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流石に何十人もつれてこられるのは時間がかかるし面倒だからやめて欲しいですが、とブランは付け加える。もともとOlが自分自身で戦うなどとは思っていなかった。

では、この二人に戦ってもらう

現れたのは蹄族と翅族の少女ユグとシィルの二人であった。

一応言っておくが、この二人は鉄の盾と鉄の腕を持っている

わざわざ丁寧にありがとうございます

ブランにとってそれはどうでもいい情報だった。本当だろうが嘘だろうが関係ない。立ち居振る舞いを見ればどんなスキルを持っているかなどおおよそわかるし、それは戦闘の中で判断すべきことだからだ。

では、参りますか

その前にここは少し狭い。広げさせてもらうぞ

Olがパチリと指を鳴らすと、部屋がぐっと広がった。特に三メートルの天井が倍程度まで高くなる。おそらくはあの極めて大柄な蹄族を自由に戦わせる為なのだろうが

今度は、多少本気で感謝の念がこもった礼であった。

私もこの壁界は、少々狭いと思っていたのです

長い銀髪に隠れた翼がバサリと広がり、大きく羽ばたく。次の瞬間、バチバチと雷電を纏いながらブランの身体は宙を舞い、天井を蹴った反動でそこから直滑降していた。

落下の速度を追加した雷速の蹴りを、ユグが重ねた両腕で防御する。ブランの飛び蹴りを真正面から受け止めて、ユグは数歩たたらを踏んだ。

ブランは驚きに目を見開いた。今の一撃を受け、ユグがなお立っていることに。

盾を持っているとするならこちらの方だろうが、それは関係ない。盾スキルは有用だが、決して無敵のスキルではないのだ。対処方法はいくつもあるが、最も単純なのはこれ──無効化しきれない威力の攻撃をぶつけることだ。

一定以上の強さの攻撃を受けると、盾はその攻撃を無効化できなくなる。軽減するのではなく、持ってないのと変わらなくなってしまうのだ。それはちょうど同クラスの腕を用いて攻撃したときに似ている。腕などなくとも盾くらい当たり前に貫通できなければ、上層ではとてもやっていけない。

だがそれでも、今の一撃を受けてユグが堪えるどころか倒れすらしなかったのは少々予想外だった。おそらく盾以外にも防御系のスキルを二、三持っていると見た方がいいだろう。

そしてより厄介なのは翅族のシィルの方だ。今の一撃の間に、彼女はその小さな身を隠しブランの視界の外へと隠していた。鉄の腕を持っているとしたら恐らくそちらだ。あのスキルはそれがいかにも似合いそうな巨漢が使うより、むしろ小さく軽いものに使う方が効果が高い。

久々に使いますか、とブランは心中で呟く。彼女の持つスキル、従者LV10。技術系のスキルは極めると、奥義と呼べる技を使えるようになる。従者のそれは、主人と定めた人物の意思を察し、予測し、未来予知と呼んでもいい精度で対処することだ。

本来の主人たるフローロがそばにいる状態で他の人物を主人に設定することは流石に出来ないが、今の状況であれば問題ない。盾を持ちブランの攻撃を防ぐユグと、腕を持ち姿を隠したシィル、どちらの動向を伺うべきか。

──無論、考えるまでもない。主人に設定するのはOlだ。

この場で何をするか最もわからない人物であり、同時に戦況を最も客観的に把握している人間だ。彼の様子を伺えば、次に二人が何をしてくるのかも手に取るようにわかる。Olの視線が向かうのは、ユグの方。つまり仕掛けてくるのも隠れているシィルではなく、彼女だ。

えぇいっ!

大きく腕を広げ、掴みかかってくるユグ。盾持ちに掴まれれば逃れることは難しいから、それは確かに悪くない選択だ。だが、動きがあまりにも遅すぎた。ブランは引くことなく、逆に一歩踏み込みユグの懐に一撃を見舞う。

ぐうっ!

うめき声をあげ、しかしユグはその一撃にも耐える。呆れたタフさだった。それどころか痛みを堪えつつブランの腕を掴もうとしてくる。だがブランは雷速で拳を引いてそれをかわし、軽く跳躍して身体を回転させた。

ふわりと侍女服のスカートが広がり、その下から太い竜の尾が閃いてユグを鞭のように打ち据える。鋼のような鱗に覆われたしなやかな尾の一撃は、蹴りよりも鋭く鉄鎚よりも重い。

ううっ!

だがそれでさえも、ユグは倒れなかった。大抵の敵は一撃で倒してきたブランの必殺の攻撃を三度。防御スキルを使っているとか、頑丈だとかで済まされる問題ではない。明らかに異常だった。

Olの意識は、まだユグに留まっている。これだけ攻撃の隙を晒して、シィルが一切攻撃してこないというのもおかしかった。

もしや、と集中して気配を探る。すると微かに、その気配が感じられた。ユグの服の中、その冗談みたいに大きい乳房の間に。

治癒術、ですか

ブランの攻撃を三度耐えて平気で立っている者がいるとは考えにくいが、一撃ごとに回復しているのならば話は別だ。治癒術は高等なスキルで消費も大きいが、翅族は身体が小さい分スキル容量は大きい傾向がある。鉄の腕を使っているというのがブラフであれば、中癒辺りなら使えても不思議はない。

だが種が割れてしまえばあとは簡単だ。スキルを使えなくなるまで攻撃を続けるか、回復が追い付かないほどのダメージを与えるかすればいい。ブランは後者を選んだ。

バサリと翼を広げ後ろに跳躍し、雷身のスキルで身体に雷を纏う。周囲の空気がパチパチと雷気を帯びて爆ぜ、ブランの角が光り輝く。雷身は全身に帯びた雷気によって、一撃の威力と速度とを爆発的に増幅させるスキルだ。

自分自身さえその速度にはついていけず動きが直線的になってしまう欠点はあるが、ユグ程度の技量であれば問題ない。仮に防がれようとガードごと貫ける自信があった。

はぁぁぁっ!

火花の線を床に引きながら、ブランの身体が加速する。それを予測して両腕を構えるユグ。ブランが尾を地面に突き立てると、彼女の身体はぐるんと弧を描いてユグの側面に回り込んだ。強靭な尾を持つ鱗族だからこそできる、雷光を御する技。

文字通り必殺の一撃が、ユグの脇腹に突き刺さる。三メートルの巨体が折れ曲がり、くずおれて

そして、持ちこたえた。

捕まえ、ました!

驚愕に目を見開くブランの拳を、ユグが掴む。ブランの倍はあろうかという巨大な手のひらに前腕をがっちり握られ、振りほどけない。そこで、ブランは己の勘違いにようやく気が付いた。

ユグが異常に頑丈なのではない。自分が、弱くなっているのだ。

いくら驚いたとしても、普段のブランであれば盾持ちに掴まれるような失態を犯すはずがない。即座に蹴りを放つが、その威力は腕を掴まれていることを差し引いても明らかに威力を欠いていた。

ふ、封雷!

かくなる上は雷身を用いて直接電撃を浴びせ、いったん離れるしかない。そう考え迸る稲妻を、ユグの何らかのスキルが防いだ。爆ぜていた周囲の空気が一瞬にして沈静化し、ブランの身体に漲っていた力が消え去る。