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なんだい急に。失礼な奴だね、まだ六十八だよ

口さがないルヴェ辺りが聞けば誤差じゃんなどと言いそうではあったが、幸い冒険者として活動している孫娘は今日も元気に探索中だ。

ならば俺から見ればお前も小娘だ。俺の実年齢は九十をとうに超えているからな

はあ?なんだいその冗談は

レイユは思わず煙管に視線を向けるが、灰を落として火も消えた火皿からは煙の一筋も出ていない。

ふん、まあいいさ。それで、結局用意してほしいものってのはなんなんだい

鉄の腕と鉄の盾だ

Olが告げると、レイユは露骨に呆れた顔をした。

アンタ、こんだけアタシをやり込めといてそんなつまんないモノ要求すんじゃないよ!そりゃあ冒険者からは出ないだろうけどさ、出たら自分で使うだろうしね。だけどこう、もうちょっとわけのわかんないもの頼まれるもんだと思ってたよ

ほう。わけのわからないものを頼んでもいいのか?

Olの言葉に、レイユはうっと言葉を詰まらせる。

言うだけ言ってみなよ

そうだな。異世界に転移できるスキル、異世界から知るものを召喚するスキル、時間を巻き戻すスキル、スキルを無効化するスキル、スキルを同意なく奪うスキルああ、時間を停止させるスキルなんかもあればありがたい

聞くんじゃなかったよ

どう考えても存在しそうもないスキルのオンパレードに、レイユは頭を抱えた。そもそも異世界とは何なのか。

待てよ。アンタが望むものかわかんないけど、その中の一個だけなら用意できるかも知れない

しかしふと、あるスキルの存在を思い出し彼女は顔を上げた。

で、貨幣の製造方法ってのはどうやるんだい。そういうスキルでもあるのかい?

いや、もっと簡単な手順を用意した

Olは懐から四角い金属の塊を取り出す。上下の二枚の板が蝶番で接続されており、開くと下の板には中央に丸いくぼみがあった。

なんだいこりゃ

金型だ。これで鉄の鎧を挟んで、鉄でも銀でもなんでもいい。腕のスキルを持つ者に閉じさせれば、硬貨の出来上がりだ

つまりそれは正確には、鎧を硬貨の形に切り取る道具であった。表面を削らなければ、鎧の保護は消えない。端の断面が錆びないようにだけ、使用者の魔力を用いて保護魔術をかけるように出来ていた。腕を使えるような能力の持ち主であれば、一日一万枚作っても問題ない。

ところで先ほどの贋金を作った細工師を紹介してくれないか?特に要件があるわけではないのだが、あれほどの腕前には興味がある

アタシだよ

レイユが部下に命じてOlの要望の品を用意させている間、ふと尋ねてみると彼女はつまらなさそうにそう答えた。

そうそう、行き掛けの駄賃だ

無事に商品を手に入れ、互いに互いの品を確認した後、Olは去り際にレイユに声をかけた。

ハルトヴァンを潰してきてやる

第13話指導の成果を試しましょう-2

野郎ども!

50メートル四方はあろう巨大な部屋に、男のだみ声が響く。

真の強さとはなんだ!?

筋肉です!

そしてそれに続き、部屋をぐるりと取り巻くように囲んだ男たちが声を張り上げた。

真の男の証明とはなんだ!?

部屋の中心で叫ぶのはその言葉を裏付けるかのように、確かに筋骨隆々の男ではあった。

二メートルを超える身の丈に丸太のように太い腕、三つ編みにした太い髭。しかしそれ以上に、でっぷりと太った丸い腹をしていた。

一番強い男とは誰だ!?

ハルトヴァン様です!

熱の入った大合唱に、肥満した男ハルトヴァンは、両腕を振り上げて答えた。

レイユが言っていた通り、脳味噌まで筋肉で出来ていそうな男というわけでもなさそうだ、とOlは思う。

領民の数が最も多いユウェロイ、交易によって最も豊かな品物を持つレイユ。それに数が少なく領地も狭いハルトヴァンが伍してるのは、単純に一人一人が精強だからだ。そしてその精強さを支えているのが、ハルトヴァンのカリスマだった。

彼は少なくとも、大衆の乗せ方というものをよく知っている。

さあて挑戦者よ!知っているかも知れんがここのルールを説明させてもらうぞ!

低いくせによく通る声で、ハルトヴァンがOlに指を突き付ける。

スキルはなし、使うのは己が肉体のみ!それでこのワシに勝てば、今日からお前さんがハルトヴァン領の領主だ!逆に負ければ領民になってもらう!わかりやすかろう?

それはつまり、ハルトヴァンが無敗のチャンピオンであることを示していた。ブランでさえ、彼とのスキルなしでの戦いは避けているという事でもある。

その前に、偉大なるハルトヴァン殿に敬意を表して贈り物をしていいか?

ふっはっは!構わんぞ。今回の挑戦者は随分殊勝であるな!

Olの提案にハルトヴァンは鷹揚に頷く。ではとOlが指を鳴らすと、彼の立つ床が沈んでいった。

ぬおおっ!?

流石に驚きに目を見開くハルトヴァン。沈降は十メートルほどで止まり、巨大な部屋はすり鉢状の闘技場へと姿を変えた。

真の戦士が戦う場として、この方が相応しかろう

ぬっはっは!確かにこれは素晴らしい形だのう。我が民も戦いを見物しやすかろう

動くはずのない母なる壁が大幅に動いたことにさしたる動揺も見せず、ハルトヴァンはすぐに態度を戻す。

だが母なる壁を愚弄するかのような行い、見過ごせぬ!このハルトヴァンが成敗してくれよう!さあ、スキルを預からせてもらうぞ

悪いが戦うのは俺ではない

Olは懐から口の開いた革袋を取り出す。そして、その中からユグを引き出した。

この娘だ

Olがそう宣言した途端、熱狂的に声を上げていた周囲の男たちが、水を打ったように静まり返る。その様子にユグは怯え、身体を縮こまらせた。

ワシを愚弄する気か!?

それまでのにこやかで鷹揚な仮面を投げ捨て、ハルトヴァンが怒鳴る。

まさか体躯が大きいだけで、女がこのワシに勝てるとでも思っているのか!?

強さとは筋肉なのだろう?女でもこれだけ体格が違えば筋肉量では引けを取らんはずだ

Olがそう答えると、ハルトヴァンの表情は更に憤怒に歪んだ。

それとも女とは怖くて戦えないなんだ、ユグ

更に煽ろうとするOlの服を指先で引っ張り、ユグはかがんで彼の耳元で囁いた。

あ、あの、オーナーさん、まさかとは思うんですけど、今日言ってた実地訓練って

そう。ハルトヴァンが今日のお前の訓練相手だ

Ol以外には聞こえぬよう最大限になされた配慮を、Olは思いっきり無駄にしてはっきりとそう答える。

ぬっははははは!

それを聞いて、ハルトヴァンは呵々大笑した。

こんなに侮辱されたのは初めてだわい!女とて容赦はせんぞ!

そしてユグを睨み上げて両拳を打ち鳴らした。その迫力にユグはひぃっと悲鳴を上げてOlの影に隠れようとする。しかし三メートルが隠れられるわけもなく、その腰の引けた様子に周囲から罵声が投げかけられる。