へえ、ただ手を繋ぐだけでも良いのあなた
キスはどうなの
え
あなたたち、もうキスぐらいは済ましているんじゃないの
黒縁眼鏡の下の瞳が、白坂さんを責める
ちゃんと答えなさいあるんでしょ、キスしたこと
は、はいあたしたちキ、キスしたことが、あ、あります、で、でも、
キスしてしまえば、次に進みたくなるのが自然の摂理でしょキスからセックスまでの距離はあっという間なんじゃないのかしら
女教師は勝利の笑みを浮かべた
で、でも、
いいわもしもあなたたちが今日から卒業まで、キスもセックスもしないと誓えるのならば、あたしは、あなたたちの恋愛関係を特例として認めてあげるわその代わり、もしキスやセックスを行った場合は、あなたたちにはこの学校から退学してもらうそれでどう
白坂さんと遠藤が、顔を見合わせる
ケンジできるよね
でも雪乃、それって
ケンジ、あたしたち、このまま付き合い続けられるかどうかの瀬戸際なんだよあたしはケンジのことが好きよケンジもあたしのこと好きでしょこんなことで別れるなんて嫌でしょ
それは、もちろん
なら、いいじゃない二人で手を繋ぐだけだって手を繋ぐのは手を繋ぐのはいいんですよね
白坂さんが女教師に問う
そうね手を繋ぐくらいは許してあげるわ
ほら、いいってそれなら卒業まで頑張れるじゃないそうでしょ、ケンジ
えっと
あたし、こんなんでケンジと分かれたくないッケンジが好きなのよッ
白坂さんの言葉がオレの心を抉る
オレの思いを殺す
あ、ああ判った判ったよ、雪乃
遠藤は複雑な顔をしているが、白坂さんの熱意に負けて同意した
じゃあ、誓約して貰おうかしらあなたたち二人は、高校生活を卒業するまで、高校生の本分を全うし、決してキスやセックスなどの性愛行為をしない清い関係を保つそれを条件に、あたしはあなたたちの恋愛関係を了承するいい
女教師の暗い瞳が、白坂さんを見下ろす
せ、誓約します
あなたは
遠藤は一瞬躊躇したが、それでも最終的には覚悟を決めた
ぼ、僕も、誓約します
不思議な時間だった禍々しい、恐ろしい時間だった
なぜ、この女教師の不可思議な雰囲気に取り込まれてしまったのか、誰にも判らなかった
論理的にも倫理的にも許されないはずの誓約をなぜか、クラス全員の前で白坂さんと遠藤は行ってしまった
オレは強制的に見せられてしまった
白坂さんと遠藤の愛の誓いを
オレは、オレは、オレは
壊してやりたい
この誓約を
踏みにじってやりたい
この愛を
そう思った、心の底から
ホームルームはこれで終りよそうそう、男のクラス委員は昼休みにあたしの部屋まで来てちょうだい
女教師がオレを見る
そうかオレ、クラス委員になったんだ
少し、あなたと話ししたいことがあるから
弓槻先生は、そう言って思わせぶりにフフンと微笑む
あなたも、あたしに話したいことがあるんじゃないの
オレは
邪悪な思いが、オレを包んでいく
なかなかエロ・シーンに行かなくて済みません
もうちょっとすれば、後はエッチ場面の連続になる予定なんですけど
5.罠の支度
ホーム・ルームが終わり、弓槻先生は教室を出て行く
瞬間教室中は、緊張感から一気に解放された
一時間目は本当ならこのクラスの前の担任の三枝先生の授業(化学)だったけれど、急に三枝先生が2年生の担当になってしまったので急遽、自習ということになった
教師がいなければ生徒たちは自由に口を開く
はぁぁ、何かすっごい怖い先生だったわね
つーかさ、滅茶苦茶だよ、あの人
そう思うんなら、何でお前、抗議しなかったんだよ
そう言う、お前こそ
できるかよあんな黒魔法使いみたいな先生
うん何か、とにかく不思議な雰囲気があるよね
暗いっつーか、冷たいっつーか
そうそう
いなくなった途端、みんな口々に勝手なことを言う
でもさ、雪乃ちゃん、スゴイよねあの先生に正面から立ち向かっちゃうんだもの
うんうん、格好良かったよ
白坂さんを賞賛する言葉が続く
こんなの全然スゴくないよあたしも、ホントは怖くてたまらなかったもの
でも、ちゃんと抗議してさ自由恋愛を勝ち取っちゃったじゃない
勝ち取ったってそういうんじゃないわよ
白坂さんはちょっと困り顔だ
でもさ、白坂さん以外のさケイちゃんや、菊池さんだって彼氏いるでしょみんな、どうするのあの先生の命令通り、今日中に別れるの
眼鏡をかけたちょっとグラマーな女の子、浜松さんが、そんなことを尋ねた
まっさか別れるわけないじゃん
と答えたのは、テニス部の富沢ケイさん確か、彼氏は男子テニス部の2年生のはず
あたしだってそうよそんなのさ、あの先生に見つからないように、こっそり付き合ってればいいのよあたしなんて、中学の時からの相手だし同じ高校へ来たけれど、クラス別になっちゃったし付き合ってる人が違うクラスなら、あの先生の言うことを聞く必要なんて無いでしょ
と、言うのは菊池聖子さん
そうだよ雪乃ちゃんだって、先生との間に波風立てないで、黙ってこっそり付き合ってれば良かったんだよ
浜松さんがそう白坂さんに言った
ところが白坂さんは
あたし、そういうの嫌なのっ誰かを好きになるって、とても大切なことでしょそういうのを誤魔化したり、隠れてコソコソするのって、自分をだますみたいで、とっても気持ちの悪いことだと思うの
うわっ、雪乃ちゃん、それってレンアイに対して、ちょっと潔癖すぎるんじゃないの
別にいいでしょ、潔癖症で人生も高校生活も一度きりなんだものあたしは、後悔したくないのよ
断言する白坂さん
この真っ白な心がオレには眩しすぎる
じゃあ、あの先生との約束、白坂さん、本気で守るわけ
もちろん
えーっ、卒業までキスもエッチも無しなんだよ
仕方ないわね
こっそりすればいいじゃないキスだってエッチだってさ
そうそうあの先生だって、まさか処女検査までしたりはしないでしょうし
女性陣がキャッキャと笑う
ほほーんなあ、処女検査ってどんなんだよ
うんうん、どんなんだよ
横から女生徒たちの話を聞いていた小林と大宮(旧連れションマンズ)が茶々を入れてきた
そりゃあやっぱりアレじゃないのお、小林くーん、大股開きさせてムスメさんの処女膜の有無を目視で確認