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広間の出入り口を全部塞いでしまうという手はあるが

いや、それは駄目だ。あの広間を塞いでしまうと孤立してしまう領民が出る。それに、別の出入り口に移動するにはどうしたって翼獅子の前を通らなければならない

Olの隠形を使えば気づかれずに通り抜けられるかもしれないが、広間にある出入り口は三つだ。一つ塞いだ時点で翼獅子に気づかれるだろうし、警戒して逃げられれば厄介なことになる。

私が止める

考えた末、ユウェロイが出した結論は。

最初の戦いで、一瞬とは言え動きを止められたのはお前も見ただろう。何重も甲冑を生み出せば、お前が壁で捕らえる程度の時間は稼げるはずだ

だから、と彼女は続ける。

頼めるか

そのように頼まれては否とは言えんな。わかった、任せておけ

笑みを浮かべて請け負うOlにユウェロイもほんの僅か唇を笑みの形に歪め、二人は更に作戦の詳細を詰め始めるのだった。

好都合だな。寝ているぞ

二人が隠形をかけて身を隠し広間へ戻った時、翼獅子は部屋の中央で丸くなり寝息を立てているところだった。

モンスターも眠るのか?

当然だろう

何を言っているんだ、と言わんばかりの表情でユウェロイ。

壁が動けば途中で気取られる可能性がある。作戦通り、まず私が甲冑で奴を拘束する。お前は同時に壁を動かし、閉じ込めてくれ

小声でそう言葉を交わし、隠形が破れないようゆっくりと翼獅子に近づいていく。

甲冑を出せば流石に気づかれてしまうだろうが、その時真正面にいてはすぐさま牙や爪、炎が飛んでくる。できれば背後から拘束したいところだが、Olが壁を立てるのも後ろ側からでなければ閉じ込めようとしていることが即座に気づかれてしまう。ほんの一瞬の差だろうが、その一瞬が命取りになるかもしれない。

故にユウェロイは翼獅子の側面から近づくことにした。六本の脚を抱くようにして丸くなって眠る翼獅子の背中側に陣取り、手を伸ばす。作り出すのはその脚を固定する篭手と具足だ。まずは三組六つの篭手を翼獅子の脚にはめ、その上から具足をはめる。

人間と翼獅子とでは関節の形がまるで違うから、向きや大きさはさほど気にしなくてもいい。とにかく生み出しさえすれば動きを止められるはずだった。

ユウェロイ、待て!

Olが警告の声をあげるよりほんの一瞬早く、翼獅子の呼吸音が変化した。それを寝息から唸り声へと変えながら、翼獅子はユウェロイの手をかわして身を翻す。そして天井近くまで舞い上がると、大きく開けた口からチカリと光が瞬いた。

寝たフリをしていたのだ。

それはモンスターとは思えない知能の高さだった。同じ階層のモンスターよりも大幅に高い能力を持つ特異個体とはいえ、Olの隠形を見破り、寝たフリをして騙して誘い込む。

更にはユウェロイの甲冑を作り出して拘束する能力すら把握している。そんな知能を持ったモンスターなど、今まで見たことも聞いたこともなかった。

死んだ、とユウェロイは思う。

彼女の神経は篭手を六つ作り出すことに集中しきっていて、全身の甲冑を作り出す動作に切り替えるのにほんの半瞬遅れた。しかしその半瞬で、炎はユウェロイを飲み込んで殺すだろう。忍び寄るのに邪魔になるからと防御を解いていたのが災いした。

彼女が完全に死を覚悟したその瞬間、しかし吐き出される紅蓮の奔流を遮るものがあった。

Ol!? 何をしている!

耐熱のローブと耐火の術を使ってこれか!

ユウェロイに覆いかぶさったOlは、苦悶の表情を浮かべながら彼女を守っていた。

何をしている!?

なに、良い女の頼みを聞いているだけのことだ

ニヤリと笑みを浮かべ、Olは虚勢を張る。

いいか、三つ数えたら、目の前に鎧をつけろ

目の前と言われても、そこにいるのはOlだ。炎を防ぐためにも甲冑を被せてやりたいところだが、着慣れてもいないものに着せてもロクに動けなくなるだけだ。炎は防げても爪や牙の餌食になるだろう。

俺を信じろ

だが、ユウェロイはOlの言葉に余計なことを考えるのをやめた。

Olの着ているローブの裾に、火が灯る。付与された耐熱魔術の限界を超えたのだ。

だがOlは慌てもせずに数を数える。ローブの炎が燃え上がり、彼の体を包む。

ユウェロイの視界が、独特の浮遊感とともに切り替わった。Olの姿が掻き消え、代わりに目の前に見えるのは翼獅子の背中だ。そしてそのときには既に、ユウェロイは全身甲冑のスキルを発動させている。

落ちろぉぉっ!

羽ばたく翼の根本を、ユウェロイは甲冑で覆った。その重みと拘束とで、翼獅子はバランスを崩し地面に落下する。

そしてすかさず、Olが迷宮の床石を紐のように引っ張り上げて、翼獅子の六本脚と口元に縛り付けた。母なる壁でできた口輪をつけられてしまえば、牙を剥くことも炎を吐くことすらままならない。

やれやれ、なんとかなったか

Olがなおも燃え盛るローブを脱ぎ捨てて、服に纏わりつくような炎をはたき落とすと、彼に燃え移っていた炎は掻き消えた。だが当然、無傷というわけにはいかない。そこかしこに火傷ができてしまっていた。

ああ。石さえ燃やす炎に焼かれた時に比べれば大したことはない

妙な冗談を飛ばしながら、Olは拘束された翼獅子を見やる。

で、拘束したはいいがどうする? 槍は通じんのだろう

捨て置けばいい。人を殺せなければモンスターはいずれ消える。その場合ドロップ品を回収できんのは業腹だがいや、フォリオの部下に腕持ちがいたか。奴ならば倒せるかも知れんが

とはいえ、恐らく回収に来る前に消えてしまうだろう、とユウェロイは言う。

無力化されてしまったモンスターは特にすぐ消えてしまうものらしい。

何にせよ今回はよくやった。Ol、お前のことを少しは認めてやる

笑みを見せ、素直にユウェロイはOlを労う。

ならば一つ、俺はお前に謝らねばならんことがある

そう切り出したOlに、自分を抱いたことを謝罪するつもりなのだろう、とユウェロイは思った。

成り行き上仕方なかったこととはいえ、確かにそれは謝罪して然るべきことだ。ならば寛容に許してやろう、とユウェロイは考える。昨日までのユウェロイであれば、ダンジョンの上下がひっくり返ってもそんな事を思いはしなかっただろう。このような変化が自身に訪れるとは、少し信じられない思いであった。

先程、お前を転移させただろう

ああ。まさかあのようなスキルがあるとはな

だが、Olは突然全く別の方向に話を飛ばした。とはいえ、先程の連携は即興にしては悪くないものだった。ユウェロイも快く話に乗ってやる。

あれは壁を動かすより遥かに少ない魔力で出来る