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貴様に食われるくらいなら、先に貴様を殺す!

落ち着け。その方法は取りたくないと言っただろうが。そうするつもりなら、お前に教えるわけがないだろう。ただ黙って死ぬのを待てばいい。お前が言えというから言ったまでだ

両手に槍を作り出し戦闘態勢に入りかけるユウェロイを、Olは落ち着いた仕草で宥める。

固定空気にしたってそうだ。放っておけばじきにお前は意識を喪失し、そのまま二度と目覚めることなく息絶える。それをわざわざ説明してやったのは、お前を死なせたくはないからだ

死なせたくない?

ユウェロイはOlの言い回しに引っかかりを覚え、問い返した。

殺す気はないとか、死なせるつもりはないとかなら、わかる。王座を奪還しフローロを魔王に据えるというOlの目的のためには、ユウェロイの壁族としての立場は今後絶対に必要になるからだ。

だが死なせたくないという言い方は、そういう利害関係とは別のニュアンスを孕んでいた。

ああ。俺は、お前のことを殺すには惜しい奴だと思っている

無論、壁族という立場は抜きにした話だ、とOlは付け加える。

お前は類まれなる武勇を誇る真の戦士であり、同時に民を思いやることが出来る良き壁族だ。みすみす殺してしまうには惜しい

そのような見え透いた世辞でこの私が喜ぶなどと思うなよ

絞り出すような声で、ユウェロイは憎まれ口を叩く。だがその口ぶりには、隠しきれない喜色があった。

ユウェロイについての愚痴は、彼女の部下であるフォリオから散々聞いていた。他者に正当な評価をくださないものは、たいてい自身も他者から正当な評価を受けることはないものだ。

この状況で世辞を口にしてどうなる。単純にお前への評価を口にしたまでだ

確かにそれはそうだ、とユウェロイは思う。抱かれることを拒んでいた時であればまだわかるが、今ユウェロイはそれを承諾した後なのだ。

ならば、さっさと私を抱けばいいだろうが

死なせたくないなどと言うくせに、一体何を躊躇っているのか。

それとこれとは話が別だ

こうしている間にもユウェロイの呼吸は徐々に苦しくなり、視界が歪み、意識が朦朧とし始めている。だがOlは大仰に首を振り、言った。

お前には女としての魅力を全く感じないからな

そしてその言葉は、ユウェロイに多大な衝撃を与えたのだった。

第8話セックスしないと出られない部屋を作りましょう-5

ユウェロイはOlに投げつけられた言葉の衝撃に、怒り狂うことさえできずにただただ言葉を失った。

ユウェロイ。お前、部下から侮られていると感じることはないか?

な、何故そんな事を聞く

続く唐突な質問に、ユウェロイは思わず問い返した。しかしそれは、肯定しているも同然の返答だ。

俺がお前を抱きたくないのと同じ理由だからだ。折角麗しい見目と高潔な誇りを持っているのに、それでは男も部下もよりつくまい

理由とは何だ。聞いてやる、言ってみろ

居丈高に問うユウェロイにOlは嘆息し、言った。

まさにその物言いのような態度だ。上から威圧的に言いつけるばかりでは人はついては来ぬ

私を侮辱しているのか!?

いや。勿体ないと思っている

肩をすくめあっさりと言うOlに、激昂しかけたユウェロイは毒気を抜かれる。

お前が類稀なる勇士であり、善良な領主であることは世辞でも何でもない。率直な感想だ

それは実際、Olの心からの感想だった。もっとも、単純な褒め言葉というわけでもないが。善良な領主が有能な領主であるとは限らないからだ。

なのにお前自身は全くそう思っておらんだろう。不幸なことだ

ユウェロイは思わず息を呑んだ。それは、誰にも明かしたことがないいや、今の今までユウェロイ自身でさえ、明確には認識していない事実だったからだ。

お前は強く善良だ。そんな者が誠意を持って頼み事をすれば、まともなものなら誰も断らぬ。にも関わらず、わざわざ高圧的に命じて反発を招く

ずいと一歩踏み込むOlに、ユウェロイは後退る。長身なユウェロイよりも若干背が低いはずの男が、やけに大きく感じられた。

お前が、お前自身を信じられておらんからだ

肩書に頼り、一方的に命令する。あるいは威圧し、武力で言うことを聞かせる。

それはここに至るまで、ユウェロイがOlに対しても行ってきたことだ。

しかしそれは相手が言うことを聞くのが当然だと思っているからではなく、むしろその真逆。肩書を持たない自分自身に相手が従うと思っていないからこその行動だった。

女としての魅力を感じないと言われ、お前はなんと思った?

Olの指先がユウェロイの胸元を指し示す。

怒りはあっただろう。だがそれ以上に納得してしまったのではないか?

それはまるで心臓を鷲掴みにされたかのような感覚だった。

ユウェロイの身体から、力が抜ける。そして壁に背を預けたまま、ずるずると床に座り込んだ。Olの言う通りだ。ユウェロイは、それを心の何処かで真っ当な評価であると思ってしまっていた。

全く、愚かなことだ

正しくその通りだ、とユウェロイは思う。虚勢は全て見破られ、生命は相手の手に握られている。どのような事を要求されても、もはや断ることはできない。

お前は強く、正しく、そして美しい。真っ当に頼まれれば俺とてどんな願いも拒めぬだろうに

だが、続いたのはユウェロイが思ったのは真逆の言葉だった。

こ、断っただろうが!

真っ当にと言っただろう。それに、お前が言ったのは好きにしていいだ。頼み事をしたわけではない

それはそうかとユウェロイは納得するが、それはつまり改めて頼めという要請でもある。そう簡単に口にできたら苦労はしない、とユウェロイは内心毒づいた。

自信を持て、ユウェロイ。お前は十分美しい。それに、別に媚びへつらえと言っているわけではないのだ。ただ単純に対等な立場から、頼めばいい

それを見透かしたように、Olはそう口にする。流石にそこまでお膳立てされてなお意地を張る程の余裕は、精神的にも肉体的にも残されていなかった。呼吸も既に随分と苦しい。

わかった私を抱いて、くれ

心得た

全身を包んでいた甲冑を消し、消え入るような声色で呟くように言うユウェロイの手を、Olは恭しく取って引き寄せる。

そして、腰を抱いて頬に手を添えながら、その唇に口づけた。

それはこちらの台詞だ

途端、Olはユウェロイに殴り飛ばされてたたらを踏んだ。

まぐわいに接吻など必要ないだろう!

それはそうだが息苦しさは抜けたか?

そう言われて初めて、ユウェロイは呼吸が多少楽になっていることに気がついた。