Выбрать главу

お前の盾を、その銀ランクとやらにすることは出来ぬのか?

Olの問いに、サルナークは力なく首を横にふる。

無理だ。スキルのランクやレベルってのは結晶化した時点で決まっていて、変えることは出来ねえ。ランクが違うスキルは全く別のスキルだ。だから鉄の腕の異名で知られてる奴がそれ以上のスキルを持っているなんざ、思いもしなかった

銀の腕のスキルを得ても、鉄の腕のスキルと効果が足し合わされるわけではないんです。つまり銀の腕を手に入れれば鉄の腕は丸々無駄になります。ですから、普通は同じ系統のスキルを同じ人物が持つことはありません

サルナークの言葉をフローロが補足する。

そもそも単純に虚偽である可能性は考えなかったのか?

Olの指摘に、サルナークとフローロは揃って表情を強張らせた。

ナギア。あいつか!

でも、ナギアが嘘をついたのならOlにはそれはわかるのでは?

ギリリと歯噛みするサルナークとは対照的に、フローロは冷静にそう尋ねる。

ああ。だがナギアもそれをわかっておる。潜り抜ける方法を見つけたのかも知れんし、そもそも奴自身が騙されている可能性もある。いずれにせよもともと一つ、疑問に思っていた事がある

Olはサルナークとフローロの顔を見回すように視線を巡らせると、一段低い声で言った。

敵が俺達の動向を、どうやって把握しているかだ

サルナークとフローロは、ともに表情を引き締める。

もしフローロの支配者の瞳のようなスキルを用いて我々の様子を盗み見ていると言うなら、それは魔術でわかる。そして、そのようなスキルが使われている様子はない

実際にフローロが支配者の瞳を使い奴隷達の感覚を共有したところ、Olは感覚を共有されている奴隷達を検知することが出来た。

無論のこと、奴隷達だけでなく、壁や床、天井、なにもない空間に対しても同様の検査を施している。

では、どうやって?

スキルなど使う必要もない、世界を問わぬシンプルな方法がある

いつの間にそんな事を、と思いつつも首を傾げるフローロ。

内通者がいる

そんな彼女に、Olは重々しく告げた。

監視の目は、フローロが俺と会う前からついていたものだろう。コートーは俺の存在をそもそも知らぬ。サルナークがフローロの事を知ったのはつい先日のことだ。それ以外に、お前の事を知っていたものはいるか?

ナギア

フローロはぽつりと呟いた。商人である彼女とはOlと出会う前から、モンスターを狩って手に入れた素材やスキルを度々やり取りしていた。

サルナークの奴隷達は解放されたあと、その殆どが支配者の瞳の影響下に置くためにフローロに仕えることになった。しかし僅かではあるが、解放されて奴隷であることをやめたものもいる。

ナギアもその一人であった。本人は既に自分はOlの物であるからと言っていた。フローロもそれに疑問を抱くことはなかったが、それが己の行動を把握されないための言い訳だとしたら。

そこにいるのは誰だ!

不意に、サルナークがOlの背後に向かって叫ぶ。フローロがすぐに部屋の外を確認したが、そこには誰もいなかった。

辺りを見回すフローロをよそに、ひょいとOlが何かを地面から拾い上げる。

Ol、それは?

それは、紫色に輝く小さな鱗であった。

そう。ラディコまでが敗北しましたか

はい。あのOlという人間予想以上に危険な男であるようです

部屋の中には、二人の女。片方は白銀の髪を長く伸ばし、後頭部に向かって角を生やした従者の姿の魔族。もう片方は短く金の髪を刈り、壁族然とした男装に身を包んだ人間。

しかし奇妙なことに、跪き報告しているのは壁族の人間であり、それを立って聞いているのは従者の姿の魔族であった。

銀の腕は渡したのですよね?

は。私がしかと。──かくなる上は、私が出るほかないかと

お待ちなさい、ユウェロイ。あなたはそう軽々と動いていい立場ではないでしょう

しかしブラン様!

ユウェロイの口を、ブランは優しく塞いだ。

私が参ります

で、ですが

真っ赤に染まったユウェロイの口調には、先程までの硬質さは失われている。

あなたをこそ、万が一にも失うわけにはいかないのです。それに

つい、とユウェロイの顎を撫で、ブランは目を細める。

私に万が一があると思いますか?

首を振るユウェロイに、ブランはくすりと笑った。

いい子ね

ユウェロイの頭をふわりと撫でて、ブランはスカートを翻し部屋の奥へと向かう。

閨にいらっしゃい。今日は可愛がってあげましょう

そして背中越しに、そう声を投げかけた。

ブ、ブラン様!そのようなことは

あら。お嫌かしら?

慌てるユウェロイに、ブラン。

嫌ではありません

赤い顔を更に赤く染め、ブランはユウェロイの後を追う。

ああ、そういえば

ユウェロイをベッドに引き入れながら、思い出したようにブランは口にした。

あの尾族ナギアと言いましたか。彼女はどうしました?

間者であるのがバレたようです。用済みになりましたので

ユウェロイは口調を事務的なものに戻し、答える。

処分しました

第5話騙し合いに勝利しましょう-2

自ら討って出る。そう宣言するブランに、招き手のフォリオは間の抜けた声を上げて、コリコリとこめかみの辺りをかいた。

まあ、ユウェロイサマがそう仰るんなら、アタシとしちゃ否はありませんけども

フォリオはユウェロイの奴隷であり、ラディコの主人である。癖の強いふわふわとした緑色の髪に、ふわふわとした羽根を持つ翼族の女だ。

どうやって勝つおつもりで?

フォリオはブランとはほとんど直接の面識がなかった。知っているのは、魔族にも関わらず己の主人に命令できる立場にいるという事と、めっぽう強いらしいという事──

どうやって、とは?

あと、考えなしという事か。と、首を傾げるブランに、フォリオは心の中の人物評に追記した。

いえね、ブランサマが大変お強いのはアタシも知ってるんですけど、うちのラディコもアレはアレで結構腕の立つコなんですよ。それが簡単にやられちまったんで、ちょっと次は入念にかからないといけないんじゃないかなと思いまして

Ol。正体不明のあの男の欠点は、直接的な戦闘能力の乏しさであるとフォリオは評していた。真っ向勝負であればサルナークにすら勝てないのなら、下手に策を弄するよりもラディコをぶつけた方が手っ取り早い。そう判断し、フォリオは己の奴隷に命じた。単純な強さと速さは、あらゆる策を破壊しうる。

だがそれは、拙速に過ぎた。Olは思ってもみない方法でラディコを無力化し、その上奇妙なスキルで籠絡して情報を引き出したという。フォリオに関する情報も全て知られていると考えるべきだった。