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だが、お前はもっと自在に母なる壁を操っていたはずだ。なぜ一回壁を動かしただけで魔力が切れる?

補給を邪魔されたからだ。俺はフローロと交わることで魔力を手に入れている。だが今日に限ってそれを中断されたのでな

淡々と告げるOlに、ユウェロイは朝のことを思い出す。Olとフローロの情事を中断したのは他でもない、ユウェロイ自身だ。

ではフローロ殿下がここに救援に来たならば

仮にそうなったとしてもどうしようもない。壁を隔てて魔力を受け渡しするような都合のいい方法はないからな。そもそもそんな事ができるのならば、お前の魔力を離れた場所から受け渡しすればいいだけの話だ

ユウェロイはよろめくように数歩たたらを踏んだ。自分が追い詰められている事が、じわじわと理解できてきた。

つまりこういうことか?

彼女は呻くように、尋ねる。

お前とセックスしないと私達はこの部屋を出られず死ぬ

そういうことだ

思い違いであってくれ。そんなユウェロイの願いをよそに、Olははっきりと首肯した。

第8話セックスしないと出られない部屋を作りましょう-4

何だ妙に息苦しい

沈鬱な空気を、久方ぶりにユウェロイの声が震わせる。

固定空気だな

コテなんだと?

この密閉された小部屋を出るには、Olと交わる他ない。それを理解してからも彼女は決意することができず、Olもまた促したりする事もなく、無駄に時間が過ぎ去っていた。

空気とは通常目に見えず宙に漂っているものだが、中には木材や人の身の中に固定されているものもある。これが固定空気だ。火を燃やしたり、息を吐くとこの固定空気が放出され、通常の大気と混ざる。問題は、固定空気は生物にとって毒だということだ。広い場所であれば多少混ざっても問題にはならんが、これほど狭い部屋で密閉されていては溜まっていく一方だ

この固定空気は、実はOlのダンジョンにおいても問題となった物質だ。Olのダンジョンには外への出入り口が開いているとはいえ、最奥部まで風が吹き抜けていくわけでもない。そこに大量の生き物が住んでいれば、どうしても固定空気は溜まっていくのだ。

だからこそ、その果てに何が起こるかもOlは正確に知っていた。

喜べ。餓死するより、渇いて死ぬより先に、息が詰まって死ねるぞ

Olがそう告げると、ユウェロイの顔がさっと青ざめた。

貴様が、死ねば

少しは長生きできるだろうな。一日で死ぬ所が二日生きられるというわけだ。そうしたいならそうしろ

皮肉っぽく言うOlに、ユウェロイは突きつけた槍を力なく取り落とす。

なんとかしろ!

そう言われてもな。出来ないものは出来ん

それを何とかするのが貴様の仕事だろうが!

知ったことか。そもそも出来ることがあるのにせずにいるのはどちらだ?

唸る獣のようにがなり立てるユウェロイに対し、Olは淡々と返すのみ。

貴様、まさか最初からこれを狙って

そんなわけなかろうが。だいたい、止める俺を振り切って戦いを挑み、勝手に死にかけたのはお前の方だろう

全てはお前の策略だ、とばかりにユウェロイは噛みつくが、Olの放った正論にうっと呻いた。

さて、こうしている間にも民は死んでいくのだろうな。御大層な事を言ったときには少しは感心したものだったが、所詮は口だけであったか

ダメ押しとばかりにそう嘲るOl。安い挑発であるとはわかっていても、ユウェロイに避けるような余裕はあらゆる意味で残されていなかった。

わかった貴様の好きにしろ

とうとう覚悟を決め、ユウェロイは床に身を投げ出す。

背に腹は代えられん。貴様のその薄汚い、下衆な、魔力回復法とやらを行っていいと言っている!感謝しろ

察しの悪いやつだと言わんばかりの表情で、ユウェロイは吐き捨てる。

お前はまだわかっておらんようだな

だがそんな彼女を見て、Olは深々とため息をついた。

何をだ

言っただろう。酷く気が進まない方法だと

そんな事はわかっている!

いいや、お前は全くわかっておらん

首をゆっくりと横に振り。

俺は、お前など抱きたくないと言っているのだ

Olは、決定的な言葉を口にした。

予想もしていなかった言葉に、ユウェロイは目を大きく見開く。

貴様、な何という侮辱を!

だが一瞬後には言われた言葉を理解して、烈火の如く怒り始めた。

侮辱だと? 侮辱しているのはお前だろう。俺はお前の部下でもなければ手下でもない。それどころか命を助けてやったのだ。なぜお前の側にだけ選ぶ権利があるなどと思う

しかし返ってきたOlの言葉に、二の句が継げず押し黙る。

だ、だが私の協力がなくば、お前とて死ぬのだぞ!

実はもう一つだけ方法がある。しかしその方法は可能な限り取りたくない

その言葉を聞いた瞬間ユウェロイは跳ね起き、Olを壁に押し付けて槍を突きつけた。他に方法があるとなれば話は全く変わる。覚悟を決めて身体を差し出そうとまでしたのに、今更他の方法を隠していたなどとなれば、もはやOlの言う事など何一つ信用できない。

言え。その手段を取るかどうか判断するのは貴様ではない!

お前を殺すことだ

だが、提示されたのはよりありえない選択肢であった。

魔力というのは肉体とりわけ、身体の中の臓腑に宿るものだ。故に、最も臓器に近い生殖器を繋ぐことで魔力の道を作るわけだがそこにあるものを俺の身体の内に入れるなら、もっと単純で手っ取り早い方法があろう

つまり、ユウェロイを殺してその内臓を喰らえばいい。

貴様に私が殺せるか!

別に俺が殺す必要はない。待っていれば自然と息が詰まって死ぬだろう

Olから距離を取り、全身を甲冑で覆うユウェロイ。しかしOlは壁にもたれかかったまま、悠々と腕を組んでそう告げる。

その時は貴様も死ぬだろうが!

魔術師を舐めるな。魔力が尽きたと言っても、完全に使い果たしたわけではない。息を保つ術を使う程度の余裕はある

なにせ母なる壁を動かす魔術は非常にコストがかかる。明らかに何らかの魔術が付与された壁を、そこにかかった魔術ごと操作するためだ。例えるならなみなみと水のはいったコップを動かすのに等しい。しかし下手にこぼしてしまえばダンジョン全体が崩壊しかねないから、そうする他ない。

それに比べれば、体内に新鮮な空気を作り出す術など消費はほぼゼロに等しかった。

それを私にも使え!

そうして二人仲良く死んで何になるというのだ。そもそもこの術は他人には使えん

自分自身の肺腑の中に新鮮な空気を作り出すからこそ、消費が少ないのだ。流石に他人の体内に干渉するのはOlとて難しいし、かと言ってこの小部屋の空気全てを作り変えるなら流石に壁を動かす方が安くつく。