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しかし、特に苦しい感じはしなかった。最初に定めた通り、心臓も肺も生命維持に必要な部分は問題なく動いているようだ。

しかし胸とは、とウィキアは内心驚きを隠せなかった。最初は間違いなく四肢を取りに来ると思ったのだ。Olからしてみれば四肢に頭を封じれば勝てる勝負なのだから、胸を取りに行く必要はない。しかし、だからこそ取りに行ったのかもしれない。優先順位を鑑みて論理的に予想を張るウィキアに対し、その裏を突いている、という事か。

次は私の攻撃ね

ウィキアはそういって、札を差し出した。今度はそれほど悩まずに差し出す。Olは相変わらず、殆ど間をおかずに札を出した。

攻撃側、ウィキア。指定部位右脚。防御側、Ol。指定部位右腕。攻撃ハ成功、Ol ノ 右脚ハ ウィキア ノ モノ トナル

ほう

Olの右脚に銀の楔が突き刺さり、Olは少し感心したように声をあげた。四肢を取りに行くというウィキアの戦略は読まれている。しかし、Olにそれほどの危機感はないはずだ。彼にとっては、腕も他の部位もさして価値に差はないのだから。

だが、そここそが付け入る隙だ。

宙をたゆたう銀と琥珀色の魔力を視界に収めながら、ウィキアはうっすらと笑みを浮かべた。

第10話欲にまみれた冒険者どもに絶望を与えましょう-7

ギフト、と呼ばれる先天的な才能がある。

それは魔術よりも一段高い運命の領域にある能力で、ごく一部の人間だけが持って産まれてくる。

英雄の星もそれに当たり、ギフトの中でも特に高い効果を持つものの一つだ。

ウィキアの持つ魔力の瞳はそれに比べれば随分とおとなしい。このギフトを持つものは、本来目に見えない魔力の流れを肉眼で見ることが出来た。彼女にとって他の魔術師は、盲目の剣士の様なものだ。魔力の流れも見えぬのによくもまあ器用に魔術を扱うものだ、とは思うが、彼女の目にはその様子は酷く危なっかしく映る。

Olは熟練の魔術師であり、全身に魔力を漲らせている怪物ではあったが、やはり盲目である事には変わりが無かった。悪魔に頼るまでも無く、Olが魔術を使えばそれは容易に知れる。単純なものであれば、それがどのような魔術であるかも解析できる。

つまり、両腕を封じてOlが魔術で筆を扱うようになれば、ウィキアは魔力の流れからOlの文字を当てられる自信があった。

ギフトは魔術とは違う。使うのに呪文も印も要らないし、魔力すら使うことは無い。封魔の呪具をつけられていても何の問題も無く使うことが出来るし、使っている事は悪魔にすら気取られることは無い。そもそもウィキアには反則は適用されない。万が一バレても何の問題も無い。

次は私の攻撃ね

ゲームは既に、4巡目へと突入していた。今の所、お互いに防御は成功しておらず、ウィキアはOlの腹を、Olはウィキアの左腕と腰を手に入れていた。

しかし腰とは、相変わらず妙な場所ばかり持っていく。ウィキアが腹を狙ったのは四肢からOlの意識を逸らす為だが、Olはまるで左腕を狙うことで別の部分から彼女の意識を逸らそうとしている様に見える。

ひあっ!?

そう思った瞬間、背筋を走る感覚に思わずウィキアは悲鳴を上げた。感覚の発生源に目を向けると、彼女の左腕は勝手に動き、自身の股間を淫猥に擦り上げていた。いつの間にか服はたくし上げられ、Olの目の前に秘部をさらけ出している。

目を凝らすと、Olから伸びた魔力がウィキアに纏わりつく鎖を通じ、ウィキアの身体を操っていた。

これは、妨害行為じゃないの!?

妨害デハナイ。文字ハ 書ケルダロウ

叫ぶウィキアに、悪魔は冷静にそう答えた。思考や行動の妨げになるような行為ならともかく、ウィキアの左手はゆっくりとスリットをなぞっているだけだ。気は散るものの、ゲームを妨害していると言う程ではない。

所有物を使って、所有物を嬲っているだけだ。何の問題がある?

続けるわ

ウィキアはまだ動く脚をきゅっと締めて股間をOlの目から隠すと、札に部位を書いて伏せた。次の狙いは、今度こそ右腕と見せかけて、左脚だ。Olの頭にあるのは今、右腕か、その他の部位か、と言った所だろう。その思考の隙間を突く。

攻撃側、ウィキア。指定部位左脚。防御側、Ol。指定部位左脚。攻撃ハ失敗

しかし、その思考が読まれていたのか、Olに防がれた。

有利だった先攻が一転、ウィキアが不利となる。

焦ったな。股間を弄られて呆けたか?

いやらしい笑みを浮かべながら、Olが嘲った。

言ってなさい

恥辱に顔をしかめながらも、ウィキアは札を出した。

攻撃側、Ol。指定部位右腕。防御側、ウィキア。指定部位右腕。攻撃ハ失敗

あなたこそ、色ボケのせいで血迷ったようね

言いながら、ウィキアは内心安堵した。これで先ほどの失敗は帳消しになった。それだけでなく、狙われた右腕を守れたのは大きい。文字を書く生命線であるだけでなく、両腕を操られて身体を辱められるなどぞっとしない。

攻撃側、ウィキア。指定部位右腕。防御側、Ol。指定部位腰。攻撃ハ成功、Ol ノ 右腕ハ ウィキア ノ モノ トナル

次に出した札で、ウィキアは喜びの表情を抑えるのに苦労した。Olの右腕に楔が突き刺さり、Olの両腕がついに封殺される。しかし、その思考の片隅で、Olの防御部位が気にかかった。何故、腰なんかを守ったのか?

いや、そんなことはもはやどうでもいいことだ。それよりも、Olの魔力の流れを解析せねばならない。ウィキアはぐっと目を凝らし、彼を見つめた。そんな彼女の視線の先で、驚きの光景が繰り広げられた。

Olは何の魔術も使わず、何事も無かったかのように腕を動かすと筆を取って札に部位を描いたのだ。

何で、所有権の無い部位を動かせるの!?

逆に聞こうか

ウィキアが言い咎めると、Olはニヤリと笑みを浮かべて言った。

所有権があるとはいえお前の身体を自在に動かせるのに、たかが所有権を持たぬ程度で何故自分の身体を動かせぬ、などと思ったのだ?

その言葉に、ウィキアは完全に自分の目論見がOlに露見していた事を悟った。

これは、反則じゃないの?

何故ダ?

悪魔にも問い返される。考えるまでも無い。相手に奪われたものを、魔術で動かしてはならないなどという規約は無い。ゲームの妨害をしているわけではないからだ。Olがウィキアの身体を所有しているからといって、その身体を使っての妨害は無いという事でもあるが、当てが外れてウィキアは落胆した。

筆を魔術で操るなら、魔力の流れを見ることは出来る。が、直接Olの身体を動かしてはそれはかなわない。魔力は空中ではなく彼の身体の中を流れ、外からは窺い知る事は出来ないからだ。

どうした。次は俺の攻撃の番だ。防御部位を提出しないか