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Faroの指差す先、部屋の対面の壁には目の前にあるのと似たような扉があった。

あれが第二階層への扉だ。あれをあけるには、あそこまでこのキューブを焼き払うか、防御膜で中を泳いでいくかしないといけない

どちらにせよ、これだけの巨体だ。魔術で全て焼き払うことは不可能で、どうにかやり過ごすしかない。勿論、Olがそう設計し、スピナに命じて作らせたのだ。巨大な部屋の対面の扉が見えるほどの透明性には、Olも感心したものだった。

では俺が燃やそう

Olは印を組み、呪文を唱え始める。その後ろで、ウィキアがそっと彼の身体に触れた。形代には殆ど魔力を溜めておけない。だから、Olがこの身体で魔術を使う場合は、魔力をその身に宿した女達を傍に置く必要があった。

貯蔵量は、リル、ウィキア、Shal、ナジャの順といったところで、全員分を合わせれば一流の魔術師数人分の量は優にある。

Olが仕込んだ魔力と、彼女達が元々持ち合わせている魔力は、いうなれば脂肪と胃袋の中身の様なものだ。胃に詰め込める食料には限度があるが、すぐに栄養になる。脂肪は胃の中身をはるかに越えて溜め込めるが、自分の意思で使うことは出来ない。

焼け

Olが呪文を完成させると、炎が槍の様に伸びてキューブに穴を開けつつ、奥の扉へと届いた。

急いで! すぐに元に戻るよ!

腰のホルダーからピックを取り出しながら、Faroは走った。小柄な身体に相応しいすばしっこさであっという間に扉に辿りつくと、その鍵穴にピックを突っ込んでかちゃかちゃと弄り回す。

そうする間にもキューブの穴は、徐々に埋まり始めていた。傷が治っている訳ではない。何か餌を食べない限り大きくなることはないが、全体的に小さくなりつつも正方形を維持しようとする習性があるのだ。

開いた!

カチン、と音がして扉が開く。一行はなだれ込むように扉の先へと向かった。全員が扉の向こうに出たことを確認し、Faroはばたんと扉を閉める。再びカチンと音がして、扉の鍵が自動で閉まった。

ふぅここからが、第二階層さ。帰りは、向こうの扉に鍵がかかってないから楽なんだけどね。あと、扉は絶対に閉めるんだよ。前、くさびで開けっ放しにした馬鹿がいて、大変なことになったんだ

大変なこと?

なるほど、部屋の中から開けるときだけ鍵がかかるようにすると犠牲者を増やせるか。そんな事を考えながらOlが問うと、Faroは頷いた。

キューブの一部が迷宮に飛び出して、ゴブリンを大量に食べて巨大化。冒険者総出で焼き払ったんだけど、本当、大変だったよ

いいながらFaroは蝋石の様なものを取り出して、地面に円を描き始めた。手早くその縁に模様を描き、バックパックからガラス瓶を取り出すと、その中の液体を一滴、円の中にたらす。すると、魔法円が光り輝き、周囲から何も寄せ付けない結界となる。

これ、キャンプって呼ばれてるものでね、この陣を覚えて、この蝋石で書いて、聖水を一滴垂らすと簡単な結界になるって言う優れものなんだ。魔術屋で、銀貨10枚で1セット売ってるよ。さ、ここでちょっと休憩しよう

そういって、キャンプの中にFaroは腰を下ろす。それに倣って座りながら、Olはしげしげとそれを見つめた。Faroには魔術の素養はないし、彼女自身魔力を使ってもいない。ダンジョンの中に溢れている魔力を利用して防御結界を張っているのだ。

冒険者達の発想に、Olは感心した。

この階層から、敵が一層強くなるから気をつけてね。ゴブリンだのオークだの、ケチな連中は出てこない。第二階層は外郭と内郭に分かれてて、内郭にはリザードマンやハッグみたいな、人型の連中。外郭にはワイヴァーンやハルピュイア、グリフォンみたいな魔獣が出てくる。どっちも強敵だから、気を抜かないで

Faroが外郭と呼んでいる領域は、空飛ぶ魔獣の為にOlが用意した放牧区のことだ。地上から第二階層に直通の大穴がいくつか開いていて、そこから空を飛べる魔獣たちが迷宮に入ってくる。身体の大きな彼らの為に、大きな部屋を幾つも用意していたはずだ。

ただ、そう悪いことばかりじゃない。この階層には、友好的な魔物も結構な数いるんだ

友好的だと?

予想だにしない言葉に、Olは思わず鸚鵡返しに問い返した。

うん。特にリザードマンとか、ケンタウロスは割りと話が通じるよ。あっても刺激しなきゃ、戦闘を免れることは多い。運がよければ、交渉次第で呪具や情報を聞くことも出来るよ。お酒や食料が特に喜ばれるね

Faroの説明に、Olは内心舌打ちした。言葉が通じる魔物は比較的Olに従順だが、その分冒険者に与する者も多いという事か。かといって、一人ひとり従属の呪いをかけるわけにも行かないし、これはある程度仕方がないことかもしれない。

と言っても、大多数は敵対してくるから油断はしないで。中には友好的なフリをして騙し討ちを仕掛ける魔物もいるからね。外郭の魔獣は強いから出来れば立ち入りたくないんだけど、下に下りるためには絶対に外郭も通らなきゃいけない構造だから大変だ

直接、転移で下層にいけないのか?

Olは答えを知りながら、あえて聞いてみた。Faroは首を横に振る。

駄目。3層以下は、そもそも対転移結界がはってあるから転移できない。第二層までは、転移できるんだけどお勧めはしないね

毎日、形が変わってるから

端的にFaroは答えた。

コボルトやダンジョンリーチでっかい芋虫みたいなのが、勝手にダンジョンの形を変えてるんだ。お陰で、転移で安全な場所に行こうとした連中が、魔物の巣の真っ只中に放り込まれたり、酷いと石の中に転移してそのまま埋まって死んじゃったり、何てこともある。転移するなら、帰り道だけだね

それは有名な話なのか?

Olが尋ねると、Faroは首を横に振った。

仲間内では出回ってるけどね。わざわざ他人に教えてあげるような親切な奴はいないよ。それなりの腕を持ったパーティが意気揚々と転移して、二度と帰ってこなかった、何てのもよくある話さ

これは嬉しい誤算だった。一度知られれば使えなくなるような類の罠でも、ある程度冒険者の数を減らすのには有効と言うことだ。

さて、そろそろ進むとしよっか

パンパンと尻を叩きながらFaroが立ち上がる。形代を動かしているOlには体力の消耗はないが、回復もない。胎内のOlの魔力を利用して回復できるリルや、歴戦の冒険者であるナジャ達もまだまだ問題なさそうだ。

Olは頷き、結界を消して先へと向かった。

ここからは外郭。空を飛ぶ相手が多いから、よろしくね

狭い通路を抜けると、一気に天井が開けた。上を見上げると、はるか上に青い空が見える。他の場所に比べれば空気は澄み、明るい日差しが降り注いでいた。縦穴の一つだ。

Faroは弓を構えながら、後ろの魔術師二人に声をかけた。空を自由に舞う敵に対しては、魔術は弓以上に有効だ。