それは純粋な疑問であった。Olに隠された目的があるとして、それがフローロにとって邪魔になることであれば今聞いたところで教えるはずもなく、そうでないならば初めに聞けばいいだけのことだ。
特に理由はないですね
とぼけているのか、それとも素で言っているのか。判断のつかない表情で、フローロ。
ただ、好きな人のことは知りたいじゃないですか。私、Olのことを何も知らないなって思って
だが続く言葉に、Olは渋面を作った。
こ、告白したのにその顔はなんですか!
狙ってやっているのなら恐ろしいし、狙っていないならばそれはそれで厄介だ。
お前が目指しているのが、魔王だからだ
Olの言葉に、フローロは首を傾げる。
一目惚れだったとか、健気な私のことが可哀想になったとか、元の世界の恋人に似てたからとかじゃなくてですか?
そんなわけがあるか
ではなぜ?
一体どこからそんな発想が出てくるのだ、と思いつつも、Olは続ける。
俺も元の世界では、魔王と呼ばれていた。だからだ
そんな理由で?
フローロは目を瞬かせた。同じ魔王繋がり。確かにフローロが最初にOlを助けたのも、自分と似たような境遇だと思ったからだ。しかしフローロと違って、Olがそんな甘い理由で手を貸すとはとても思えなかった。
いえ、待って下さい
だが、フローロはにわかに気づく。
Olも、魔(・)王(・)と呼ばれていたんですか?
ああ、その通りだ
頷く彼に、フローロは目を見開いた。
魔族を一切差別せず、フローロでもナギアでも抱く彼。魔を統べる王に相応しい存在であるだろう。人間でありながら、魔族の自分よりもよほど向いているのではないか。フローロはそう思った。
なんで?
正しく問いを発するフローロに、Olは首を横に振る。
ただの偶然かも知れぬ。だがあまりに不自然だ。故に、元の世界に戻るのならば、そこに鍵があると、俺は思う。それがお前に手を貸す理由だ
魔王。
全く異なる言語体系を持つ世界からやってきたOlの言葉の中で。
その称号を指す語だけが、この世界の言葉と全く同じ響きを有していた。
第三期二章に続く
第8話セックスしないと出られない部屋を作りましょう-1
闇があった。
四角く切り取られた闇だ。
一筋の光さえも差し込まない地下の部屋。空気さえもがねっとりと粘りつくような、濃密な闇。明かりもなく何も見えないというのに、その闇を割って赤毛の少女が部屋に入ってくるのがわかった。
少女が浮かべているのは、部屋の闇に勝るとも劣らない暗い表情だった。普段の快活さは見る影もなく、いつも朗らかな笑みに彩られていた表情は疲労と倦怠に沈んでいる。
帰ったの、ユニス
少女に向かって、闇の中から声が投げかけられた。酷く耳に馴染んだその声の主の名を、しかし思い出すことが出来ない。
うんやっぱり駄目だった
ユニスはどんな時も明るく健やかな英雄の少女は、ヘドロのように濁った声で答え、その手に持った物を力なく取り落とす。それは、無数の黒い糸のようなものがへばりついた、球状の物質だった。
ところどころが赤黒く染まったそれは、地面をごろごろと転がっていく。
闇の中の声が、誰に投げかけるというわけでもなく響く。
どうして、こんな事になったのかしらね
悲嘆に満ち満ちた声だった。この声の持ち主もまた、本来ならばこんな声色を出すような人物ではない。そう思うのに、その根拠を思い出すことができない。
ユニスが取り落とした球体が、やがて緩やかにその動きを止める。
ばらりと黒い糸状のものが広がり、その奥にあったものがあらわとなる。
大きく深緑の目を見開いた、褐色の肌を持つ女の頭。
──それは黒の女帝、エレンの首だった。
Olは跳ね起き、周囲を見回した。見慣れない部屋に、見慣れない寝台。
一瞬混乱した後、肌に触れる柔らかく暖かい感触に思い出す。一糸まとわぬ姿でOlにくっつきながらすやすやと寝息を立てているのは、フローロ。ここは長年住み慣れたOlの魔窟ではなく、どことも知れぬ異世界のダンジョンの中だった。
昨夜はフローロと肌を重ねた後、互いに裸のまま眠りについた事を思い出した。
Olはどくどくと跳ねる胸をおさえ、呼吸を整える。
異常に現実感のある夢だった。ユニスと話していたのは間違いなくリルだ。こうして目を覚ましてしまえばなぜ右腕たる彼女の名前を思い出せなかったのか不思議でならないが、夢とはそういうものだろう。
そしてユニスが持っていた首変わり果てた姿になってはいたが、あれは黒アールヴたちの長、エレンだ。
エレン。Olのいないダンジョンで、彼女が反旗を翻すというのはなくもないだろう。彼女の忠誠は飽くまでOl自身に向けられたものであって、彼がいなくなればあるいはそういうこともあるかも知れない。
だがそれは、少なくとも何年何十年と経ってからの話だ。アールヴ達は気が長い。Olがこの世界に来てからの数日で反乱を起こすほど他の者達との仲が険悪だったとは思えないし、思いたくはなかった。
それに何より、ミオがいる。あの心優しい獣使いの少女は争いを好まないし、エレンたちとの仲も良好だ。ミオが止めればエレンは聞くだろうし、仮に聞く耳を持たなかったとしても力づくで止められる戦力がミオにはある。なにせ獣の魔王だ。
あるいは、この世界と元の世界とでは時間の流れが違うのかも知れない。そういう異界の話は聞かないでもない。だが時間の流れすら異なるほどに隔絶した世界であるなら、元の世界の情報がこのような形でOlに伝わってくるというのも考えにくいことだ。
結局のところ、ただの夢という可能性が一番高いだろう、とOlは結論づけた。
Ol?
一人思案していると、傍らのフローロが寝ぼけ眼をこすりながらOlを見上げる。
なんだか凄く、悲しそうな顔をしていました
フローロはそう言って、そっとOlの頬に手を触れる。
気のせいだろう
気遣わしげなその手のひらが妙に疎ましく感じられて、Olはその手を素気なく跳ね除ける。
むーじゃ、こっちしますね
フローロは軽く頬を膨らませると、上半身を折りたたむようにしてOlの股座に顔を近づけ、まだ柔らかいままのそれをちゅぷりと口に咥えた。
余計なことを
性器を包む暖かく柔らかい感触に、Olは呻くように声を上げる。フローロの舌先がまるで別の生き物のようにうねうねと動き、Olの弱い部分を撫であげながら、絶妙な力で吸い上げていく。
ほんの少し前までは処女だったというのに、淫魔もかくやとばかりの舌技は腰が蕩けんばかりの気持ちよさだった。
んふ
あっという間に硬く反り返る男根にフローロは目だけで笑い、ちゅぽんと音を立てて口から外す。