確かに、部屋が幾つかと、ずっと奥に通じている通路がある
オレとマルゴさんは、克子さんの専用室の前で二人の着替えを待つ
渚さんが先生の玩具を抜けた後、街でお花屋さんをやっているという話は覚えているよね
マルゴさんが、オレに話し掛ける
うん、確かにそんな話だったと思う
お花屋さんというのはね、穏やかそうに見えて、色々と利権が絡んでいるんだよ
利権ですか
うん例えば、結婚式場とか、葬祭場とかと専属で契約したら、確実にたくさんの収入が得られるよね一年中、たくさん花が必要な場所ってのはあるわけだから
ああ、なるほど
だから、副業で花屋をやっているヤクザさんというのも結構いるわけ冠婚葬祭や儀式には、あの人たちはやたらと食いついてくるから
なるほど
この学校の入学式や卒業式に使う花は、全て渚さんのお店から買っているはずだよ
じゃあ、ヤクザさんはその利権を狙って
マルゴさんが、クククと笑い出す
そんなわけないだろっ学校に卸す花の代金なんてたかが知れてるじゃないか
違うんですか
数年前に、駅前に大きなホテルができたよね
二十階建ての、アレですか
うん渚さんのお店は、あのホテルと契約している弓槻先生は、あのホテルの大株主なんだ
先生、引退した玩具のために、そんなことまで
ミナホは、決して玩具を捨てない彼女にとってはあくまで、出産した玩具が自分の手を離れて独立しただけのことだから
玩具である同時に子供なんだよユヅキ・ミナホは、お母さんがやりたい人だから
お母さん
克子さんがメイドを、寧がお姉ちゃんをやりたがってるみたいにね
それぞれが何かになることを望んでいる
あっ、覚えておいてこの学校の中で、この地下通路だけは隠しカメラも盗聴マイクも無いんだここは、絶対にあたしたちしか使わないからもしも、ミナホに聞かれたくない話があったら、ここでするんだよ怪しまれないように、できるだけ短くね
マルゴさんは笑って、そう教えてくれた
おっ待たせぇぇーっ
克子さんの部屋から、着替えた二人が出て来る
寧さんは透けたピンク色のワンピースに、籠のバッグ
足は編み上げの革のサンダル
何か、ハラジュクとか歩いてそうな、カッコ可愛い美少女モデルって感じ
多分、この服ってブランド物なんだろうなフランスとかの
すっごい大人っぽいんだけど、高校生らしい瑞々しさもある
この人、ファッションセンス、抜群なんだ
どおどお、似合うっ
はいっ、とっても似合ってますっ
んーっヨッちゃん、大好きっ
ね、寧さん、抱きつかないで
お願いだからっ
あたしは、こんな感じですけどっ
克子さんは、ぴっちりとした黒いパンツに白いシャツ
首元に大きなトルコ石のネックレスをしている
足下はやっぱり黒のパンプスで
基本的に黒白が好きなんだな、この人
でも、今までのメイド衣装や、スーツ姿と違って、二十一歳の普通の女性らしい姿を初めて見た
何か、とても頭の良い女子大の学生さんみたいでこれも良いッ
似合ってるよ、克子さんはもっとそういう格好をした方がいいんだよ
と、マルゴさんが言うと、克子さんは、
では、マルゴ様ももっとスカートをお履きになるべきですわっ
と、やり返した
あたしは筋肉質で、太い足を晒すのはよくないと思って
そんなことないってマルちゃん、アスリート体型でキュッと締まってるんだから、むしろ世の中に見せつけてやるべきよっヨッちゃんも、そう思うでしょっ
うんむしろ格好いいと思うアクション映画の女スパイみたいで
参ったな
マルゴさんは照れていたが、まんざらでもない様子だった
地下通路は、天井が低くて狭かった
まあ2メートルぴったりぐらいだから、頭を屈めて歩く必要は無いんだけど
長身のマルゴさんは気を付けて歩いている
幅は1メートルくらいかな二人で並んで歩くのは無理だ
5メートルに一個ずつくらい、足下灯が点いていた
辿り着いた先は教職員用の駐車場の外れにある、倉庫だった
その内部は、秘密のガレージになっていた
って
何、この高級スポーツカー
これこれっマルちゃんの青い車っ
そこには、でっかくて流線型でトンガった車がデデーンと鎮座していた
あたしの愛車だよ、マセラッティ・グラントゥーリズモS
すっごいですねぇ
いや、大人が四人乗れて速い車だと、案外選択肢が無いんだようちの場合、二人乗りで荷物が積めない車は使えないから
マルゴさんは、それが当然の様に言った
フェラーリですと、二人乗りしかありませんからっ
だからって、ベンツやBMWだと、普通すぎてつまらないだろ
あら、あたしのBMWは最高ですよっ
克子さん車とバイクを一緒にしないでよ
マルゴさんが、克子さんに苦言を言う
とにかく乗って、吉田くんと克子さんは後部座席ね寧は助手席
やったぁっ
四人乗りだけど2ドアなので、オレと克子さんが先に乗る
運転席の後ろがオレで、助手席の後ろに克子さんだ
シートを直して、マルゴさんと寧さんも座る
ちょっと待って、今、外の様子を確認するから
マルゴさんは、車載のモニターでガレージの外の様子をチェックする
うん、誰もいない行くよ
リモコンでガレージのシャッターを開く
外の陽光が眩しい
行くよっ
ドゥルルルルルンッッッ
グァッッッ
ギャルルルルルルルルンッッ
うっひぃぃぃっ
かっ、神様
どうして弓槻先生の廻りには、急加速・急発進する人しかしないのでしょう
すぐに車は、学校の敷地をドドドと通り抜けたそのまま、ズババと街の方へ
で克子さんたちのターゲットは、今どの辺にいるの
マルゴさんが尋ねると、克子さんはノートパソコンを開いていた
1時半に駅前で待ち合わせをしたんですけれどあ、携帯の位置情報が判りましたファッション・モールの前辺りですね
了解っ
マルゴさんが、その方角に車を走らせる
土曜日の午後だ、駅前の人通りは多い
助手席から、寧さんがキョロキョロと誰かを探している
あっ、いたっ
ターゲットは、発見できたらしい
吉田様、ちょっと隠れていて下さいっ
克子さんは、オレに置いてあった厚手の毛布を被せて、運転席のシートの裏に押し込む
ちょっと、克子さん
外の様子は、これで見えますから
克子さんが、小型の液晶モニターを渡してくれた
なるほど、外の様子が映っている
どうやら、克子さんのネックレスにピン・ホールカメラが埋め込んであるらしい
舞夏ちゃーんっこっち、こっち