まあ、出来れば殺されないように進言してあげてもいいけど
アタシの言うことがどこまで聞いてもらえるかわからないけどさ。とフォリオ。
だがOlはその申し出に、首を横に振った。
そ。まあ、言っといてなんだけど大した役に立てるとは思えないしね
肩を竦めてみせるフォリオに、Olは再度首を振る。
少々気が咎めるのでな
何が?
首を傾げるフォリオの背後で、ナギアが短剣を振りかぶった。
ご無事ですか、Ol様?
ああ。まあ、なんとかな
するりと床を這う蛇の尾は、微かな音も立てず振動もさせない。すぐ背後に迫っている事を、フォリオは全く気づかなかった。
フォリオ様!?
案ずるな。麻痺しているだけだ
床に転がるフォリオにあわてて駆け寄るラディコに、Ol。
蠍蜂から抜き取ったスキル麻痺針をナギアには持たせてある。勿論、このような事態を想定してのことだ。
ななんで
かろうじて動く舌先を動かして、フォリオは絞り出すように声を上げた。ナギアは死んだはずだ。どちらに付くか信用ならない尾族の女。もはや利用価値もなく、知らなくてもいいことを知りすぎたために処分したとユウェロイからは聞いていた。
ふふふ。それは勿論敬愛する我が主人、Ol様のおかげですわ
Olにぴっとりと肌を寄せ、ナギアは妖艶に微笑んでみせた。
まさかOl様がわたくしを信用して下さるとは思いもしませんでしたけれど
裏切りの蛇。売女。二枚舌の嘘つき。ナギアはそう言われ続けてきたし、自分でもそう思っていた。実際、Ol達の情報をサルナークに流し、その情報を更にユウェロイにも流していた。
信じていたとも
故にOlは、彼女を信じた。
お前は必ずユウェロイ達をも裏切ってくれるとな
そうする者が、この世のどこにもいなかったからだ。
Olは、そもそも何も信じてはいない。故にその疑念は疑いではなくただの確信であった。ナギアがOlを裏切るというのなら、それを前提に入れて行動すればいい。
具体的に何をしたかと言えば、Olはその魔力の大部分を割いて密かにナギアを監視した。そして彼女の行動原理を、望んでいるものと望んでいないものとを見出したのだ。
ナギアはユウェロイやサルナークのみならず、ありとあらゆる勢力と内通し、同時に全てを裏切っていた。利によって動いていたわけではない。己の利益を望むなら、そこには一定の誠実さが必要になる。Olのダンジョンの商人、ノームがそうであったように。
ならば何故ナギアは全てを裏切り続けるのか。
それは、全てがどうでもいいからだ。真実も正義も誠意も愛も、何もかもがどうでもいい。重んじる理由がなく、守る必要がなかった。誰もが彼女を信じなかったから、彼女も何をも信じなかった。
だからOlは、彼女の唯一になった。誰もが──ナギア自身さえもが信じない彼女の事をまず信じ、己の魔術の一部を預けた。姿を偽装し、隠す幻術の一種。それを使えば死を偽装することも出来るし、音を立てずどこにでも忍び込む究極の暗殺者にもなれる。
つまり、Olをいつでも殺すことが出来るということだ。
ナギアはその信頼を違わず受け取った。そして、また騙したのだ。Ol以外の全員を。
ラディコ。この鎖を解いてくれるか
うんでも、フォリオ様に酷いこと、しないよね?
勿論だとも
Olがにこやかに頷くと、ラディコはえいと鎖を引っ張る。すると太い鎖はまるで紙で出来ているかのように簡単に千切れた。
お前にしたのと同じ様に、少しばかり仲良くなるだけだ
手首を回しながらそう告げるOlに、フォリオは声にならない悲鳴を上げた。
第6話獣娘たちを躾けましょう-1
と、その前に少しばかり魔力が足らん。ナギア、悪いが
ええ。幾らでもお吸いになって下さい、Ol様
胸の前で手を組み、目をつぶって顔をあげるナギア。Olはその顎に手を当てて、遠慮なく唇を吸った。微かに震える唇の中から、透明なひんやりとした魔力が伝わってくる。質はさほど高くないが、その分自分の魔力に変換するのはあまり苦労なさそうだ。
なにそれ!ボクも、ボクもやってえ!
するとラディコがぴょんぴょんと飛び跳ねてそう主張しだした。ラディコに対しては情報を引き出すため、最低限の接触にしたのだがと、Olはちらりとフォリオを一瞥する。
するとフォリオは射殺しそうな表情でこちらを睨んでいた。毒を食らわば皿までか、と覚悟を決めて、Olはラディコを抱き寄せた。
小さな唇に己の口を当てると、思った以上に濃厚な魔力が口内に溢れ出した。たっぷりと具材を煮溶かした芳醇なスープのような魔力だ。見たところラディコは肉体派だから魔力にはさほど期待できないだろうと思っていたOlは、思った以上に濃厚なその味に驚いた。
んちゅぷ
思わずもっと求めるように舌先を差し入れると、ラディコは一瞬驚いたように身体をびくりと震わせたが、すぐに従順に幼い舌を伸ばし返した。短い舌がぎこちない動きでOlの口内に入ってきて、右往左往するようにパタパタと動く。
んっふ、ぅ
Olがそれを落ち着かせるように軽く唇で食みながら、愛撫するように舌先で撫で擦る。するとラディコは鼻から小さく吐息を漏らしながら、それを一生懸命真似るように舌を動かした。
ふぁあ
唇を離すと、彼女はぼんやりとした表情で舌をなおも伸ばしながら息をつく。
これ、すごいね、Olくん
ズルいですわ!
ぽおっとした口調で呟くように言うラディコに、ナギアが不満の声を上げた。
Ol様、わたくしも断固同じ物を要求いたします!
Olはぐいとナギアの腕をとって強引に引き寄せると、その頭を抱えるようにして口づける。
あっ♡そんな、乱暴な♡
口では文句を言いながらも、ナギアはそれを素直に受け入れた。にゅるりと侵入してくるOlの舌を、ナギアはおっかなびっくりといった感じで迎え入れる。そろり、そろりと舌を伸ばすと、Olの舌先が半ば強制的にナギアの舌を絡め取った。
尾人の舌は蛇と同じ様に、先が割れた長いものだ。自分で要求しておきながら嫌がられたらどうしよう、などと思っていたナギアであったが、Olは全く頓着することなく、むしろ積極的に舌を絡めてきた。
んっ!ぅんっ♡
ナギアはそっとOlの背中に腕を回す。だがどうしても抱きしめることが出来ず、その指先は虚空をさまよった。するとOlの手のひらが優しい手付きでナギアの髪を撫で、そのまま背中まで降りてぽんと彼女の背を叩く。
その衝撃に押されるようにして、ナギアはぎゅっとOlに抱きついた。
んっ♡は、ん♡ん♡ちゅぅ♡
むナギウ、ムナギア!
ぐいぐいと身体を押し付け、その蛇の下半身ごと伸し掛かるように迫ってくるナギアに、Olは流石に叫んで静止した。