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そしてルヴェはゆっくりと振り返ると、氷の壁に埋まって身動きの取れないモンスターたちに指を向ける。次の瞬間、その指先から凄まじい雷撃が放たれて、氷の壁の表面を伝いモンスターたちを消し炭に変えた。

こーんな浅い区画の雑魚雑魚モンスターにあたしが負けるわけ無いでしょ?

ふっ、とルヴェが指先から立ち上る煙を吹き消すと同時に、氷の壁が消え去りモンスターたちがドロップ品に変わる。

し、しかし他の探索者と出会うという可能性も

探索者ったって、どうせユウェロイとかハルトヴァンのとこの奴隷でしょ。あーんなよわよわ壁族の手下なんか楽勝よ

己を諌めるテールの言葉に、自信満々のルヴェはまったく聞く耳を持たず通路を進んでいく。

お姉様、ハルトヴァンさんとは同盟を結んでいます。倒してはまずいのでは

大丈夫よ可愛いクゥシェ。全部あたしに任せておけば間違いなんてないんだから

妹のクゥシェの言葉も無視して、ルヴェは通路をずんずんと進んでいく。

というわけだ。今からこいつらを襲うぞ

スィエル姉妹じゃないですか!

魔術で映した遠視を指していうOlに、フォリオが真っ先に突っ込む。

有名なのか?

オレでも知ってるぞ。レイユのトコの孫娘だろ

Olの問いに、サルナークは呆れ声をあげた。

ユウェロイサマ、ハルトヴァンサマ、レイユサマというのが中層で特に有力な壁族の名前です。ですがあのお二人は自身が幼くして凄腕の探索者として有名なんです。あの牙族のヒトは護衛ですね

確かに先程の戦闘は見事なものだったな

フォリオの説明に、Olは頷く。氷の壁で敵を止め、雷撃で一網打尽にする。万一敵が漏れれば後ろに控えた牙族の男が対応するのだろう。攻守にバランスのいい優れた戦法だった。

ついでに言うとあのテールって男はランクまでは知らんが、盾と腕両方持ってるって話だ

こっちも両方あるよ!

任せて、と言わんばかりにぐっと拳を握って見せるラディコ。

二人で持ってるのと一人で両方持ってるのじゃわけが違うだろうが。だったら貴様の鉄の腕よこせよ

えー、やだよお

銀の腕の方を渡せと言わない辺り、微妙に人がいいですよねこのヒトとフォリオは思いつつも口には出さない。

チッ。まあいい。そういうわけでだな大将。あいつらを狙うのは

サルナークにOlは重々しく頷く。

ラディ、スキルを銀の腕に切り替えておけ。そしてまず鉄鎚を黒髪の娘に向かって投げろ。防御役をまず潰す

話聞いてたか!?チビ、貴様もわかるな!あいつらを狙うのはナシだ!そんくらいわかれ!

何事もなかったかのように戦術を説明しだすOlに、サルナークは叫んだ。

わかったらだめなの?わからないとだめなの?

ちょっとサルナークサン、ラディにあんまりややこしいこと言わないでくれマス?

過保護か!ちょっと貴様らは黙ってろ!

眉を寄せて考え込むラディコを抱えて文句を言ってくるフォリオに、サルナークは吐き捨てる。

サルナーク。お前の言いたいことはわかっている

いいや、わかってねえだろ。あいつらが強いってだけの話じゃねえんだ。奴らに手を出せばレイユの配下全部が敵に回る。壁族同士の戦いになればどちらも消耗は避けられない。そうなりゃ弱ったところをハルトヴァンが総取りだ。そうやって中層は三人の壁族が争うことなくバランスを保ってる。だからユウェロイはアンタを守っちゃくれねえぞ。レイユにアンタを差し出して終わりだ

懇切丁寧なサルナークの説明に、なるほど、とOlは深く頷く。

──つまりお前は怖いのだな?

あ゛ぁ!?

ぶっ殺してやらぁぁぁっ!

どんなに理を説き、状況を説明し、メリットとデメリットが釣り合わないことを教えても怯懦なるは恥ではないなどと優しい口調で言われ、サルナークは半ば自暴自棄になってルヴェたちに襲い掛かった。

無論、安い挑発に乗ったわけではない。Olが最初からすべて理解した上で決め、翻す気がないという事がわかったからだ。

腹立たしいのは、Olの言葉はある一面では正しいという事だ。無謀な自殺行為を避けることを臆病とは言わないが、少なくともOl自身はそれを無謀だとは思っていない。

そしてそれは、フォリオとラディコもまた同様だった。わかったと即答したラディコは単に何も考えてないだけだろうが、フォリオは考えた上でOlの事を信じたのだろう。特に反対することもなく、彼の指示に従っている。

結果としてサルナークだけが強硬に反対した事になる。挙句の果てに気が乗らないなら帰ってもいいとまで言われ、サルナークは流石にキレた。

ナニアレ?

剣を届かせる遥か手前でサルナークの身体が氷の壁に包まれ、雷撃が放たれる。だが鋼の盾を持つ彼にそれは一切のダメージを与えなかった。流石に氷に包まれれば動けなくはなるが、風を切って投げ放たれた巨大な鉄鎚がその氷を粉々に砕き、更にそれを作り出したクゥシェへと一直線に突き進む。

だがそれが少女に当たる寸前、牙族の男テールが拳で叩き落す。

おい、あいつ銀の腕を防いだぞ

銀の盾以上の持ち主ってことですね

両方ともランクが銀であれば、威力は見た目通りの効果となる。つまり高速で飛んでくる鉄鎚を拳で叩き落せる膂力と頑丈さの持ち主という話になるが、金の盾の持ち主であることに比べればその方がいくらかはマシだ。

何よあんたたち!いきなり何を──

お姉様、危ないっ!

文句を言うルヴェの目前に氷の壁が張り、フォリオの放った大炎がぶつかって蒸気を噴き上げながら対消滅する。

いいぞ羽女、そのまま続けろ!

スキルというものは一度使用すると、次に使用するまでの時間俗にいうクールダウンというものが発生する。連発はできないのだ。そしてその時間は強力なスキルであるほど長くなる傾向にある。

氷の壁は強力なスキルであるがゆえに、大炎に比べ必要となる時間が長い。つまりはフォリオが大炎を投げている限り封殺できるということだ。

調子に乗るんじゃないわよッ!

導雷!

ルヴェの指先から稲妻が迸り、フォリオを狙う。しかしOlの魔術によって、それはサルナークへと誘導された。

は?何そのスキル

お嬢様、お下がりください!

目を丸くするルヴェの前に出たテールが大斧を振り上げ、前衛のサルナークに向かって振り下ろす。サルナークはその一撃を、剣で受け流すように捌く。だが凄まじい衝撃が彼の腕を襲い、危うく剣を取り落としそうになりながらサルナークは後方に飛んだ。

くそっ、腕も鋼以上か!?

ふん。テールは腕も盾も金よ!あんた達に勝ち目はないってこと!