ひろ、い
頭では理解していた。だが、そこが自分にとっても広い場所だという事を広い場所にいるという事がどういう事であるのかを、ユグはその時やっと実感した。
くそっ、油断した大した馬鹿力だ、お嬢ちゃん
その一方でハルトヴァンはきっちりと受け身を取り、全身に巡らせた気で落下のダメージを軽減している。と言っても無傷とは言えないが、まだまだ十分戦える状態だった。
だがもう今の手は通用
えっと、確かこう?
ハルトヴァンの言葉を遮るように、ユグはぐるりと身体を回して蹴りを放つ。それは、最初にハルトヴァンが見せた回し蹴りだった。
うおおっ!?
しかしユグの体格で放てばそれは大斧の一撃のようなものだ。とても捌く余裕などなく、ハルトヴァンは必死にそれをかわす。
動ける!
ぱぁ、とユグの表情が明るく輝いた。縮こまっていた背筋が伸び、視界が開ける。思いっきり身体を動かしても、どこにも当たらない。
すごい!
ぐっと拳を引き、まっすぐに放つ。少しだけそれを下に下げれば、ハルトヴァンの巨体であれば十分顔面を狙う事ができる。
見えないけど、なんかすごい!がんばれユグちゃん!
シィルの声援を胸に受け、ユグは矢継ぎ早に攻撃を繰り出した。それは全て、ハルトヴァンが見せてくれた技だ。
無論、精度で言えばお粗末なものだ。ハルトヴァンが愚直に繰り返してきた鍛錬は、目にしただけですぐに追いつけるようなものではない。ないが──しかし、ユグの体格と魔力をもってすれば、それは十分に通用する凶器となった。
ぐぅっ!
横から迫る柱のようなローキックを、ハルトヴァンは腕と脚でブロックして防ぐ。みしりと骨に響くような衝撃が走って、何とかそれでも倒れるのを堪えつつ一歩踏み込み裂帛の気合とともに鳩尾目掛け一撃を放つ。
だがそれは、今ハルトヴァンがやって見せたのと同じような形で、大楯のように構えられた腕によって防がれた。ユグが攻勢に回ることで、ハルトヴァンが見せる防御の技までが盗まれている。
拳技のスキルを使えば無用な努力と笑われながら、繰り返し繰り返し身体に染み込ませてきた技の数々。だからこそ、ハルトヴァンはそんな簡単に真似ができるものではないという事も知っている。
だがユグは、Olによって魔力の運用を隅から隅まで教え込まれている。それはつまり、肉体の構造についても感覚で理解できるようになるまで叩き込まれたという事だ。魔力の経路と肉体は密接に関係している。魔力を動かせば、肉体が動く。どうすればハルトヴァンのしている動きができるのか、ユグは理解できる。
それ以上に、彼女はハルトヴァンの動きをよく見ていた。彼女は生来の怖がりだからだ。その巨体で、ほとんどの攻撃に大した痛みを感じないにも関わらず、攻撃を怖がってしまう。それはつまり、攻撃を誰よりもよく見ているという事だった。
その性質が掛け合わされて、ユグは急速にハルトヴァンの拳を学習していっている。
そしてそれが──ハルトヴァンにとって不思議なことに、全く不愉快ではなかった。
むしろ彼が感じたのは、喜びだ。己の拳にこれほどの可能性があることに。自分の技術を学び、これほど強くなる存在がいることに。
参った!
それを認めた時、ハルトヴァンは自然と膝を屈し、そう宣言していた。
ワシの負けだ。お嬢ちゃんいや、ユグ殿。あなたこそ、真の強者だ!
ハルトヴァンの言葉に、戦いを見守っていた者たちがざわめく。不正じゃないのか、と誰かが言い、そうに違いない、女がハルトヴァン様に勝つわけがない、という声が上がり始めた。
ワシに恥をかかせるな!今の戦いは正々堂々とした、男のいや、男も女もない。まことの、よき勝負であった!それにワシは敗北したのだ
だがそれを、ハルトヴァンはきっぱりと否定する。流石に彼にそう言われ、面と向かって否定できる者はいないらしく、領民たちは押し黙った。
約束通り我が領地はお譲りしよう。者ども、祝福しろ!我らが領の新しき領主、ユグ殿だ!
え、ええええっ!?領主ってどういうことですか!?
ハルトヴァンが拳を振り上げるとそれはそれで感銘を受けたのか、領民たちが同様に拳を振り上げて雄たけびを上げる。ただの戦闘訓練としか聞いていなかったユグは戸惑い目を白黒させた。
ああ、それは面倒だから断る
だがOlはあっさりとその権利を投げ捨てた。
一日に二度も同じことを言いたくはないが仕事とは、最も適しているものが行うべきだ。この娘に領主が向いていると思うか?
Olが視線を向けると、ユグはぶんぶんと激しく首を横に振った。
ハルトヴァン領はハルトヴァン。お前が治めてこそだ。ここにいる者たちは、お前が最強だから、負けないからついてきているわけじゃない。お前が真の男だからついてきているんだ。そうだろう!?
Olが声を張り上げると、観衆はその通りだ!ハルトヴァン様!とそれに応じた。実際はハルトヴァンが負けないからその勝ち馬に乗っているという打算的な者もいただろうが、こう言われれば否定はできない。
うおおお皆、ありがとう!次は負けぬよう、我が拳を一層鍛えることを誓おう!
ハルトヴァンが拳を振り上げると、歓声が闘技場を埋め尽くす。
ところで、そんな化け物を育ててどうする気だ?
それに手を振って応えながら、ハルトヴァンはOlに問うた。領地が目的でないなら、ユグを成長させることにあったことは明白だ。実地訓練というのは冗談でもなんでもなかったのだと、ハルトヴァンは見抜いていた。
ブランにぶつける
本物の化け物ではないか
スキルなしであれば、ハルトヴァンも負ける気はしない。だがありでならば、どのようなスキルを使ったとしてもブランに勝てる気はしなかった。身体能力、魔力、そして技巧、全てでハルトヴァンはブランに勝てないからだ。
だがまあユグ殿ならば勝てるかもしれんな
腕を組み、重々しく頷くハルトヴァン。身体能力と魔力で勝てないという点では、ユグも同じだ。あとはブランを上回るスキルさえ身に着けられれば勝機はあるかもしれない
そう考える彼に、Olは端的にそう答えた。
第14話孤独な少女を救いましょう-1
んっちゅっんむ
あんっオーナーさまぁもっとぉ
次はあたしの番ですよ!
シィルさんはもうたくさん指導してもらってるじゃないですか
冒険者ギルドの奥、指導室と呼ばれる部屋の巨大な寝台の上で、何人もの女体とOlが睦みあっていた。すべて元は底辺冒険者だった女魔族たちで、かわるがわる精をねだっては、Olの唇や胸板、指先やペニスを舐めしゃぶり、少しでも多く寵愛を貰おうと身体を擦り付ける。
何をしているっ!