ブランがどうして?
スキルというのは常時影響するものと、オンオフを切り替えられるものがあるそうだな
ひょいと、Olはブランの身体を抱き起こす。それを可能にする鉄の腕もそういったスキルの一つだ。
スキルのオンオフとは、うっかり切り替えられるようなものではないとナギアが言っていた。実際に使ってみれば確かにその通り。オンにするにもオフにするにもある程度の集中が必要だ
そしてブランをベッドに寝かせると、Olは彼女の手足に枷をつけて拘束した。Olが縛られていたものと同様のものだ。
はいでも、それがどうしましたか?
内通者はナギアではない。お前だ、フローロ
くるりと振り向くOlの言葉に、フローロは目を見開く。
そそうだったんですか!?
そして、驚愕とともにそう叫んだ。
ああ。と言っても勿論、お前が自覚的に情報を流していたわけではない。その支配者の瞳の効果だ
でも、Olが調べた中には瞳の効果を受けてるものはいないってそれに、あれ?私自身が、私の視界を見てたってことですか?ん?
混乱してきたらしく、フローロは頭を抱えるようにして首をひねる。
瞳の効果を受けていたのはブランの方だ。こいつの主人はお前に設定されている
それは鑑定で目にした中で、唯一と言っていい有益な情報であった。
そしてその効力を逆転させるスキルも持っている。恐らくは反転という名のスキルがそれだろう。故に、お前には支配者の瞳の効力はかかっていないが、ブランはお前の視界を盗み見ることが出来たというわけだ
それもまた鑑定で目にした情報ではあったが、その存在そのものはもともと予測していたものだ。ナギアから得た情報にしては、あまりにも対処が的確だったからだ。他に情報源がいるとするなら、フローロでしかありえない。
じゃあ、ブランが倒れてるのって
お前が感じた快感を、こいつも感じたからだ
支配者の瞳はその名前とは裏腹に、視界以外のあらゆる感覚をも共有するスキルだ。フローロを連れて転移したOlの行き先を探るため、ブランは当然そのスキルを用いてフローロの認識を共有した。
その瞬間を突いて、Olはフローロに感度を上昇させる魔術を使わせ、絶頂させたのだ。かなり強引に責めたのもスキルをオフにするような猶予は与えない為。何故かやけにタフなフローロは普通に喘いでいたが、普通の女であれば最初の絶頂で気絶していてもおかしくない。それほどの責めであった。
さて、とは言えこのまま寝こけていられても困るからな。起きよ
Olがブランの頭に手を当て告げると、パチリと弾けるような音が鳴る。次の瞬間ブランは跳ね起きて、拳を構えようとし枷に足を取られてすっ転んだ。
勝負はついた。大人しく認めろ
いいえ!いいえ、認めませんあのような手段で!
キッと鋭い視線でOlを睨みつけるブラン。だが勢いよく転んだものだから枷が絡まり、芋虫のように地面に這いつくばった姿勢のままでは威厳も何もあったものではなかった。
何の話ですか?
一人彼らの会話についていけず、フローロは首を傾げる。
何のことはない
Olは嘆息し、ブランをみやった。
そもそもこいつはお前を殺すつもりなど更々なかったのだ。俺はただ試されただけ。お前を王にする能力を本当に持っているかどうかをな
別にそこまでは求めておりません
その説明に、不服そうにブラン。
私が試したのは、ただこの中層での私の立場を盤石にするまでの間、フローロ様をお守りするに相応しい存在であるかどうかだけです
過程はどうあれ俺はこうしてお前を下して立っている。それで十分その証明になるのではないか?
なるわけがないでしょう!?
ブランがこれほど声を荒らげる場面を、フローロは初めて目にした。
姫様にあのような不埒な真似をした相手を、どうして認められるとお思いですか!
至極もっともな意見であった。
待って下さい、ブラン。それについてOlを責める必要はありません
いいえ!失礼ながら姫様はご自身が失ったものを理解しておられないのです
苛立たしげに竜の尾を振り、ブランは言う。
支配者の瞳さえ抜け落ちていなければ、そのようなことはさせなかったのに!
悔しげに歯を食いしばるブラン。そう言えば初めてフローロを抱いたときには支配者の瞳はサルナークに奪われた状態だったか、とOlは思い出す。
フローロが最下層などというどう考えても治安の悪い場所に送られていたのも、いざとなればそれを用いて守ることができると思ってのことだったのだろう。まさか彼女がそれを自ら手放すなどということがあるとは思いもせずに。
いいえ、ブラン
しかしフローロは毅然とした態度でブランに告げる。
私はちゃんと理解しています。そしてその上で言っているのです
ブランは不思議そうな表情で、フローロを見上げた。
Olは私の夫です。ですから、私に対して何をしても不遜には当たりません
そのあまりの衝撃にブランは目を見開き、絶句する。
待て夫とは何だ!?
そしてその衝撃は、Olも味わっていた。全く覚えのない話だったからだ。
異世界からきたOlが知らないのも無理はありません
慈しむような笑みを見せ、フローロは答える。
共に子を育み、互いに支え合う男女を、この世界では夫婦と呼ぶのです
知っておるわ!!
思わずそう怒鳴りたくなる衝動を、Olはかろうじて押さえた。最初にフローロを抱いた時。キスで赤子ができると思っていた彼女に、生殖とは何か、どうすれば子ができるのかを教えて。
結局、そもそものOlはフローロとの子を欲しがっているという勘違いを正し忘れていたことを、たった今思い出したからだ。
子作りそのものの正しい方法を教えても、その行為そのものはしていたのだからその勘違いが正されるはずもない。実際にはOlほどの魔術師ともなれば誤って命中させてしまうことなどまずないのだが、そんなことまでフローロが知る由もなかった。
そうだったの、ですか?
呆然と尋ねるブランに、フローロはOlの腕を抱いて見せる。
私は私の全てをOlに差し出し、Olはそれを受け取って、私を支え魔王へと導く事を誓い、そして私の子を望みました。私達の関係が夫婦でなくして、何だというのでしょうか?
確かにそうだが!と、Olは内心で呻く。だがその大半は、ただ必要性によって迫られたものだ。
その男が、フローロ様を愛していると?
ブランも経験したのでしょう?愛していなければ、あのような情熱的なキスができるでしょうか
そんな馬鹿な理屈で説得されないでくれ。半ば祈るような思いでOlはブランに念を送る。
それは確かに
だがブランはぽっと頬を染め、視線を反らした。その記憶があるということは、どうやら思ったよりもだいぶ快楽に耐えていたらしい。