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その手のひらから淡い光が溢れ出し、その強さと精密さにOlは驚愕した。医療魔術を極めたものと思っていた自分の、遥か先を行く術式。

傷口と毒と体力を同時に癒す、驚くべき魔術そう、それは明らかにスキルではなく魔術であった。フローロの顔に赤みが差し、急速に呼吸が整っていく。

お前は

Olはその奇跡をもたらした女に見覚えがあった。いや、正確にはその声に聞き覚えがあった。

Shal?

かつてOlが洗脳し、支配した白アールヴの冒険者。

はい。お久しぶりです、Ol様

ShalはOlの記憶と全く同じ笑顔で、そう挨拶した。

Olが本体を封じたことによって大量の泡雫球はその増殖を抑えられ、サルナークやルヴェたちの活躍もあっておおよそ殲滅することに成功した。ブランもフローロに比べれば随分軽傷だったらしく、半ば無理やり転移させたことをOlはほんのりと咎められた。

しかしそんなことを気にする必要もないほど、事後処理は大変なものだった。

大量に発生した泡雫球によって多数の犠牲者が発生し、数少ない治療スキルの持ち主はその対応に忙殺されたからだ。

幸いにも本体以外の泡雫球の毒は治療が難しいものの致死性は低く、泡雫球自体はさほど強いモンスターでもなかったこともあって犠牲者はそれほど多いわけではなかった──どころか、正確には犠牲者はゼロだった。

Shalが蘇生したからだ。

Olとて蘇生の術は使えるが、それはあくまでOlの魔窟が集める膨大な魔力を使ってのものだ。今のわずかな魔力ではとても望める事ではない。

だがShalはそれをあっさりとやってのけた。あまりにも効率よく、洗練された魔術。それはOlの知る蘇生魔術とは根本的に異なるものだった。

それで結局、あの人はなんなんですか?

俺の元の世界の部下の、はずなんだがな

フォリオの問いに、Olは歯切れ悪く答える。最初は悲願である氷柱結界の解除に、彼女は喜んだ。彼女も持つ道具袋のスキルを強化すれば結界を解除できたのだから、スキルを育てるスキルを探していた彼女の見立てもあながち見当外れと言わけではなかったわけだ。

だがその中から出てきたShalに実際会ってみると、彼女の中で何かが違ったらしく、しきりに首を傾げていた。蘇生の奇跡に聖女のような扱いをされているShalを見ると、Olもそこは同じ気持ちだ。

あら。私の噂話ですか?

うわっ!

気配も感じさせずに姿を現すShalに、フォリオは飛び上がらんばかりに驚き翼をばたつかせる。

この物腰もそうだった。Shalは、Olが知る姿から随分と成長している。寿命の長いアールヴである彼女がここまで変化するには、相当の年月が必要なはずだった。

あ、あはは、すみません。アタシちょっとユウェロイサマに呼ばれてるの思い出しましたんで

そういってフォリオはそそくさとその場を逃げ出し、入れ替わりのようにShalはニコニコと微笑みながらOlの対面に座る。

それで。どうしてお前がこの世界で、結界に囚われていたのだ?

それは勿論、Ol様。あなたにお会いする為です

訝しげに眉をひそめるOlに、Shalは一から説明しますねと前置きした。

私がこの世界に来たのは──ザナ様。引いては、月の女神マリナ様のお導きです

氷の女王ザナ。月の女神マリナの加護を受ける彼女は、最善手を選ぶという特殊能力を持っていた。まだこの世界に来て数週間のはずなのだが、随分遠い過去の事のように思える。いや、時留結界の中で数か月過ごしたから、主観では実際それなりに遠い過去だが。

この世界でOl様にお会いするには、長い時を待つしかないそれが、マリナ様のお告げでした。ですから私は時止めの結界の中でお待ちし続けていたのです。あなたに見つけられ、結界が解かれるその時を

つまり、ShalはOlがこの世界に来るよりも遥か過去に飛ばされてきたという事らしい。元の世界とこの世界とで、時間が同期しているわけではないのだ。それは言い換えれば、こちらで帰還を焦っても仕方ないという話でもあった。

先ほどの娘フォリオがお前の解放を待ち望んでいたのは何故だ?一族代々の悲願だったらしいが

Olの問いに、Shalは首を傾げる。

おそらく、彼女の祖先に慕って貰っていたからだとは思いますが私がOl様に解放して頂くのを待つという話が、長い間に歪んでしまったのかもしれませんね

マリナの加護の欠点は、本人にもなぜその手段を取るのかわからないというものであった。最善手であることは間違いないが、それを選んだ結果何が起こるのか、どうしてそれを選ぶのかは誰にもわからない。故に、今の状況はShalにとってもOlに会えた事以外は望んだ結果ではないのだろう。

お前は本当に俺の知るShalか?

泡雫球が最後に取った姿。あれはおそらく、スライムに似たその姿からスピナを連想したOlの記憶を読み取ったものだろう、と彼は結論付けていた。残念ながら封じた部屋にもう一度いった頃には消えてしまっていたが。

仮にあのスライムもどきがスピナが作ったものであるなら、それがOlを攻撃することはけしてない。Olは弟子に対し、その確信を持っていた。なぜなら一度裏切った時に、魂の根幹にがっつりと攻撃禁止の令を彫り込んでやったからだ。

それと同様に、目の前の女がOlの記憶を読み取り成りすましている何かである可能性がないわけでもない。

そうですね。Ol様の知る頃の私とは随分違ってしまったかも知れません。私もこの世界でそれなりに苦労をしましたからあの頃みたいにOl様のおちんぽで、Shalのおまんこズボズボして欲しいですぅぅっとか言えばわかってもらえますか?

そういって、Shalは耳まで真っ赤に染まった顔を両手で隠した。

ごめんなさいもう流石にちょっと、素面だと恥ずかしいです

その反応に、Olはかえって警戒を解いた。記憶を読んでなりすますなら、Olの記憶そのままの姿になった方がよほど確実だ。このように記憶から数十年経った姿など取る必要がない。

元の世界に戻る方法はわかるか?

すみません

Shalは首を横に振る。彼女の目的がOlに会うことだけであれば、それは仕方のないことだった。その目的は既に果たされ、その先に続く糸を手繰ることはできない。

他の者はどうした?

その時、Olの脳裏にはかつて見た夢が浮かんだ。ユニスが、エレンの首を転がす夢だ。

長い時が必要だからお前が選ばれたというのであれば、エレンやセレスなどでも良かったのではないか?

そうですね。でも、あの方々には氏族を率いる役割がありますから。それとも、Ol様は私ではお嫌でしたか?

そういう意味ではない

くすりとからかうように微笑むShalに、Olは咳払いをして答える。

Shal様、少々よろしいですか?容体を見てもらいたい患者が来てまして

あ、はあい。ではOl様、またゆっくりお話しさせてくださいね