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それはこっちの台詞よ!

目に涙を浮かべ、リルは怒鳴った。

もう、何かうなされてるから起こしてあげようと思っただけなのに

うなされていた? 何か言っていたか

んその

汗を拭いながらOlが尋ねると、リルは言いよどんだ。

はっきりいえ

ラズ、って、言ってた

リルの答えに、Olはため息をついた。もう、何十年も前の話だ。そんなものを、彼は未だに引き摺っている。

師の、名前だ。俺が殺した

なんでもないことの様に言おうとする試みは、成功しなかった。

リルは何と返したら良いかわからず押し黙り、二人の間を気まずい沈黙が包み込んだ。

あー、これ何?

リルは露骨に話題を変え、Olの部屋にあった木彫りの人形を指差した。ゴーレムと言うには繊細で、大きさもOlと同じくらいしかない。おまけに服が着せられ、琥珀色のカツラまで被っている。

ああそれか。形代だ

カタシロ?

聞きなれない単語に目を瞬かせるリルに、見ていろと言ってOlは形代に手をかざす。すると、木の肌は見る間に赤みがかった人の肌の色になり、瑞々しい皮膚の感触を手に入れる。

大まかな凹凸しかなかった顔にも知性を示す瞳の輝きが生まれ、口や鼻が出来る。人形はあっという間にOlそっくりの人間になった。

何これ、全然見分けがつかない!

目の前で見ていたリルにも、どちらが本物のOlか見分けることは出来なかった。着ている服の違いで辛うじて判別できる程度だ。

この前の様に、俺が外に出るのは危険だとわかった。そこで、これを作った

原理は本物の肉体を動かしているのと大差ない。違いは、この形代はいざとなれば捨てて本来の肉体に戻れることだ

二人のOlが口々に喋る。

凄いね、これでOl二人分の仕事が出来るってこと?

純粋に感心するリルに、二人のOlは首を横に振る。

目の前でなら両方動かせるが、二人分思考したり、魔術を使ったり出来る訳でもない。あくまで偵察用だ。離れれば本来の身体は動かせなくなる

へーそうなんだ

リルは形代の方のOlを無遠慮にぺたぺたと触りながら少し残念そうに呟いた。

それより、わざわざ起こしに来たのは何か用があったのではないのか?

あ、そうだった

Olの言葉にリルは本来の目的を思い出し、彼に言った。

何か、妙なことになってるんだよねえ

Olの迷宮には、入り口が幾つもある。そのうち三分の一ほどは第二階層に直接下りる縦穴で、残りは第一階層に降りる入り口だ。

そのうち最も人里に近い入り口に、それは出来ていた。

何だ、これは

Olは思わず額に手をあて、呟いた。彼の目の前には木で出来た簡素な門。扉はなく、見張りもいないので誰でも通れる代わりに、大きな看板がついていた。そこには大きな文字でこう書かれている。

Olタウンへようこそ!

まあ、タウンって言うよりは村って規模だよね

そういう問題じゃない

ローブと帽子で角や翼を隠し、人間のふりをしたリルにOlは呻くように言った。

いつの間にこんな物出来たんだ

そう昔のことじゃないさ。つい最近だよ

Olの呟きに答えたのは、リルではなく若い男の声だった。

ようこそ、魔王の街Olタウンへ。歓迎するぜ、お二人さん。見たとこ、魔術師二人組みかい? 珍しい取り合わせだな

茶色い髪の男は人好きのする笑みを浮かべて近寄ってきながらそう言った。身のこなしからして恐らく冒険者、それも盗賊と呼ばれる類だろう。革鎧を身につけ、短剣を腰にさしている。

お前は何だ?

見るからに胡散臭いその男を睨みながら、Olは問うた。

おっと、こいつは失礼。俺はキース、あんた達みたいなこの町にはじめてくる人たちにちょっとした案内をしてるんだ。何せ、魔王のお膝元。物騒な場所だろ?これでもここじゃ、俺はちょいとばかり顔が知れてるんだ。どうだい、安くしとくよ

Olとリルはお互いに顔を見合わせた。信用できそうにはないが、かといってOl達を騙して身包みを剥ごう、などと言うほど悪辣な人間でもない。Olはそう判断した。

いいだろう。よろしく頼む

Olは懐から銀貨を一枚取り出すと、ピンと指で弾いた。放物線を描いて飛ぶそれを、キースは器用に片手でキャッチして口笛を吹く。

銀貨たぁ、気前がいいね。名前を聞いてもいいかい?

俺はテオ。こっちはラズだ

Olは偽名を名乗った。その口調に淀みはなく、リルは一瞬彼が嘘をついたことにも気付かなかったほどだったが、Olは内心舌打ちしていた。自分の偽名くらいは用意があったが、リルの分までは考えておらず咄嗟に出たのがその名だったのだ。

オーケー、テオにラズ。じゃあ、案内するからついてきな

キースは人懐っこく言うと、門を潜り町の中に入っていく。

ねぇ、ラズって

お前の名だ。ボロを出すなよ

小声で尋ねるリルに、Olはそれ以上の追求を避けるようにはっきり言った。リルはそれを察し、口を閉ざす。

Olが殺したと言う師匠。咄嗟に名前が出るような相手。それはどんな人で、Olにとってどんな相手だったのか。

そんな事を思いながら、リルはキースの背中を追いかけた。

この街は普通の街とはちょっと違ってな、一般の民家って奴は一つもないんだ

大通りを歩きながら、キースはそう説明した。

定住してる人間はそんなにいない。まあ、ざっと2,30人ってトコか?殆どが商人で、冒険者相手に何らかの商売をしてる。この街は、魔王の魔窟に挑む冒険者の為の街なのさ

道を行きかう者たちは、皆武装した冒険者達だ。そんな中、一応ローブを着て魔術師然とはしているものの、明らかに旅装ではないOl達は少し浮いていた。

入り口近くのデカい建物が宿。金の無い奴には無料で馬小屋を貸し出してる、慈悲深いマーサ婆さんの店だ。その向かいはオックスの酒場。最高の飲んだくれどもが集まる愉快な店だ。あんたも仲間が欲しけりゃ覗いてみるといい。メシもここか、後はそこらへんに出てる屋台だな

馬小屋?

リルが反復すると、キースは肩をすくめた。

ああ、食料なんかの仕入れに商隊が馬車でくるんだが、週に一度。それ以外は、冒険者で馬なんか持ってる奴は滅多にいないからな。だからケチや貧乏人たちは空いてる馬小屋の藁の中で寝てるのさ

体力は殆ど回復しないが、とりあえずは雨露は凌げる、とキースは言う。

宿の隣にあんのは娼館。ちょっと値は張るが、この街唯一の娯楽だ。ま、あんたにゃ必要ないかも知れんがね

キースはリルの、ローブを下から押し上げる豊かな双丘を横目で見て下卑た笑みを浮かべた。

そっちの通りは武器屋と防具屋、それに鍛冶屋が並んでる。ちょっとした刃こぼれや、簡単な修理なら鍛冶屋でやってくれる。完全に壊れちまったんなら、武器屋や防具屋だな