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スキルの名からして、雷を封じるスキルだろう。それも恐らく触れている相手にしか効果がない。恐ろしく用途の限定された、しかしブランに対してはこれ以上なく刺さるスキル。

反転!

自身にかかるスキルであれば、ブランはその効果を反転することができる。ついでに自分にかけられた弱体化も反転させて、ブランは再度雷身を身にまとう。

がっ!?

そして、体内を貫く雷撃に、ブランは悲鳴を上げた。混乱する思考の中でOlの動向を確認し、理解する。封雷で封じられたのは、雷自体ではなく大気がそれを伝える力だ。

それを反転させればブランの肉体を含んだ大気は極めて電気を通しやすい状態となり、最も近くにいる存在ブラン自身を貫く。

だが無論、そうなればその雷撃はユグにも流れる。肌を焼く稲妻に彼女の力が緩んだ瞬間を見計らってブランは離脱し、体勢を整えた。弱体化を反転させたことで力は完全に戻っている。それどころか、弱体化をかけた側が弱くなっているはずだ。

それがユグであるにしろシィルであるにしろ、それに気づいて解除される前に倒す。相手が弱体化した状態であれば雷身を使わずとも十分可能なはずだ。突きを見舞うブランの前に、ユグの谷間からシィルが飛び出す。

鉄の腕の攻撃力。いや、それだけではない、とブランは判断する。何か隠し玉がある。だがどんなスキルがあろうと、それがブランの身体能力に優越するはずはない。彼女にはその自負があった。

小さな小さな拳を捌き、翅族を無視して蹄族から倒す。そうすれば後は消化試合だ。そう考えるブランの拳を、シィルは予想を遥かに超える疾さと鋭さで貫いた。

次の瞬間、ブランの身体は宙に浮いて吹き飛んでいた。地面を転がる身体を何とか翼と尻尾で押しとどめ、信じられない面持ちで前を見上げる。手のひらに乗ってしまう程度の大きさの翅族が、こちらに向けて拳を突き出していた。

そんな芸当、どんなスキルを持ったとしても出来るはずがない。まるで、ブラン自身の突きでも食らったかのような

ある思い付きに、ブランはOlを見、その思考を伺った。彼の視線と意思は、シィルとブラン、その両方に同じだけ注がれている。そこでブランはようやく、自分が何をされたか理解した。さっきまで受けていたのは弱体化ではない。

自分と相手の能力を同じにするスキルだ。

シィルはそれをずっと自分に使っていた。それは万全の効果を発揮してはいなかったが、しかしそれでも強靭な鱗族の能力を、小さく弱い翅族のそれに近づけていた。

そして今、ブランはそれを反転させた。つまり──今目の前にいるのは、鱗族の力を備えた翅族だ。

反転を解いたところで無駄だ。そうなれば今度はブランが弱くなるだけで、状況はむしろ悪くなる。雷身を封じられ、身体能力の差を埋められて、いかなるスキルも打破するはずの反転すら役に立たない。

彼女に残されたのは、後は拳の技だけだった。反転を解くかどうかを一瞬悩み、解かずに彼女は挑みかかる。同じ身体能力であれば、技の分ブランの方が強い。

雲霞の如く放たれる拳撃を、しかしシィルはことごとくかわす。虫のような翅で宙を自在に舞い、拳よりもわずかに大きい程度の体躯を捉えるのは至難の業であった。

そしてその背後から、ユグが大きく脚を振り上げる。後ろに引く、飛んで避ける。どちらもシィルに追撃されて手ひどいダメージを受ける。覚悟を決めて腕でガードするブランの身体を、ユグの蹴りが吹き飛ばして壁に叩きつけた。

まだまだぁ!

あらゆるスキルを封殺され、身体能力すら奪われ、拳技も通用せず、それでもブランの心は折れない。負けを認めなければ、屈することさえなければ、必ずその先がある。

ならば簡単だ。屈しなければいいだけだ。

おぼつかない足取りで、しかし闘志は微塵も衰えず、ブランは眼前の二人を見つめる。弱者と侮り、弱者であるがゆえにここまでブランを追い詰めた二人を。

だから、気が付かなかった。

足元から触手のように伸び、己を拘束する母なる壁に。

第14話孤独な少女を救いましょう-4

俺が介入してはならんというルールもなかったものでな

あなたはどこまで!

負傷し疲弊したユグとシィルを退場させた後、しれっと言い放つOlに流石にブランはキレた。

そうは言うが、お前はその可能性もしっかり考慮していただろうが

そうですが!

どれだけ心が折れなかろうと、全身を母なる壁で拘束されてしまえばどうしようもない。だが、ブランがユグとシィルの二人を認め、Olから注意を切った瞬間を見計らうあたりがどこまでも悪辣だ。どっちにしろあのまま戦っていてもブランの負けだっただろう事がわかるだけに、余計に腹が立った。

大体なんなんですか。あの相手の能力を自分と同じにするとかいうめちゃくちゃなスキルは

感染呪術だ

Olから飛び出した全く聞き覚えのない言葉に、ブランは首を傾げる。

シィルの奴は魔力量は豊富なくせに魔術の才能がからっきしでな。唯一モノになったのが、同期の呪い相手を自分と同じ立場に引きずり込む術だ

体格に恵まれ、拳闘の素質にも優れていたユグと違って、シィルの弱さはスキルや魔術でどうこうなるものではなかった。だが、それでも他者に負けまいとする心の強さ。それは呪いにとって最重要の資質であった。

わかりました。負けを認めます。さっさと好きになさってください

だらりと身体から力を抜いてため息をつくブラン。どうせ彼のやるのは無駄なことだ。彼がどれだけ快楽を与えようと、ブランがそれに屈することはない。ただ一晩やり過ごせばいいだけの話だ。

ではそうさせてもらおう

ぐにゃり、とブランを拘束する母なる壁が変形し、彼女の身体を動かす。天井から吊り下げられた状態のまま、Olに向かって高く尻を掲げるような体勢にされた。

ふむ。良い尻だな

あなたこそ良いご趣味ですね

ぺろりと侍女服のスカートをめくりあげるOlに、ブランは皮肉を飛ばす。尻尾で叩きのめしてやりたかったが、残念ながらそちらもしっかり拘束されていた。

そのままするりと下着を下ろされ、尻をじろじろと見られる恥辱にブランは身体を震わせる。

じゅっ、と焼きごてを当てるかのような音とともにOlの手がブランの腹に押し当てられ、身体を走る衝撃にブランは嬌声を上げた。

などうして?

今彼女が味わったのは、紛れもなく快感と呼ぶべき物。しかしブランが快楽を感じる事はないはずだった。なぜなら──

苦痛を快楽に変える術を、今お前にかけた