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──ですが、フローロ様。フローロ様はどうなのですか?

私ですか?

ブランの問いに、フローロはまるで思ってもみない問いをされたかのようにきょとんとした。

はい。フローロ様が意に沿わぬ相手を夫にするというなら、このブラン、けしてそれは看過できません。たとえ大願を果たすためであったとしても

ブラン

真剣な眼差しを向けるブランに、フローロは感じ入ったように見つめる。

そしてくすりと笑い、答えた。

勿論、私もOlのことを愛しています

ぎゅっとOlの腕を抱きしめ、屈託のない笑顔でそう言い切る。

私が何者であるかを知る前からどことも知らぬ地で、Olは己の身を顧みることなく私を助けてくれました。彼のことを私は誰よりも信じ、愛しています

そのあまりにもひたむきな告白に、Olは腹を決めた。

まあ、そういうことだ。ブラン、お前はいかにする

ぐっと抱かれた腕ごとフローロを抱き寄せて、Olはブランにそう尋ねる。

枷を解いて頂けますでしょうか

静かにそう頼むブランの枷を解いてやると、彼女は二人の前に改めて跪き、頭を垂れる。

正直まだ、私はあなたを認めるわけには参りません

ブラン!

この期に及んでそう言うブランに食ってかかろうとするフローロを、Olは押し止める。

あなたが真に姫様を任せるに足る方かどうかお傍で見定めさせて頂きます。それでよろしいでしょうか

ああ、そうしてくれ

それが最大限の譲歩であったのだろう。ブランに、Olは鷹揚に頷いた。

ブラン様!?

Ol、フローロの後ろを歩くブランの姿に、ユウェロイは目を見開いた。それが指し示すところは唯一つだ。

そして縛られたユウェロイを見て、Olは感心したような声を漏らす。

勝てたか

短い、しかし誇らしげな声でサルナークは答えた。Olとしては彼がユウェロイに勝つ可能性は高くて三割程度であると考えていた。勝てずとも、Olがブランを相手取っている間の時間稼ぎさえ出来ればいい。守りに徹したなら、サルナークの能力は時間稼ぎにはもってこいのものだからだ。

だが無論、勝って困ることは一つもない。Olは己の中でサルナークの評価を少しだけ上昇させた。

Ol様、ご無事ですか!?

ローブが焼け焦げ擦り切れた姿を目にして、ナギアが慌ててOlに駆け寄る。

大事ない。魔力を補充してしばらく休めば治る

そのローブには自己修復機能が仕込んであるし、Ol自身の肉体も同様だ。

ってことは、しっぽり補充しなきゃですね、Olサマ

交尾!?また交尾するのお!?

フォリオとラディコがOlの両腕を取って、嬉しげにそんな事を言う。

フォリオ!この裏切り者が!

いやあ、やっぱり勝てませんでしたよ。ごめんなさいね、ユウェロイサマ

烈火の如く怒り狂うユウェロイに対し、フォリオは軽い口調でそう答えた。

貴様ぁ!良くも私にそんな口を!

ブラン、説得しておいてくれ

怒鳴り散らすユウェロイを、ブランはずるずると引きずっていく。

あースッとした

その様子を見て、ケラケラと笑いながらフォリオ。主人に対する不満がよほど溜まっていたらしい。

ナギア。鑑定と鉄の腕、剣技を返す。取り出してくれるか

鉄の腕はそのままでいいんじゃないですか?ラディは銀の腕持ってますし

Olの胸の中からスキルの結晶を取り出すナギアの横から、フォリオがそう尋ねた。

いや、不要だ。やはり俺にはこのスキルとやらは馴染まん。それに

抜き出された結晶を、Olはじっと見つめる。スキルごとに結晶は色も形も違う。スキルに詳しいものなら、結晶を見るだけでどんなスキルなのか予測することもできるのだという。

下位のスキルを持っていることが全くの無駄とは限らん

首を傾げるフォリオに、確証はないがなとOlは答える。

まあOlサマがそう仰るならはい、ラディ

わーい

フォリオが差し出した鉄の腕を、ラディコが飛びつくようにパクリと咥えた。

スキルを育てるスキルなんてのが本当にあったらよかったんですけどね

フォリオは深くため息をついた。結局、ブランがそれを持っているという噂は根も葉もないものであった。銀の腕にしてもラディコの鉄の腕を強化したわけではなく、ただ別口で持っていただけだ。

もし見つけたら教えて下さいね、Olサマ

覚えておこう

何故、と問うことをOlはあえてせずに頷いた。そんなスキルがあれば確かに便利だろう。だが恐らくフォリオがそれを欲しているのはそのような単純な理由ではない。それを察したからだ。

ではブラン様が部屋を用意してくださったそうですので、お支度をしてまいりますわね。フォリオ様、ラディコ様、サルナーク様、お手伝いをお願いしてもよろしいでしょうか?

あぁ?なんでオレがンな事を

まあまあ。男手があったほうが助かるしさ

ボクも頑張ってお手伝いするよお!

何か気を利かせたのか、ナギア達はそう言って部屋を出ていく。残されたフローロはOlの隣にぽすんと座って、えへへと笑った。

怪我の調子はどうですか、Ol?

魔力そのものは十分に補充してある。後はこれを消化すれば簡単に治る程度の傷だ

そう答えながらも、思い出させるなとOlは顔をしかめた。何しろ魔力が足りないものだから、痛みを止めるような術すら使うのが惜しい。これほど節約して暮らすのは一体何十年ぶりだろうか、とOlは考えた。

助けに来てくれて、嬉しかったです

お前だって俺がサルナークに捕まった時、助けに来ただろう

あれは、Olは自力で抜け出せる状態だったじゃないですか

こてん、と首をOlの肩にもたれさせ、フローロは問う。

ねえ、Ol。一つ、聞いてもいいでしょうか

Olは答えなかったが、それをフローロは肯定と取った。

なんでOlは、私を助けてくれるんですか?

夫たるもの、妻を助けるのは当然だろう?

そんなのは私が勝手に言ってるだけじゃないですか

自覚が合ったのか、とOlは驚いた。

それにOlが私を助けてくれると決めたのは、私が自分を差し出すよりも前。あの時、そんな条件を出すより先に、Olは私に手を貸してくれることを決めていましたよね?

どうやらフローロの見方を変えねばならないようだ、とOlは独りごちる。彼女は思っていた以上に聡いようだ。

お前、それがわかっていながら全てを差し出したのか

そうするだけの価値があると思ったからです

一歩間違えば愚かと呼ばれるほどの、度胸と決断力。存外こいつは良い王になるかもしれぬ、とOlは思う。

聞かせて下さい。何故、Olは私を助けてくれたんですか?

構わんが何故今更そんな事を聞く?