴隷に、そう命じた。
ナギアは言われるがままにOlの胸元に手を差し入れそして、引き出す。
そこに現れた巨大な光の結晶に、サルナークは目を見開き、感嘆の声を漏らした。これほどの量、これほどの輝きを持つスキルは、彼も初めて目にするものだった。
今日は最良の日だ。魔王の瞳と、魔王本人、そして未知のスキルが手に入った。これでオレは壁族に返り咲くことが出来る!こんな最下層とはおさらばいや、これさえあれば、最上層民王族になることだって夢じゃない!
哄笑を上げながらOlのスキルへと手をのばすサルナーク。しかしその手は、虚空を掴んだ。
スキルの結晶を高く持ち上げ剣を構えるナギアに、サルナークは鋭い視線を向ける。
ち、違うんです、サルナーク様!これは身体が、勝手にっ!
ナギアの剣が横薙ぎに振るわれ、サルナークの首を打つ。彼は避けもせずにそれを受けた。
Ol。これはお前か
Olはナギアに言葉を発してはいないし、事前に命令していた様子もない。ということは、彼は言葉を発さずともナギアを操ることが出来るのだ。
だが無駄だ。オレの鋼の盾は崩せん
何度も振るわれる白刃を気にした様子もなく、サルナークはナギアに間合いを詰めていく。一体どういう原理なのか、肌どころか着ている衣服すら傷ついていないようだった。
ぐい、とサルナークがナギアの上で無造作に掴んだその時。ナギアは大蛇のようなその下半身を、サルナークにぐるりと巻きつけた。
たとえ一切の傷がつかないとしても、拘束されることはどうか。
無駄だと言っているだろう
だがサルナークは事も無げにナギアの下半身を押し広げ、こじ開けた。ただ攻撃が効かないだけではない。物理現象に干渉する効果をも持っているらしい。
停止、か
ぼそりと呟くOlに、サルナークは眉を上げた。
触れたものを停止させるそれはつまり、力を失わせるということだ
だから剣で切りつけても傷がつかないし、大蛇の尾で締め上げても簡単にこじ開けることが出来る。ということは恐らく炎や毒も同様だ。それらは小さな目で見れば、結局の所物理的な現象に過ぎない。
彼の鋼の盾はその名に反して、ほとんどあらゆる攻撃を無力化する。だからこそ、Olのダンジョンキューブが炎を防げると聞いても、さしたる興味を示さなかったのだ。
オレのスキルの正体に勘付いたやつは貴様が初めてだ。まあ
サルナークはナギアの剣を弾き飛ばし、蹴り倒す。
気づいたところで無意味だがな
そして、その手から転がったOlのスキルに向かって手を伸ばした。
フローロの目の前に転がった、そのスキルへと。
離しなさい、無礼者っ!
フローロの怒声に、奴隷たちの力が緩む。その隙をついてフローロは拘束から腕を引き抜き、スキル結晶を掴む。そして、一息にそれを飲み込んだ。
な貴様!
反射的にサルナークは剣を振るう。だがそれは、堅牢な石の壁に阻まれた。
その光景にOlは愉快げに声を漏らす。
これ、は
そして彼以外のものは、やってのけたフローロを含め絶句した。サルナークの剣を防いだ石壁は、ダンジョンキューブのものではない。
このダンジョン自体の床から、飛び出したものだったからだ。
え、えいっ!
呆然とする奴隷たちを、その壁が更にせり出し弾き飛ばす。
馬鹿な新しい壁を作り出すスキルだと!?
狼狽えるサルナークをよそにフローロは立ち上がると、ゆっくりと埃を叩きながらOlに視線を向けた。
俺の術、しばし貸してやる。好きに使ってみろ
ありがとうございます。では、お借りします、Ol
フローロはぺこりと頭を下げ、改めてサルナークに向き直ると、彼をきっと睨みつけて言った。
私の瞳返してもらいます、サルナーク!
第2話奪われたものを取り戻しましょう-4
それで優勢にでもなったつもりか?
動揺を押し殺しながら、サルナークは剣を構える。
忘れたかも知れないが、全く同じスキルを持ったOlはあのざまだ。貴様がそれを手に入れたところで、オレに勝てるとでも?
不意をついたとはいえ、サルナークはOlを一方的に倒してみせたのだ。フローロが同じスキルを手にしたとしても、付け焼き刃の彼女はOlより弱いことこそあれど、強くなるはずがない。
サルナークの考えは道理であり、正しいものだ。
──ただしそれは、フローロの受け取ったものがスキルであればの話だった。
ぐっ!?
フローロに斬りかかろうとしたサルナークは、突然地面からそびえ立った柱に額をぶつけ、苦悶の声とともに数歩たたらを踏む。
馬鹿なオレの身体に傷をつけただと!?
そして、自分が痛みを感じていることに驚愕した。
貴様、何をした!?
フローロは答えず、サルナークをじっと睨みつける。
答えろッ!
サルナークは叫び、斬撃を見舞う。だが今度は壁から生えた横向きの柱がその一撃を防ぎ、同時にサルナークの腕をしたたかに打ち付けた。
ぐ、うっ!
やはり、鋼の盾の力が無効化されている。スキルを失ったわけではない。そんな隙はなかったはずだし、己の内側に意識を向ければそれは確かに存在している事がわかった。
だが事実として、フローロの攻撃は彼にダメージを与えているのだ。
これがOlの未知のスキルの力なのか。あるいはフローロの持つ魔王としての能力かも知れない。
舐めるなァッ!
槍のように襲いくる柱をかわし、サルナークは距離を取ろうとするフローロへと突き進む。柱はどこから出てくるかわからないのが厄介だが、かわせないほどの速度ではない。
ぐっこれしきっ!
そして柱から受けるダメージも、そこまで高いものではなかった。慣れぬ痛みに初めの頃こそ動きを止めてしまっていたが、覚悟さえしていていれば致命的なものではない。
喰らえッ!
そしてついにサルナークはフローロの眼前まで辿り着くと、その首を刎ねるべく刃を振るった。盾を作るように柱が伸びるが、サルナークの剣速には間に合わない。それは違わずフローロの首筋を捉え──
そして、空を切った。
何ッ!?
先程から微動だにしないフローロが、その一撃をかわしたわけではない。しかしサルナークの手元が狂って外したというわけでもない。ならば何故、剣はフローロの頭の上を通り過ぎているのか。
床か!
一瞬の後、サルナークはそれに気づいた。彼の踏みしめる床そのものが、せり上がってきている。柱を生み出すだけでなく、広範囲の床面さえも生み出せるとは。