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呆れたように問うサルナークに、うむとOlは頷く。

ってことはまさか、魔王についても知らないのか

ああ。だが大体の察しはつくぞ。能力に優れる魔族が統治していたが、人間たちが反乱を起こし王を殺す。娘は秘密裏に逃され、奴隷の姿に身をやつして再起を伺っていたというところだろう

おおよそ、その通りです

Olの推測を、フローロは首肯する。ありふれたと言うほどに実際にはよくある話ではないが、叙事詩(サーガ)にならばありがちな話だ。一つ気になるところはあったが、Olはそれを無視して話を進めた。

このタイミングで行動を起こすということは、そのユウェロイというものはフローロの事情を知っており、更に監視していたということになるだろうな

正体のわからぬ不審な男が近づいたからか。あるいは、その男を伴って最下層の主を下したからか。直接的な理由はわからないが、一つだけはっきりしていることがある。

となれば必然、このまま黙って見ているということはなかろう

ユウェロイは、フローロの道を阻むつもりだということだ。

ハ。どうでもいいさ。邪魔をするならぶった切るまでだ

サルナークは椅子に背を預け、長い足を組んだ。Olの渡した契約書には、鋼の盾を奪わないと書かれていた。故に彼のスキルは未だ健在である。鉄槌だろうが長槍だろうが負ける気はしない。

うむ。サルナーク、お前にはやってもらいたいことがある

いいぜ、大将。どいつでも真っ二つにしてやる

カチリと剣の鯉口を鳴らすサルナーク。

いや、剣は使わん。代わりにこれを使え

そんな彼に、Olは用意しておいたものを渡した。

なんだ、こりゃ

それは棒状ではあったが剣ではなく。

長い柄を持ってはいたが槍でもなく。

大きな頭を持っているが斧でもない。

見てわからんか?

いやわかるから、言ってるんだが

サルナークは袋状になった先端を見つめ、うんざりした口調で言う。

俺に虫でも捕らせようってのか

それはいわゆる、たも網だった。

第4話次なる刺客を迎え撃ちましょう-4

このダンジョンには足りないものが一つある

一つですか?

反射的に返したフローロの問いに、しかしOlは押し黙った。

いや一つどころじゃないな。二つ、三つ、四つうむ。むしろ足りているものを数えた方が早い

そんなに駄目なんですか!?

指折り数えだし、それすら途中で放棄するOlにフローロは思わず叫んだ。ダンジョンというのが壁界全体を指す言葉であることは教えてもらっている。つまりは世界全体への駄目出しである。

駄目というと語弊がある。ダンジョンに何を望むかは人それぞれだ。飽くまで俺の理想とするダンジョンに足りぬものがあるというだけのこと

はあ

独白のように語るOlに、ピンと来なかったらしくフローロは小首を傾げる。

あ、もしかしてそれが、サルナークに捕まえさせてるのと関係するんですか?

うむ。アレもそのうちの一つではある少し魔力を貰うぞ

Olは出し抜けにフローロを抱き寄せると、彼女に口づけ魔力を奪った。何せ大気中にも食事中にも殆ど魔力が存在しないのだ。魔術を使わなくとも体の中の魔力は目減りする一方であった。

その一方で、Olが奪ったフローロの魔力はしっかり回復している。何らかのスキルを持っているのか、それとも別の仕組みがあるのか、未だにOlにさえわかっていなかった。

わかっているのは、こうして定期的に魔力を補充する必要があるということだけだ。

んOl♡

唇に伝う銀の糸を、フローロの舌がぺろりと舐め取る。先程までの控えめで生真面目な様子とは打って変わって、とろりと蕩けた艶めかしい表情でフローロはOlを見つめた。

するんですか?

問いの形を取りながら、明らかに期待した様子でフローロはOlの手を取り、己の胸に押し当てる。その柔らかく悩ましい感触に、Olがその気になりかけたときのことだった。

何盛ってんだ、貴様らは

膨らんだ布の袋とたも網を抱え、ぐったりとしたサルナークが地獄のような声色で割って入ってきたのは。

ご苦労。早かったな

うるせえ乳揉みながら労うんじゃねえ!

眉一つ動かさずに答えるOlに、サルナークは怒鳴りながら網を地面に叩きつけた。

そら。これでどうだ

うむ。申し分ない量だ

サルナークから袋を受け取り、その中身にOlはニヤリと笑みを浮かべる。

フローロ。悪いが伽はまた後だ。これをナギアに渡してきてくれ

フローロは再び人が変わったかのように快活に答えると、布袋を抱えて部屋を出ていく。

アンタまさか魔族を抱く気か?女が欲しいなら融通してやってもいいんだぜ

部屋に残されたサルナークは、不意にOlにそんな事を尋ねた。

ふむ魔族嫌いだから言っているというわけではなさそうだな。人間と魔族が性交渉するのは一般的ではないのか?

聞き返しながら、性交そのものは普通に存在する事にOlは少し安堵した。フローロの思い込みではなく、この世界の生き物が接吻によって繁殖する可能性もゼロではないと考えていたからだ。

あったり前だろ。あのお嬢はまあ、だいぶ人間に近い見た目だからそこまで抵抗はないかも知れんがそれでも人間じゃねえんだぞ?ましてや蛇だの猫だの鳥だの相手に欲情できるかよ

ふむそんなものか

嫌悪感を滲ませ眉をしかめるサルナーク。彼からすれば、獣を相手にするのと似たようなものなのだろう。あれほど麗しい見目を持つフローロが、奴隷の立場でありながら穢れを知らぬ身であったこともそれが理由なのかも知れない。

そんなものかってなぁじゃあお前、あのナギアに突っ込めるってのかよ?化け物の癖に色目使ってきやがって気色悪ぃと思ったろ?

いや、別に抱けるが

ラミアは人と蛇の身体の境目、人間ならば股間の部分に膣口があったが、尾族はどうなのだろうか。などと考えつつも、Olはあっさりとそう答えた。

じょ、冗談だろ!?

確かに性格には少々難があるがな。見目は十分良かろう

Olにとっては見た目よりもむしろ性格の方が難点であった。何でもするという契約を結んだのだから、その気になれば伽を命じることも出来る。Olがそうしないのは、隙あらば寝首をかこうとする魂胆が丸見えの性根が大きかった。

腰から上だけならな!?だけどあの下半身を見ただろ!

何を言っている?

呆れすら滲ませた声色で、Olは言った。

下半身も美しいだろう、あれは

人からは分かりづらいが、蛇の身体とて美醜はある。あらゆる魔に通じ、魔王と呼ばれるOlにとってはもはや人の肉体を見分けるのと変わりない。

太すぎず、されども細すぎもせず、すらりと伸びた尾にキラキラと輝く鱗。上半身同様、美女いや、美蛇と呼んで差し支えのない身体であった。